お題→三匹の子豚、その後
お題→三匹の子豚、その後
「お先、失礼します」
「ちっ……帰るのか……」
課長の冷めた目を無視して、タイムカードを切った。
そもそも定時というのは帰るためにあるのだ。
俺の弟、ブー三郎。
今日は彼の新しい事務所の設立記念パーティだ。しがないサラリーマンの俺とは違い、優秀な彼は若くして世界でも有名な建築デザイナーになっていた。
事務所に着くと、ブー三郎は屈託のない笑みを浮かべて俺に駆け寄ってきた。
「やぁ、ブー次郎兄さん!」
祝いの品を手渡し、あたりを見渡す。
素人目に見ても洗練された事務所。
中庭には、うっとりするようなドレスやビシッとしたタキシードの来賓客。
ヨレヨレの安スーツに身を包んだ俺は悪い意味で浮いていた。俺はため息を漏らしながら、客の中に兄の姿を探す。
ブー三郎は思いついたように口を開いた。
「あ、ブー太郎兄さん今日来れないって」
「えぇっ!?」
今日だけはみんなで集まろうって言ってたのに。
兄さんは相変わらずだなぁ。
せっかちでなんでもやってみるタイプのブー太郎兄さんは、数々の事業をおこして失敗と成功を繰り返した。その経験をもとに、今はベンチャー企業のコンサルとして国中を飛び回っている。
仕事について語る兄さんはいつだって楽しそうだ。
「優秀な兄と弟を持つと、真ん中は辛いなぁ」
「あはは……でも、僕が一番羨ましいのはブー次郎兄さんだよ」
しがないサラリーマンをつかまえて、何を言っているんだか。俺はブー三郎に手を振ると、パーティ会場をあとにした。
家に電話をかける。
「これから帰るよ」
『お疲れ。サブちゃんの事務所どうだった?』
妻と話しながら駅に向かう。
娘と息子が楽しそうにはしゃぐ声を電話越しに聞いた。
まぁ、そうだな。
成功だけが全てじゃない、か。
俺は少し頬を緩めると、平凡で暖かい我が家へと足を向けた。