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01

「あら。目覚めたようね。おはよう」

 ソイツは悪そびれる風もなくそう言って俺に笑い掛けた。



「って、てめぇいきなり何しやがる!?」

「何って、あなたのお望み通り銃で心臓を撃ち抜いてあげただけじゃない」

「誰も望んでねぇよ!てか、何で銃持ってンだよっ!?」

 俺は彼女の手に視線を移した。

 うわぁ......まだ持ってやがる。てか、俺は本当に撃たれたのか?記憶を辿ろうとしても何故かその記憶だけが霧にかかったようにボヤァとしてて鮮明に思い出せない。

「うぉっう!?」

 気付けば俺の周りには血溜まりが出来ていた。一体誰の血なんだ......いや、流石に分かってるんだけど......認めたくない。認めたら何故か俺が消えるような気がしてならなかった。

「あぁ。それあなたの血よ」

「......」

 何だろうか。躊躇ってたことをバッサリと切り捨てられた感が凄いんだが......。

「さて1分もロスしちゃったわ。早く行くわよ」

「誰のせいだよっ!?って、1分!?ホントに1分で俺が生き返ったのか!?」

「え。なに驚いてるの?私ちゃんとそう言ったじゃない。あと生き返ってはないわよ。傷が蘇生しただけ。そもそも死なないのだから生き返る筈がないじゃない」

 求めていた回答だけでなく求めてなかった回答を返された。

 ホント、コイツ一言余分なんだよな、黙っていれば可愛いのに。玉に傷ってやつか?

「じゃあ今度こそ行くわよ」

 そう言うと彼女は手に持っていた銃を出したスカートには戻さずゴミのように森に投げ捨て歩き始め......。

「おいおいおいおい!?」

「な、何よ!?」

「お前頭おかしいのか!?何で銃捨てるんだよ!?誰かに拾われたらどうすんだよ!?てか、銃作るのって大変なんだろ!?俺は余り詳しくないけどそのぐらいは分かるぞ!製作者が誰だか知らねぇけど頑張って作った銃が使い捨てマスクみたいにポイ捨てされたら製作者悲しむぞ!?」

「はぁ......そう言えばあなた夢の国のこと何にも知らないのね」

 俺の早口抗弁を嘲笑うかのように彼女は言った。

「この銃は私が作ったの。10秒で」 

「......は?」

 は?何言ってンだコイツ。バカじゃね?嘘つくのもほどほどにしろよ。

 仮にコイツが作ったのがホントだとしても10秒は流石に無いだろ。

「信じてない顔ね。良いわ。見てなさい」

 そう言うと彼女は右手を開いた。

「何を......」

「見てなさい」

 ジジ......ジジジ......。

 不意に機械音が聞こえた。機械音はだんだん大きくなってたまらず耳を塞いだ。やがて機械音が止み耳から手を離した俺は彼女の手を見て驚愕した。

「どう?ジャスト10秒よ」

 得意顔の彼女の手には銃に余り詳しくない俺が見ても先程とは違うと分かる銃が握られていた。

 これはまさか......ラノベによく出てくる『ま』から始まって『う』で終わるあれか!?ここは別世界とか言ってたしあれが合ったって不思議ではないな。もしかして俺も使えるのかな。

「あっ、これは魔法とかじゃないわよ」

 え......。違うの?何かガッカリだ。

 俺は何か複雑な気持ちで、彼女に向き直る。

「じゃ、じゃあ何だって言うんだよ!?」

「夢の力って私達は呼んでるわ」

「もう魔法で良いじゃねぇか。何でそこまで夢にこだわるンだよ!?」

 夢の国やら夢の力やら何でコイツらは夢にこだわりたがるんだ!?もう普通にアナザーワールドと魔法で良いじゃねぇかよ!

「うるさいわね。私達が多数決で決めた通称に文句があるって言うの?だったらあなたが考えなさいよ!」

「アナザーワ━━━━━」

「却下!」

 プチン。血管が切れる音がしたような気がした。漫画とかでは血管が切れるなんて日常茶飯事だけど現実では余り聞いたことないから多分気のせいだと思うが。確かにコイツ殴りてぇとは思ったがその程度で俺の血管が切れる筈がない。

