95 大惨事の中…
フォンッ…
「…!おいおい…これって…!」
「…どういうことなのね…」
「…」
なんてこった…。ティナとレイヴォルト…それに負傷したフィールと意識のないアリスも一緒に魔王城に来たのはいいが…。
そこは大惨事になっていた…。
あちこちの城壁にでけぇ氷柱が突き刺さり…地面も恐ろしいほど抉れている…。
怪我した兵士のやつらも倒れているぞ…!これはただ事じゃねぇ!
タッタッタッタッ…
「くそっ!大丈夫かよ!おい!」
「うぅ…」
俺はすぐさま倒れている奴の元へ駆け寄ると、意識があるか確認をしてみる…。
声に反応してる様子から…死んではない!
「何があったんだよ!」
「あっ…子供が…」
「…こっ…子供?」
「白い髪の…子供が…うぐっ…」
マズいな…。ちょっとこれ以上喋らせると体にキツそうだ…。仕方ねぇ…。状況把握は後だ!
「ティナ!とりあえず…負傷者の手当てを!レイヴォルトは俺と一緒に…怪我したやつを探そう!」
「わかったのね!フィールと…アリス…エリスのことも任せるのね!」
「よし頼む!レイヴォルト!一緒に来てくれ!」
「わかった!」
こうして…俺たちはボロボロになった魔王城で、出来る限りの救護へと回ることになった…。
こうなると…城に残っていたメーラのことが心配だ…。あいつのことだからケロリ…としているような気もするが…。
「おーい!誰か!返事しろ!助けに来たぞ!」
俺の声が響いても…反応は無い…。まさか…ここら一帯にいるやつらはやられているのか?だとしたら…この強襲を仕掛けたやつは相当強いやつだ…!
…ここからいなくなったこと考えると…目的を果たしたのか…興味を失ったのかわかんねぇが…。
待てよ…。もし…俺と別れていたクリスとウザインが城に戻っていたら…!そのあとに…襲いかかられたとしたら…!
マズイ…!予想以上に嫌な予感がする…!
まさか…パルバリーナの仲間が強襲を仕掛けた…なんて可能性もあるんじゃ…!
「くそっ!誰か!返事しろ!」
俺の焦燥はさらに激しくなる…。それは…重体のクリスに対する心配もあったかもしれねぇ…。
とにかく…クリスが巻き込まれていないことを祈るばかりだ…。
そう思っていると…
『ガッ…ユッ…ガガッ…サマ…』
「…!この声は…!」
突然…俺の頭に響く声…。これは聞いたことがある…。
俺がこの世界にやって来て…クリスとフィールが喧嘩しそうになったあのとき…
『はい…。旧型のアンドロイドは他人の心に語りかけることができます。ついでに、愚民様の考えていることも理解できるのでございます…』
そう…クリスとフィールが一触即発の展開の時…メーラが俺にテレパシーで語りかけてきたんだった…!
あれ以来…メーラから話しかけられることはなかったんだが…。
「ってことは…この近くにメーラが!?」
だとすれば…すぐに探さないと…!声が届いている…ってことはそう遠くないはず…。歩いてすぐってほどじゃないかもだが…。
「おい!メーラ!聞こえてるなら返事しろ!助けに来たぞ!」
さっきの声…普段のあいつとは違う…。所々途切れてたし…なにより…苦しそうだった…。
もしかすると…相当なダメージを負っていたかもしれねぇ…。早いとこ見つけないと…手遅れになる!
タッタッタッタッ…
「メーラ!どこにいる!教えてくれ!」
早まる鼓動を抑えながら…俺は急ぎ足で探す…。
紅い髪を持つ…メイド服のアンドロイド少女…。一目見ればすぐにわかるってのに…まだ見つからない…。
そうして…いつの間にかたどり着いた場所は…
「…!…んだよ…これ…」
そこは…絶氷の世界…。
俺がいた監獄ブォルパスの『氷雪の間』とは別の…恐ろしいほどの寒さが肌を刺激する…。
吹雪が舞っているわけじゃない…。ただ…辺り一面に突き刺さっている巨大な氷柱から…異様な冷気が発されている気が…。
異様な…って言ったのは変な感じだが…そう言うしかねぇ…。
まるで…意思を持っているかのような冷たさが空間を支配している…。まさに…自然にできたものじゃなく…人工的に作られた世界…というべきなのか…。
くそっ…!説明すんのがムズいが…とにかく気味のわりぃ場所だ…。
そんなことを考えていたその時…
「…!メッ…メーラッ…!」
ホンの少し離れた場所に…見慣れた姿が…!
だが…一目見ただけで俺は絶句してしまった…。
「…!…っ…!」
メーラの姿は…無惨な状態…。地面から突き上げられた無数の氷柱に体を貫かれ…紅い液体が滴り落ちている…。
あいつの自慢の髪の毛は…中途半端に切断され…地面にいくらか散らばっていた…。
そして…
ダッダッダッ…!
「くそっ!意識はあるのか!?しっかりしろ!」
瞳は開かれた状態でありながら…そこに生気は宿っていない…。まるで…死んでしまったかのような絶望がそこにある…。
そんな…そんなこと…あるはずが…!
「おい!答えろよっ!お前は…こんなんで死ぬような奴じゃねぇだろっ!早く目を覚ませよっ!」
俺は…半ば半狂乱になった状態で声を荒げる…。
それでも…
「…」
メーラは…一切答えることなく…沈黙を守ったままだった…。まるで…ただの人形のような少女が…そこにいるだけだった…。