幕間 『戦士』の覚悟
「…メーラさん…俺は…貴女のことを…」
とある一室…。ベッドに横たわるのは一人の少女…。
赤く…長い…深紅の髪の毛を持つ少女は目を閉じ、そのまま起き上がる様子さえない…。
身体中…さらには顔にまで包帯が巻かれており、その痛々しさは見ている者さえ恐怖を感じるほど…。
ハルア教…『快楽』の強襲を受け、単独で立ち向かったメーラ・ステリアルは大きな傷を刻まれた…。
元がアンドロイドとはいえ…その損傷は激しく、治療が終わったとはいえ目を覚まさない…。
最早…意識を取り戻すことさえないのでは…と語る者もいる。
刺激を与えぬよう…メーラの体を安全な部屋へと移動し、寝かしつけたのはつい先ほど…。
そして…ここまで移動させたただ一人の『戦士』…。
「…俺は…貴女を守ることができなかった…。それが…悔しいです…」
ウザイン・ケルビーノ…。オークの男が傍らで立ち、後悔の言葉を口にする…。
いつもは冗談をかまし、周りの者に呆れと笑いを与えるこの魔族も…たった一人の女性の前で笑み一つ浮かべない…。
魔王…クリスティアーネを救出し、グリンシュテン王国からの脱出という過酷な役目を終えたばかり…。
そこから…自らを信頼してくれた『大切な者』の不幸を知った時の絶望は…計り知れない…。
今も…決して目覚めないメーラを前に…自責の念を吐露することしかできないのだ…。
「…罪を犯し…死に場所を求めた俺に…生きる意味を教えてくれたのはメーラさんです…。俺は…貴女の『戦士』であろうと…努めてきた…なのに…くそっ…!」
バシッ…!
ぶつけようのない怒り…哀しみを…右の拳で左の掌にぶつける…。その表情は…憤怒に燃える…普段の彼からは想像できないほど凄まじい…。
そのとき…
ヒラッ…ハラッ…カサッ…
「…?なんだ…?…手紙…?」
開け放した窓から…1通の封筒が舞い降りた…。まだ新しい…破れてもいないそれを手にするウザイン…。そこには…
『欲望より愛を込めて』
「……!…パル…!」
一瞬で悟るウザイン…。この手紙は自分に宛てられたもの…。
ニコラ・パルバリーナ…。
ハルア教…『欲望』の名を持つかつての旧知…。当然…何かしらの狙いがあり…それを伝えようとしたのか…。
「…」
ビリッ…ピリピリ…
考える間もなく…ウザインは封筒を開け、中の手紙を確認する…。
そして…全てを理解したそのとき…
「…パル…てめぇがそういうつもりなら…俺も腹くくってやるよ…。あの時の因縁…決着をつけてやる…!」
その目には覚悟の証…。誰にもねじ曲げられぬ信念の炎が宿っていた…。
そのまま…側で眠る少女に向き決意する…。
「メーラさんの仇…俺は取れそうにないですが…俺達の思い出の地…守ろうと思います…。それが…」
「…俺の…最期の『冒険』になろうとも…!」