 俺は殴りたいという衝動を唇を噛みしめることによって抑えながらも彼女に質問をした。

「さっき見せた夢の力だっけ?それって俺にも使えるのか?」

 彼女みたいに銃とか出せたらどれだけ心強いことだろう。もしかしたらこのムカつく女と行動を共にしなくてもこの世界で生き延びることが可能かもしれない。

「ええ、使えるわ。試しに銃でも作ってみたら?」

 そう言うと彼女は足を止めて振り返った。

「どうやってだ?」

「あなたが持っている銃のイメージを思い浮かべて」

 銃のイメージ......。

 鉄の塊。玉を飛ばす。引き金。

 こんなものかな。

「思い浮かべたぞ。ここからどうすればいい?」

「あとは簡単よ。『現れろ』って強く思うだけよ」

 そんな簡単に銃が作れるのか!?何だこの世界。死なねぇし俺THUEEEEEE状態やり放題じゃねぇか。

 そんな期待を持ちつつ俺は心の中でお経のように『現れろ』を連呼し始めた。

 『現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ現れろ』

 ジジ......ジジジジ......。

 さっきと同じ機械音だ。てことはあと10秒もしないうちに俺の手に銃が......。

 やがて機械音が大きく鳴り響き、俺の手の上に銃のような物が浮かび上がった。

「おおっ!?でき......」

 俺が感動したのはそこまでだった。

 銃を下から支えようとした俺の両手は銃が完成した瞬間に地面にめり込んだ。

「は?」

 一瞬のこと過ぎて俺のちっぽけな頭には理解が追い付かなかった。

 俺は自分の両手を確認した。地面にめり込んでいる。

 ハハハ。何の冗談だよ。きっと目が疲れてるんだな。

 もう一度見た。地面にめり込んでいる。

「......え」

 状況を理解した瞬間に襲いかかるのは強烈な痛み。何事かと痛みの原因を突き止めるように目を動かすと両手が地面にめり込んだあたりから赤い液体が溢れ出していた。

「ぎゃぁああああ!!?」

 何だこれ。痛すぎるだろ!?てか、逆に何でさっきまで痛くなかったんだよ!?

 あまりの痛みに涙目でもがき苦しんでいると彼女はどこからか巨大な刃物を取り出し俺の肘から先を切り落とした。

「痛ってぇぇぇええええええ!!?!?」

「これで大丈夫よ」

「どこが!?状況悪化したような気がするんだけど!?」

 先程とは比べ物にならないほどに血が溢れだしている。ドボドボと溢れる血は大量出血で死ぬんじゃないかと思わせるほどのものだった。

「あのねぇ。あなたここは夢の国なのよ。怪我なんて1分もすれば治るわよ。けど、地面にめり込んでいたら治ってもまたすぐに潰れて激痛に襲われるはめになってたわよ。全く感謝してほしいくらいね」

「せめて切る前に説明して欲しかったわ!」

 とか言ってる間にも血は収まり両手は再生しつつあった。

 理解したこと=再生途中の手は物凄くキモい。

「で、何で俺の銃はあそこまで重かったんだ?まさかお前の銃も重いのか!?」

 手の再生が完全に済んだところで俺はさっきの惨状の原因を突き止めるべく歩き始めた彼女に聞いた。

「バカね。そんなわけないじゃない。男子のあなたが持てないものを、私みたいな弱い女の子が持てるはずないじゃない」

 初対面の相手を銃で撃ったりする人は決して弱くないと思うんですけど。

 まぁ、それを言うと話が長引きそうだから言わないでおこう。

「じゃあ何で俺の銃はあんなにも重かったんだ?」

「多分あなたのイメージ不足よ」

「イメージ不足?」

「そう。どうせあなたのことだから銃=鉄としか思い浮かべなかったのでしょ?」

「そこまで酷くないわ!銃=鉄、引き金、玉ぐらいは思い浮かんだわ!」

「1つも3つも変わらないじゃない。もうちょっと正確にイメージしないと」

「無理だろ!?」

 軍人ならともかく普通の高校生だった俺には不可能な話だ。

「せめて20は特徴をイメージ出来るようにしときなさい。そうしないと何も作れないわよ」

 彼女はそう言うと足を止めた。

「どうしたんだ?急に止まって?」

「着いたわ」

「え」

 いつの間にか喋っているうちに目的地に着いていたみたいだ。

 って!?おい!?

「ま、まさかここが目的地か?」

「ええ。そうよ」

 何で何でなんだよ!?何でここに......

「学校があるんだよぉぉぉおおおお!!?」

 別世界にも学校があるのかよ!?なんでだよ!?

 思わず膝から崩れ落ちる俺の正面に立って彼女は言う。

「ようこそ。私達の陣地へ。ところで聞いてなかったわね。あなたの名前は?」

 俺は彼女に差し出された手を取り立ち上がった。正直この女とこれ以上関わるのは嫌だったが、この世界の仕組みが分かるまでは我慢しようと思う。

「俺は倉初くらはつ祐司ゆうじだ」

「私は金沢かなざわれいよ。改めてよろしく倉初君」

 こうして世にも奇妙な俺の別世界生活が始まった。

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