97 魔王様の考え
「だっ…大丈夫かよ?気持ち悪かったりしないか?傷とか…」
「ん…大丈夫だ。あれからしっかりと休憩をとりながらここへ来たからな…。ウザイン…そして白き竜に感謝しなくては…」
「そっ…そうか…それなら良かった…」
あれから…
クリスとウザイン…キューちゃんの帰還を知った俺たちは、すぐに迎えに行くことに…。
城の前までやって来た二人と一匹は…これといった傷も怪我もなく五体満足…。
血を吐き出してボロボロになっていたクリスも…表情はいくらか落ち着いていた…。
俺たちはすぐに行動に移し、クリスを彼女専用の部屋へ…。ウザインも医療室へ案内することに…。
キューちゃんは特に大きな怪我もなかったんで、今は…
「キュー…」
ミニサイズになって俺の肩の上で休んでいる…。何だかんだで疲れているだろうから変な衝撃を与えないよーにしねーとな…。
今は俺とクリス…の二人っきり…(キューちゃんもいるが…)。
クリスは大きなベッドに体を預けて横になった状態…。まだまだ油断はできないが、話をするぐらいの余裕はあるか…。
「それにしても…」
「ん?」
「私のいない間に…メーラーも…フィールも…やられるとは…」
「…!いっ…いや…それはクリスのせいじゃないだろ…!」
「だが…主がこんな状態で…配下の者に迷惑をかけたのは確かだ…。その責任は大いにある」
「…クリス…」
やっぱり…辛いよな…。特にメーラはあんな状態だし…。
責任感じすぎてなきゃいいんだが…。
そう俺が不安に思っていたのも伝わったのか…クリスは語りかける。
「ユキ…安心しろ。こうなることは覚悟していたことだ。こういった悲劇が原因で落ち込むわけにはいかない…」
「…そうだな…」
「メーラやフィールのためにも…やるべきことは一つだ。前を向こう!そのためにも…皆を集めてくれ!」
「おっ…おい…!まだゆっくりしないと…」
「心配無用だ。話すだけの体力はある。頼む…」
「…おし!クリスの頼みならしゃーねー!待っててくれ!」
こうして…クリスのために俺は再び奔走することにした…。城の連中も心のどこかで不安を抱いてるはずだ…。
ここで…クリスの言葉を使うしかない!そうすれば…活路も見えてくるはずだ…!
…うまくいくといいんだけどな…。
ー
…
…ゾロゾロ…
「クリス様…お体は…」
「あぁ…問題ないぞ…ティナ」
「それは…安心いたしました…」
あれから数十分…。ちと時間はかかっちまったが、なんとか集めることができた…。
まぁ…さすがに城のメンバー全員を連れてきたら部屋がパンクするからな…。
比較的偉い立場のメンバーを集めたわけだ…。その中には当然ティナもいる。
さて…どうなるか…
「まず…皆に詫びをいれなければならないな。すまない…」
ペコッ…
「「クッ…クリス様!」」
ベットから上半身を起き上がらせた状態のクリス…。そこから頭を下げた姿に多くの者が驚いた…。
さすがにマズイ…と思ったのか、ティナは小さい体ながらすぐに訂正を求める。
「クリス様!お止めください!魔王たるもの…そのようなことは…」
「ティナ…魔王といっても…所詮は一人の魔族…。肩書きなどなんの意味もない…」
「しかし…」
「頭を下げるくらいいいだろう…。なにも…皆の心は変わらんだろう?」
「…はい…」
クリスの…真の通った声…。その場にいるほとんどの者が緊張している…。
さて…どう語りかけるのか…。
「…さて…今回の件…。おそらく多くの者に不安を抱かせることになっただろう…。ハルア教…それもより上位の立場の者が動き出した…。いずれ…我が魔王軍も巻き込まれることになるだろう…」
「「…」」
「だが…ここで逃げるわけにはいかない。それが…今の私の考えだ」
「「クリス様…」」
うーむ…クリスがこれから何を言うのか…ちとわからん…。皆を鼓舞するかと思ったが…雰囲気的に違うか?
まぁ…何か考えがあるんだろうけど…。
「皆はどうだ?この先…ハルア教の者達と戦い…生き抜こうと思う者はいるか?」
「「…?」」
「おそらく…答えるのは難しいだろう。簡単な話ではないからな…。そこで…私は考えた…どうするべきか…」
そこで…クリスは思いもよらない言葉を口にする…。
「魔王軍を…一度…解散しようと思う」