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第一話




ふと気がついた。


と、表すのが適切だろう。



いつものように母親に起こされ、寝ぼけ眼で洗面所へ向かい、半ば溺れるようにしながら顔を洗う。そして、何の気なしに顔を上げたのだ。その動作自体に何の意味もない。強いていえば、洗面所の脇にかかっていたタオルで顔を拭くためだろうか。別にそんなのは毎朝やっている動きだし、今朝起きて顔を洗うまでの動作に普段と何ら変わりなかったように、この動作に普段との違いは何もなかった。

それなのに。


何の気なしに顔を上げ、その目線の先にあった鏡の、映った自分の顔を見て、思ったのだ。

“これは誰だろう?”


次いできたのは記憶の奔流。生きて、死ぬまでの、まだ幼い自分は知るはずのない、人の一生の記憶。



ああ、



嗚呼。




理解した。



どうして僕は消えていないのだろう?とか、この世界は魔法が存在しないらしい、とか、思い出した記憶、僕がいなくなったあとの世界、殺してしまったレオンに対する悲哀、いろいろと気になることはあるが、とにかく。



どうして僕は女の子になっているのかな!?



鏡を見る。

キリッとした顔で、可愛らしい女の子……しかも、明らかに幼い子供が鏡の中からこちらを見つめていた。うん。真面目ぶった顔が可愛いね。

これが僕でなければね。


もうレオンを殺したとかどうでもいい。いやよくないけど、すごく辛くて悲しいけど、それよりも。

僕何かした!?異世界で女の子に生まれ変わるようなことをした……したね。うん。しましたね。罪のない魔族たちを殺戮したね。



いや、ちょっと待て。何か心当たりがあるかもしれない。もしかしたら神のお遊びにまた巻き込まれたのか?少し記憶を辿ってみよう。


「勇者様……お帰りをお待ちしております。」


「安心してください、王女。必ず無事で帰ってきます……!」


あ、これ違う。


「魔族を殺せェ!ひゃっはァー!」


これも違う。


「先生……。僕、先生の言ったとおりに、神に惑わされないように努力を怠らずに、立派な勇者なります!」


「師匠、今までありがとう。俺、大事なものを守れるように強い魔王になって、人族との戦争を止められるように頑張るよ。」


「儂はそこまで言わなかった気がするが、まあ頑張れ。」


これも違……うん?


「儂はそこまで言わなかった気がするが、まあ頑張れ。ああ、ひとつ言い忘れていたことがあるが、お前たちの身体に異世界転生の魔法陣を刻んでおるからな。」


…………。


師匠ぉぉお!何言ってるんですか?え?何言ってるの?ていうか初耳なのですが?


「なお、この記憶は抹消され、転生後自動的に思い出すようになっている。やはりこういうものはサプライズがいいと思うんだ。ははは!」


はい?はははじゃありませんよ師匠!何人の身体魔改造して爽やかに笑っているのですか!?




亜蓮あれんちゃーん!ご飯できたよー!」


流し台に手を付いてがっくりとうなだれていた僕に、今世の母の声が響いた。いつまで経っても洗面所から戻ってこない僕にじれたらしい。


「はーい!」


自分の声とは思えない鈴の鳴るような声でそう返事をして、軽やかにリビングへ向かいながら、僕は考えた。



勇者アレンだった僕は、異世界の人族(♀)清水亜蓮五歳に転生したようです。




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