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研究男と迷子女

作者: 癸杜

もう片方も完結させたいな。…3年経ってるけど

「あー、オープンキャンパスか…」

俺は夏休みだというのに人で溢れかえる構内を一瞥して眉をしかめた。

研究室までの最短ルートが生徒でごった返している。

これではこの道は使えない。

混乱を回避すべく普段は使わない少し遠回りなルートを選ぶことにした。

トータルで見ればその方が速い事は間違いない。



予想通り、と言うべきか表通りから少し外れた職員用通路は閑散としていた。入り組んだ道にあって学生でも迷いやすいこの道だが、俺は完璧にマスターしているので問題はない。

早く研究したい、という欲求が体を動かす。研究室までの時間を短縮するべく、走り出したその瞬間ーーベンチで座る少女と目があった。困った顔で脚をぶらぶらさせる彼女はどう見ても厄介事を抱えた様子。


申し訳なくもないが研究の為に犠牲になってほしい。

見なかったことにして先を急ぐつもりだった。だったんだ…!

ーーー袖を引っ張られる事さえなければ。

「助けてくれますよね?」

「…??ニホンゴ…ワタシ、ワカラナイ」

「助けてくれますよね?」

「………」

彫刻のように整った笑みが有無を言わさぬオーラを発している。可愛いはずなのに、怖い。


ーーーーー

彼女の可愛さに負けて、入り組んだ道の案内役を務める。やはり彼女は迷子らしかった。聞けば自他共に認める方向音痴であるとか。

「おい、誰だこんな指定危険人物を監視なしで放り出したのは」

「聞こえてますからね」

「気のせいだ」

「何が気のせいなんですかね?」

泣く泣く研究室に行くのを諦め、彼女をオープンキャンパスの受付である食堂まで連れて行く。


「君は」

「舞梨です」

「マイナス?」

「ま・い・な・しです!舞梨美鈴」

「OK、完全に覚えた。

舞梨は興味のある学部はあった?」

「なんで学部?…あぁ、なるほどー工学部です。」

「お、同輩か」

「先輩ですか!」

「まあ1年と会う機会ほとんどないと思うけどな。

俺は来年4年だし。」

「ちなみに専攻は?」

「電電」

「ここまで同じだと気味が悪いですね。まさかストーカー…?」

「フッ…運命、だろうな」

「やだ、私の先輩ロマンチストすぎ…?」

「悪い、今のは俺も引いたから…な?その生暖かい目をやめろ」

受けたダメージは、とても大きい。けれどもそれは俺だけのモノではないらしく、だから舞梨は次の提案をしたのだろう。

「さて先輩、私の心は凍てつきました。」

「はい」

「解凍の為に余分なエネルギーを使った気がします」

「気がするならセ「よって!」

「先輩は私をご飯に連れて行くべきではないでしょうか?」

逡巡する。ここで断っても彼女は引くことはないだろう。渋々と残された選択肢を選ぶーーといった感じを演出する。

「…あーわかったよ。でも今日は無理だ。今度会った時でいいか?」

ちょうど食堂に着く。スタッフに事情を話し彼女を任せる。

「絶対ですからねー」

スタッフに連れていかれながら訴えを響かせる彼女に返事のつもりで手を振って応える。

まあ会わないだろ。


そんな確信に近い予測を追い風に俺の足は軽やかなステップを刻んだ。

だって研究室に基本引き篭もるからな!


ーーーーーー

4月になった。単位を落とすことなく無事に進級した俺は恒例となった研究室の新入りさん発表会に出席していた。嫌な予感がする。冷や汗が止まらないのは何故だ。


「あ、先輩ー!」

元気よく手を振る舞梨の姿が見える。幻覚かな?

「よろしくお願いしますね、先輩」

ニコニコと微笑みながら彼女は俺に語りかける。

むにむにとほっぺを触る。ふむ、本物である。

「先輩の気持ちを当てましょう。ズバリ、お前なんでここにいるんだ、ですよね」

「…編入生かよ」

行き当たる可能性は1つだった。

「ふふっ、私、オープンキャンパスの為だなんて一言も言ってないですからね」


バイバイ平穏な日々。よろしく騒がしい日々。

確実に大変な毎日が待っているだろうに顔は不思議と笑みを浮かべていた。

「よろしく舞梨」


春の爽やかな風が新しい日々の始まりを告げるように一陣、吹き抜けた。



読んでくれてありがとねー。

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