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未知のエリアの探索

 注文をした後、テーブルに水の入った赤銅のゴブレットが置かれ、ムース嬢はカウンターの奥に見える厨房に引っ込んでゆく。

 そして、機甲剣を付けたままだと食事する時に不便だと気づく。

 ゲームでは席に座った瞬間、武器は透明になり素手で食事を始める使用となっていた。だが現実となった今では、席に座っても武器は透明になる不思議現象は起きない。

 そのため、とりあえず外した後に何処へ武器を置けばいいかをムース嬢に確認する。


 「ムースさーん。機甲剣外したいんだけど、どこなら置いていいー?」


 椅子から立ち上がり、それっぽい棚を見つけるも勝手に置いて良いものか分からず、暫くウロウロと歩き回っていると、奥からムース嬢がパタパタと小走りで駆け寄って来た。


 「そこの棚になら何置いても大丈夫ですよ。では少々お待ちくださいね」


 そう告げると再び厨房へ戻り、具材の調理作業を進めてゆく。

 やはり見つけたそれっぽい棚で大丈夫だったため、機甲剣を片側づつはずし棚に納めた。


 席に戻るといつの間にか金属製のコップが置かれており、その中にはレモン水が注がれていた。

 レモン水の爽やかな酸味と皮の僅かな苦味。口の中がサッパリとする味を楽しんでいると、注文した料理が運ばれてきた。


 それは自然食材がふんだんに使われ、転移する前の高級自然料理(ジ・スロウフード)と同じような見た目であり、える氏がメガバスを始める切っ掛けになったものだった。

 転移する前の現実ではバイオ技術が発達し、合成食材の下味付き肉や野菜類が安価で売られており、それを買って調理していた。

 合成肉の見た目は四角く均一に切り揃えられており、野菜類は丸いシート状であったりスティック状で自然野菜の形に似せて作られていた。


 「……すごい。こんな綺麗な料理が食べれるんだ……!」


 ゴルゴンゾーラチーズの濃厚な香りが立ち上る皿を見つめ、ゴクリと唾を飲み込む。それを見たムース嬢はクスクスと笑い、一言告げて再び厨房へ戻ってゆく。


 「暖かいうちにお召し上がりくださいね」


 それを聞き、慌てて脇に添えられたフォークを手に取り、クルクルと太めの平麺を巻き付け1口食べる。


 「んんうぅ~~~! ………んまぁひ。んふ、んふふ♪」


 まるで恋に落ちた様な蕩けた顔で、1口また1口とゆっくり食べ進め、憧れの高級自然料理を楽しんでゆく。

 ゲームの時には出された瞬間に暗転し既に食べ終わっていた。だが現実となった今では自分のペースで楽しめ、再びこの世界に来て良かったと確認した。



 その後、サービスでフルーツポンチの小鉢が出されそれも楽しんだ。

 夢心地で食事を終え、その興奮を落ちつかせるようにクピクピとレモン水を飲み、確認するべき事を思い出しハッとする。


 「ごちそうさまでしたムースさん。ちょっと確認ですけど、食材の調達ってどうなってます?」


 そう聞かれたムース嬢はパチパチと目を瞬かせた後、カウンターの裏へと回り何かの機械を操作しながら答える。


 「え~っと。2階の屋内農園と畜舎も加工施設共に通常稼働してるので問題無いですね。何かあったんですか?」


 そう答えられ、ゲームでは語られなかった衝撃の事実を知った。

 8チャネルの掲示板では、2階以上はNPCの居住区と素材等の倉庫になっているんじゃないかと考察されており、施設だけで自給自足出来るとは一切考えられていなかった。


 「えっ……と。そんな施設あったんだ、知らなかった」


 そう思わず呟くと、意外そうな顔で向き直りムース嬢が更なる衝撃発言を繰り出した。


 「あら、知りませんでした? 中の見学とかしてみます? 3階から上は私室等あるので見せれませんけど……。」


 「良いんですか! ぜひ見させてください!」


 若干食い気味に返事をし、未知のエリアへの探検に心を踊らせる。


 


 

~◆~


 「ここが屋内農園です。左側の温室が水耕栽培で、右側の温室がファブリック栽培となってます」


 そう説明され、右側の蜂の巣状に並ぶ小窓を覗き込む。

 その小窓の中には様々な茸が種類毎に分けられ栽培されており、底にある緑色の分厚いフェルトから生えていた。


 「ムースさん、ファブリック栽培ってどういう栽培なんですか?」


 見ているだけでは分からず、ムース嬢に質問を投げかける。元の世界では見たことのない菌類は、地味な色合いなのだが何処か可愛らしく見え、える氏は妙に気に入ってしまった。


 「えーっと……。ファブリック栽培は布やコットンフェルトを使った、土や木を使わない栄養液による栽培方法ですね。土の粒での傷や病気の予防ができますよ」


 そう説明され、この緑色は栄養液の色なのだろうと納得し、ひと通り栽培風景を眺めたあと次の部屋に移動する。


 廊下は板張りになっており、壁は赤系統のゴシック調壁紙が張られている。天井は様々なパイプが張り巡らされ、所々のパイプから照明器具が生え、廊下を明るく照らしていた。


 そこをトコトコと5mほど歩いてゆき、次に見る部屋のドアを開いた。

 そのドアには屋内畜舎と刻印されており、中から動物の声が聞こえてきた。


 「ここが屋内畜舎です。先程食べた幻妖鳥の他には白雪豚、水踏鹿、砂這魚、尾棘竜が飼育されてますよ」


 そう説明しながらムース嬢は部屋に入っていく。それらの生物は、える氏が食材捕獲クエストで捕まえたモブモンスターであった。


 「へぇ~、こんな風になってるんだ。結構清潔な感じ」


 その部屋は各食材モンスターがテラリウムの部屋で分けられ、動物園地味た空間になっていた。

 幻妖鳥は霧が立ち込める森林に、白雪豚は草花と雪に覆われた雪原に、それぞれの生態系に調えられた部屋に数頭ずつ管理されている。

 そこで、える氏はある事に気づいたので確認する。


 「そう言えば、排泄物の処理ってどうやってるの?」


 そうムース嬢に尋ねると、何かを探す様に辺りを見渡し、丁度見つけたモノを手で指しながら説明を始めた。


 「あんな感じでオートマタが集めて、集めたのは処理施設で燃料になってますよ。」


 そう言われながら見てみると、砂這魚の砂漠風テラリウムの奥から蛍光グリーンの作業着を着た機械人形が入ってきた。

 そのオートマタはスコップとバケツを持ち、少し色の変わった砂をすくい上げてバケツに入れてゆく。

 数回その作業をした後バケツを取り替え、適当な所に中に入っていた砂を落とし、去って行った。



~◆~


 畜舎のテラリウムを観察し終え、食堂へ戻ってきた所で、ムース嬢に

 「どうでしょう、楽しめましたか英雄さん?」

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