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87 『快楽』の強襲②

「…『ハルア教』…『快楽』…!」


 聞いたことがある…特に『欲望』と並び、各地で大きな被害をもたらす存在…。『五大教皇』の中でも危険な化け物だと…。


 まさか…こんな子供だとは…。…いや…現にここまでの驚異を見せつけていることを考えると油断できない…。一体どんな力を…。


「…魔王城を襲うとは…随分と舐めた真似をしてくれますね…」


「…アハッ…♥でもぉ…やっぱり無駄足みたいだねぇ…。せっかく来たけど…あの子はいないみたいだぁし…」


「…あの子?…クリス様ですか?それとも…ユキ様ですか?」


 確か…『ハルア教』はクリス様…ユキ様をターゲットに襲ったと聞いている…。


 クリス様の捕縛に失敗していることを考えると、彼女が魔王城に退避していると考えるのが自然…。


 そこを再度襲った…ということだろうか…。


 しかし…『快楽』…トムの口から出たのは意外な人物だった…。


「はぁ?そんなのどーでもいいよぉ…。僕が気になってるのは…ティナだよぉ♥」


「…?なぜ…ティナを?」


 私の疑問に…トムはさらに信じられないようなことを口にする…。


「んー?そりゃ…決まってるよぉ…だってぇ…」











「…ティナには僕の子供を孕んでもらうんだからぁ…♥」











「…は?」


「だからぁ…ティナには僕の子供を産んでもらうわけ…♥そのために来たんだよぉ?」


 …この餓鬼(こども)は何を言っているのか…。冗談でもない…吐き気を催すほどの欲望を感じる…。


 そもそも…ティナにそこまで執着するのも理解できない…。彼女と一体どんな関係なのか…。


「…幼女に性欲ですか?とことん下衆な発想ですね…」


「アハッ…♥そんなもんじゃないよぉ…でも…ティナにはちゃんと…僕の…」






 …ズシャッ…!






「…ぁぃあ?」


 瞬間…トムの顔…その上半分が吹き飛んだ…。もやは修復不可能…確実に死んだであろう…。


 もちろん勝手にそうなったのではない。トムの油断をついて、私の斬撃を浴びせたのだ。


 一瞬で間合いを詰め…一切の隙を作らずに右腕に仕込んだ刃で一撃…。


 反撃をされることなく仕留めることができた…わけだが…


「…あっさり…しすぎている…」


 私の独り言…それは本心からのもの…。敵はいないはずなのに…この不安は一体…。


 いや…それも当たり前…。仮にも世界の驚異として知られる『快楽』だ…。こんな簡単にやられるはずがない…。


 何を狙っているのか…。一旦その場を離れ…それとなく空を見上げると…



 クァァァァ…クルルルルル…


 バサバサッ…!



「…!『カルス』…の群れ…」


 上空を飛び回る黒き鳥…。各々が不規則な動きを見せている…。


 『カルス』…集団で夜に活動する魔鳥(まちょう)の一種。その漆黒の体を表現するかのように…思考は鋭く…ずる賢い…。


 『カルス』によって大規模な損害へと発展することは多い。農作物へのダメージ等が代表的だ…。


 しかし…今はまだ太陽の沈みきらない夕方時…。明るいこの時間帯に集まって活動するのは…非常に珍しい…。


 そう思ったその時…



 グジュッ…グシャァァッ!



「…!!?ぐっ…!」


 突然…体に激痛が走る…!脇腹辺り…見れば鋭い氷柱が貫いていた…!


 アンドロイドとはいえ…限りなく人間に近くなるよう設計されている…。赤黒い血液を模した燃料が吹き出し…システムに搭載された痛覚が体を駆け巡る…!


「かはっ…!くっ…!なぜ…!?」


 息も絶え絶えに…私は当然の疑問を口にする…。その背後から…普通ならあり得ない声が…。











「アハッ♥ざんねーん!本物はこっちでしたぁ…♥」


 そこには…先ほど顔をまっぷたつにしたはずのトムがいた…。一切の傷もない…まるで…先ほどの攻撃そのものが無かったかのように…。


 バカな…!傷ひとつなく…ここまで瞬間的に移動はできないはず…!


「くっ!」



 ダッ…!…タタッ…!



 私はその場から無理やり氷柱を抜き出し…トムから離れる…。傷はやはり深い…。システムの半分近くが損傷している可能性がある…。


 とはいえ…アンドロイド故、人間のように痛覚や出血によるショック死はない…。燃料の漏れを止めればなんとかなる…。


「…どういう…ことですか?…あなたは…倒れていたはず…!」


 そのために時間稼ぎ…。体内で自動修復(オートリペア)を行いながら、トムへと言葉を投げ掛けていく…。


 幸いにも…彼の性格なのか…勝ちを確信したのか…律儀に質問に答えてくる。


「ごめんねぇ…詳しいことは言わないんだぁ…。でもぉ…能力のことは言ってもいいかなぁ…」


「…能力?」


「『寵愛』…神に愛された僕の力…♥この力で…何もかも手にいれるんだぁ…ティナも…僕との子供もねぇ…♥」


 …異能…『寵愛』…!一体どんな能力なのか…。メーラの一撃を無効化し…瞬時に反撃を繰り出す…。


 これは…あまりにも危険すぎる…!


 そんなメーラの焦りに…トムはさらに追い討ちをかける…。


「はぁ…なんか疲れたな…。憂さ晴らしにもっと暴れとこかな…?」


「…!許すと思いますか?」



 ザッ…!



 これ以上は好きにさせるわけにはいかない…!自動修復(オートリペア)作業も完了した…。臨戦態勢を整えると、いつでも戦えるように武器を構える…。



 カチャッ…



 …こんな刃一つで仕留めることはできなくとも、部下達の避難…その時間稼ぎにはなる。最悪…メーラの『命』を失うことになろうとも…。


 そんな私の覚悟に対し…トムの反応はやや消極的なものだった。


「えぇ~…僕はあんたに用はないんだよねぇ…。というか…あんたをこれ以上痛め付けたら…『絶望』とか『欲望』に怒られるんだけど…」


「…?どういう意味です?同じ五大教皇が…なぜ?」


「さぁ…これ以上はあんまり…ねぇ…。それで…どうするの?僕と戦うの?」


 まだ…疑問の残ることはあるが…答えは決まっている!


「メーラはクリス様…ユキ様のために魔王城(ここ)を…皆を守る。たとえ…どんな相手だろうと!…それだけです」


「あっそ…それじゃ…来なよ♥」


 トムは挑発するかのように両の手を広げる…。表情は笑顔…まるで負ける気がない…いや…遊びのつもりなのか…。


 それでも…


「…ハッ!」



 タッタッ…ダッ…!



 私は一瞬にしてトムへと迫る…。勝ち負けは関係ない…。ただ…大切なものを守るために…その信念だけを胸に秘めて…。


 そして…メーラの刃が突き刺さる瞬間…



 …ザシュッ!



 全てに決着がついた…。

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