No.4 自己紹介で必要なのは名前と誕生日と血液型。お好みで星座もどうぞ。
これまた恒例の趣味で書いてますよ宣言をします。そして、今回はちょっと長い・・・?
次の日。
包帯ぐるぐる巻きの奴が、安静にしておけと言われて俺の席の左隣にやってきた。そして、極めつけなのが・・・。
「よろじぐー」
その反対側の席の、思いっきり鼻声で、恥ずかしさというものをどこか別の世界に置いてきたかのように、さわやかにこちらに挨拶を飛ばしてきた。机の上に鞄を置き、椅子に座ろうとして寸前で止めて、なぜかこちらを向いてロデオの馬みたいに前後運動を始めたと思いきや・・・。
「へぐじゅー!!」
今まで聞いてきた砲弾のようなくしゃみではなく、我慢したいと願ってのそのくしゃみは、彼女の発射口の大きさを収縮させて密度の高い何かが、まるで銃弾のように俺をスレスレで通り過ぎた。肩の上、顔の横を通り過ぎたその弾丸は教室の床に直撃し、どうしたらそんな煙が出るのかと思うほど、煙が立ち上っていた。
摩擦熱? いやいや、というより・・・。
銃弾か何かですか?
「ほらー、席つけー」
教室の扉が開いて、先生が入ってきた。そして、見知らぬ女性を後ろに連れて。みんなが騒然とする中、先生は「はい、静かにー」と注意した。そして、ゆっくりとこう言った。
「皆に質問する。私のことを担任だと思ってる人、手を挙げて」
皆が一斉に手を挙げた。
「実は違う」
皆は手を挙げながら、呆然とした。開いた口がふさがらない人がクラスの100%の比率で存在していた。
「この先生が担任だ。では、先生」
「はい・・・。えーと・・・私の名前は斉藤由美っていうそこまで派手でも珍しい名前じゃないですけど、覚えてくださいね。教える教科は数学です」
はーい。皆がそう返事をした。一応ここは小、中の次の段階の高校なのだが・・・。
「えー、私が副担任の富士大和だ。教える教科は理科だ」
はーい。こっちは元気が無かった。
「それでは・・・えーと、自己紹介の時間を取りたいですが、それぞれ個人で済ませてください。この時間をフルに活用してがんばってください」
がんばるって何を? 自己紹介を? 大会か何かですか?
一斉に首輪を外された犬が暴走し、辺り一面を駆け巡り、花畑で陽気にダンスでもしているかのように教室が騒がしくなった。笑いが聞こえたり、罵声が聞こえたり、ビンタが聞こえたりと・・・騒がしかった。
とりあえず、隣のくしゃみをする女に話しかけようとした。すると・・・。
「へ? へっ・・・へっ・・・へ」
「わぁぁぁぁぁ!!」
発作的に大声を出して、止めようとした。運が良かったと言いたい。それで止まったからだ。かなり目を丸くして驚かれたが。
「あ、ありがど」
「・・・えーと、君・・・名前は?」
「わだじの名前は、山下紫。むらざぎでゆがり。あなだは?」
何か、もう一度来そうなので、確認して相手がだいじょーぶと答えたところで自己紹介を始めた。
「俺の名前は右左団子。うさだんご。みんなからウサ男って呼ばれてたから、そう呼んでくれればいい」
「ウサ男ー」
「背後から自己紹介した覚えの無い奴に呼ばれる筋合いはないぞー!!」
「僕の名前は」
今度はこっちがびっくりした。右腕ぐるぐる包帯巻きの左隣の奴だった。何かぎりぎりな山下の様子を確認して、俺は「OKだ」と言って、自己紹介を進めた。
「中乃川勇。まぁ、登校中にその子の口に手を当てたらこうなった」
ぐるぐる包帯巻きを見せてきた。もう少し丁寧に巻いてあればいいのにと思ったその瞬間、不意に聞こえたその声で、咄嗟に頭に浮かんだのは先ほどの瓦礫の光景だった。
「よろじぐ・・・へっ、く!」
「マスクしろぉぉぉぉ!!」
次の日。
「・・・はよう」
「へ?」
隣の席から声が聞こえたと思ったら、くしゃみ女の山下だった。しかし、昨日とは違いマスクをしている。
そして、例によって例のごとく。
「へっへっへ・・・べっくぼん!! ズビー・・・」
マスクのせいで篭ったくしゃみは、マスクを信じられないほど彼女の口から離して、マスク自身は持ち前の弾性で元に戻った。