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幕間 剣聖の過去

 …


「…ねぇ…レイ…何かあったの?すっごく不機嫌…だけど…」


「…『  』には関係ないよ…」


「関係なくない!レイがそんなんだと…あたしも辛いの…」



 スタスタスタスタ…



「…その…お父さんとお母さんに…王族護衛の剣士になりたい…って言ったら…」


「…?」


「怒られちゃった…」


 赤髪の少年…そして…金に輝く長めの髪を持つ少女…。二人は誰の目も届かない林の中…ゆっくりしたペースで歩いている…。


 少年はやや不満を募らせたような表情で、自らの不甲斐なさを責めるかのように苛立ちを募らせていた…。


「…やっぱり…僕って弱いのかな…。もっと…強くないと…」


「そんなことないよ!レイは強いし…皆の憧れじゃない!」


「…でも…剣士になるには凄い特訓をするみたいだし…。誰かに指導を受けないとダメなんだって…。そんな先生みたいな人…僕の周りにはいないよ…」


 少年の…剣士に対する憧れ…。少女はそれをよくわかっている…。そして…誰よりも強くなりたい理由も理解している…。


 どんな言葉をかければいいのか…少女はホンの少し思い悩んでしまう…。


 そんな彼女の思いに気がつき、少年は慌てたようにして話題を変えることに…。


「あっ!そういえば…最近可愛いモンスターを拾ってさ!見た感じは(ウルフ)系のモンスターなんだけど…」


「…えっ?それは…大丈夫なの?レイ…モンスターだって狂暴な性格だったら大変だよ?」


「そこは大丈夫!なんか僕にはすごくなついてさ!暴れるようなこともないんだ!今度見せてあげるよ!」


「そっ…そう?レイがそういうなら…見てみたいな…」


「うん!可愛いから…『   』も気に入ると思うよ!」


 二人は他愛のない話に花を咲かせて…今日も仲良く過ごす…。いつもこうして時間が流れていくと信じていた…。


 それが…間違いであると気がつくのはそれから数日後のことである。





 …



「ハァッ…ハァッ…!…お父さん!『   』はどこに…!」


「…!レイヴォルト!ダメだ!もう…彼女は…」


「そっ…そんな…!」


 少年が駆けつけたとき…そこは火の海に包まれていた…。大きな家屋は完全に全焼…。それでも…完璧に焼き尽くすべく、炎は燃え広がっている…。


「お父さん!僕…中に入って探します!」


「止めろ!もうわかるだろう!『   』は…死んでいる!この有り様を見ればわかるだろう!」


「そんなの…わからないですよ!今も誰かの助けを…」



 パシィッ…!



「うっ…!」


 少年がその先を言い終わらないうちに頬に衝撃…。それが…側にいた父親の平手打ちだと気づくのに、少しばかり時間をかけた…。


 父親は…ものすごい形相で少年を叱責する。


「自分に甘えるな!お前の命は一つだけだ!この先…お前まで死んだら…俺は自分を許せん!ここは…耐えろ!」


「お父…さん…」


「もう…諦めるしかない…」


 その言葉に…少年はぐったりとその場に跪くしかなかった…。少女との楽しい日々…。それが一瞬にして砕けた瞬間である…。


 自らの半身を失ったかのように…少年は絶望…。寂しく…独り言を呟く…。


「僕に…力があれば…。『   』…を…助けるだけの…力が…」




 …



「…フッ!…ヤァッ!…くっ…!」


 それから半年…あのときの林の中で、少年は上半身を脱いだ状態で鍛練に励んでいた…。


 まだ使って間もない木刀を手に…毎日降り続ける日々…。己の未熟さを痛感してから、常に鍛え続ける…。


 すべては…大切な彼女を助けることができなかった後悔…。その罪を清算するために…決して消えることのない思いを胸に抱き続ける…。


「…ダメだ!…こんなの…誰にも勝てない…!僕は強くならないといけないのに…!」


 そうして…自分の力不足を責め続けていたそのとき…





「ダメだよ…そんな鍛え方は自分の体を壊すだけだから」





「…!?だっ…誰だ!?」


 誰もいないはずの空間に響く声に…少年は周りを見渡す…。影も形も見えない…。それでも何かがいる…。そう内心で焦っていると…



 ぷにっ…



「はい…君の負け」


「…!?」


 一瞬…自分のほっぺに感じた、ほどよい感触に…後ろを向く…。そこには…


「…もう少し頑張らないとね…」


 少年よりもやや年を重ねたような若い女性が…前屈みの状態でいた…。


 服装は妙に露出の激しい黒を貴重としたブラウス…。腰まで届く髪の毛は、やや赤みがかったブラウン系…。美しくも整った体に…息を呑むほど…。


 そして…


「…獣人…なのか…?」


「そうだよ…。…まっ…耳を見たらわかるだろうけど…」


 女性の頭には…獣を連想させる、やや長めの耳が生えていた…。獣人の女性に出会ったことのない少年には軽い衝撃…。驚きを隠せなかった…。


「フェルがつついたことに気づくの…時間かかりすぎ。そんなんだと…強くなれないよ?」


「…関係ないです…」


「ふーん…」


 フェル…と名乗った女性は少年を値踏みするように見つめる…。目を細め、どれだけの価値があるか見定めるかのように…。


 そんな視線に…少年は少しばかり恥ずかしくなり目を背ける…。


 その数秒後…


「教えてあげるよ…君の力の引き出し方」


「えっ?」


 フェルの言葉に…一瞬狼狽えることに…。


 何を言っているのかわからない…という疑問…。フェルは答えを口にする。


「フェルの言う通りにすれば…君の望む力を手に入れることができるよ?きっと…王都の聖騎士団で一番強くなるぐらいにね…」


「…なんで…そんなことを…?」


「君が気に入ったから」


「…」


 胡散臭い話…。到底信じられなかった…。


 だが…もしそれが実現したら…という気持ちもある。


 それに…気配を消したかのような彼女の行動…。気づかれることなく少年の頬を触るほどの実力…。もしかしたら…という期待が胸をよぎる…。


 結果…


「ホントに強くなれるなら…お願いします!僕に…指導してください!」


 少年は頭を下げることに…。なんとしても強くなりたいという思いが…彼を突き動かした…。


 フェルは笑みを浮かべ…舌で口の端をチロリと舐める…。その答えは…


「いいよ…♪」


「…!」


 あっさりとした了承…。やや拍子抜けするような言葉だった…。


「ただし…これから大変になるから覚悟してね?」


「はい!」


「あたしはフェルデリカ・シャパン…。…君の名前は?」


 少年は…これから指導をする師に対し自らの名前を口にする…。


「僕は…レイヴォルトです!よろしくお願いします!」


 こうして…二人の秘密の関係が結ばれることになった…。


 それが…世界を巻き込む戦いに繋がるのは、数年後の話である…。

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