お題→いちたすいちは
お題→いちたすいちは
ランドセルから紙束を取り出すと、宿題に混じって一枚のプリントを見つけた。帰りの会で渡されたもので、「へんしつ者に気をつけましょう」「知らない人についていかない」なんてことが書いてある。5年生にもなればこんなこと言われなくても分かっているというのに。
「大人って無意味な方向に心配性だよね」
ウサギに餌をやりながらボヤく。
確かに、隣のクラスの高根さんはここ1か月ほど家に帰っていない。だけど、彼女は自分の顔が可愛いことを知っていたし、無防備に知らない人に着いていくようなバカな子でもない。警戒していても避けられない状況だったから帰れなくなったに違いないのに、「気をつけましょう」なんて注意喚起はナンセンスだなと思う。
「1たす1は、か……」
高根さんがいなくなって真っ先に疑われたのは、近所に住む無職のお兄さんだった。ヒョロヒョロの体でいつも薄汚い服装をしているから、僕らは「泥ゴボウ」ってあだ名で呼んでるんだけど。
泥ゴボウは子供が好きみたいで、道端で突然話しかけてくることで有名だ。
『ね、ねぇ、遊ぼうよ』
『……』
『ナ、ナゾナゾを出すよ。1たす1は?』
『……2』
『ぶー。せ、正解は田んぼの田の字でした』
こんな感じで、今どき流行らないようなナゾナゾを出してくる。しかも、ずっと無言でいるとしつこく付きまとってくるから、みんな最低限の受け答えだけをして足早にその場を去るのが効果的な対処法になっていた。
まぁ、泥ゴボウのことは忘れよう。
ウサギが餌を食べるのを見届けると、気を取り直して宿題に取り掛かった。算数と漢字のプリントだ。難しくはないけれど量が多いから、クラスのみんなは毎日うんざりしているらしい。
鉛筆削りの取っ手をグルグル回す。
目を閉じて、黒鉛と木くずの匂いを楽しむ。
気持ち悪がられそうで誰にも言えないけれど、この楽しみがあるから僕はさほど宿題を嫌っていない。嗅いでいると心が落ち着くんだよね。
昔はよく母さんがコーヒー豆をひく臭いに辟易していたけれど、最近はそんな不快な時間を過ごすこともなくなったし。
無心で鉛筆を動かしていれば、宿題などすぐに片付いてしまう。鉛筆削りを楽しむにはもう少し宿題が多くてもいいんだけどな。
昨日届いたウサギ用のおもちゃを持ってこようと席を立ったところで、スマホが鳴った。表示を見ると、同級生の佐久間だ。
「どうしたの?」
『タクミ、やっぱり泥ゴボウだ』
そういえば、佐久間は高根さんの幼馴染だったっけ。家が近くて昔から仲も良いから、彼は毎日高根さんを探し回っているみたいだった。
『泥ゴボウの家の庭からアイツのスカートが見つかったんだ。隣のオバちゃんが見つけたんだって……。さっきパトカーが来て、泥ゴボウの奴を乗っけて行った』
「高根さんは?」
『まだ……見つかってない』
まぁ、知ってるけどね。泥ゴボウの周辺で高根さんが見つかるわけがない。
電話を切ってテレビをつけると、ちょうど高根さんのニュースがやっているところだった。よく見る顔のリポーターが生中継で息を荒げている。
『容疑者宅の前に来ています。先月から行方の分からなくなっていた高根宇咲さん10歳、小学校5年生の、失踪当時着用していたスカートが見つかったと──』
思わず口角があがる。
僕はウサギ用のおもちゃを手のひらでいじくり回しながら、檻の中に目を向けた。
サスペンス風になりました。
お題が1ワードだといろんな話に広がり過ぎて難産でしたー汗





