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浮き島  作者: 塩辛
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第十話 小さな旅

 ゴーレム温泉のある村ドン。静かな森を開拓し、大地の精霊に護られ、恐怖の一分を乗り越えてこの村は大きくなった。

 ゴーレム、温泉、大地の精霊を(まつ)った美しい水の遺跡、魔法のハンマーによる儀式、静かで豊かな森、川魚、狩猟で捕れる新鮮な肉、モンスターも少なく農作物が育てやすい土地。

 人が暮らすのにこれ以上ない場所だ。村人たちはここが大きな街になっていくことを確信している。開拓者冥利に尽きると誰もが笑った。


ドン「湯治(とうじ)を売りにした観光施設を作るんだ。すぐさまズウリエル公爵にも見て貰わねば! 物資だけじゃない、今後は技術が必要だ」


 開拓の大成功と温泉のことを綴った手紙は、これから旅立つリサとドラゴンに託された。


クラリス「まずは行ってすぐ帰ってくるだけです。ズウリエル公爵は話のわかる方ですから、ホワイト様のことも受け入れてくれましょう。もし彼がこの村に来るとなったら、護衛してあげて下さい」


『承知した、任されよ。ではリサ』


リサ「えへへへ。みんな、行ってきます」


エイサ「いいなあ、リサばっかり」


アーチー「戻ってきたらまた空の散歩をさせてくれよ」


ポリー「リサ、空は寒いから気を付けてね」


マリー「ブリストルのお土産持って帰ってね」


イートン「ねーちゃん、ばいばい」


セシル「はーあ、普通は勇者がドラゴンと旅をするもんなのに」


コナン「なんだ、お前は冒険者にでもなりたいか」


セシル「そりゃあそうだろ。永久に名前が残る伝説が目の前にいるんだぞ? チャンスがあったらついていきたいよ」


『構わぬぞ、貴様も来るか?』


セシル「本当か!? じゃあ戻ってきたら連れてってくれ!」


ドン「ダメだ。ただでさえ家が壊れまくって人手が足りんのだ。お前好みの美人の嫁を見繕ってやるから村の再建に励め」


セシル「むむむ、それも悪くない条件だな…………」


『ふっ…………村の長ドンよ、貸しを返すのはしばらく後になる、許せ』


ドン「なぁに、構いません。村に居着いて貰おうかとも思っていたが、もう少しいいことを思い付いたので。それより、旅の無事を祈ってます。雨雲には気を付けて」


『うむ』


ドスドストットットッ ばさっ!


 リサといくらかの荷物を掴んで山から飛び立つドラゴンを、村人全員が見送った。


ドン「…………それにしてもクラリス、本当にいいのか? まだ10歳の女の子だぞ? 親バカかもしれないが、リサは間違いなく美人になる顔だ。そんな子をドラゴンと一緒とはいえ世界中を回るだなんて」


クラリス「あの子の面倒を見るのは疲れたのよ、というのが私の本音。

 けど、こうなることは定まっていたの。大昔のことだからすっかり忘れていたけど…………それに、あの子は世界を見ておくべきだわ。もしかしたら…………いえ、やめましょう。それよりほら、早くみんなの家を造らなくちゃ」


 それからというもの、村人たちは温泉に入って疲れを癒しつつ、村づくりに精を出していった。






──高さ300ft(91.44m=Statue of Libertyとほぼ同じ)


 ドラゴンは上空何万ftでも耐えられるが、リサは人間だ。気温にもよるが、今はせいぜい1000ft(304.8m)が限界の高さである。

 速さにも気を配らなければならないのに、最低でも60km/hは出さないと安定して飛べない。ただ、このくらいならまだ生身の人間でも耐えていられる。

 現状は背毛(せなげ)にすっぽり隠れることもできるので、いざとなったらもう少しは速く飛べるが、ドラゴンに攻撃を仕掛けようという愚かなモンスターは存在しない。


 ドラゴンにとってはそこそこ神経を使う飛行になっていたが、友のためと思えば苦痛とは感じなかった。

 それに、こうやってゆっくり翔ぶのはあまりしなかったことだったので新鮮さがあった。


 リサはもふもふの背毛(せなげ)に身を寄せて、遠くまで続く山並みを眺めている。


リサ「綺麗…………。けどこのあたりって本当に山と森だらけね。湖くらいあっていいのに」


──と、1時間半ほど飛んだ先で湖は見つかった。ブリストルの街にあるブリストル湖だ。

 それにくっつくようにお城と城下町があり、全体は外壁に囲まれている。外壁のいくらかは剥がれて壊れていた。


『あの壁にある門の前だったな?』


リサ「うん、検問所を通りなさいって。時間もかかるから北門のそばに降りるといいって言ってた」


『うむ。来た方角から草がなくなっている筋が見えるが、あれが道か…………恐らくあの先だろう』


 目星をつけた先に向かって降りる。そこはちょうどブリストルの北門の近くだった。

 門番たちが白い鳥の登場に慌てて鐘を鳴らした。


『歓迎するのはいいが、もう少し静かにやってもらいたいものだ』


リサ「違うわ、みんなびっくりしてるの。いい? 攻撃されるだろうけど反抗しちゃダメよ?」


『うむ、これからたくさんの人と出会うのだ。多少は慣れねばな』


 二人が会話をする間に、ブリストル衛兵隊が続々集まってきた。

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