92 迫り来る殺意…そして…
もーいや!仕事で大失敗!
寝たい!( ;`Д´)
…ダッダッダッダッ…
「はぁっ…はぁっ…」
少女…アリスは走る…。とにかく安全なところまで…。
とつぜんの襲撃…。武の心得もなければ戦う力もない…。アリスには主の無事を祈りながら走ることしかできなかった…。
いつもは主のために仕事をこなし、ある時は心を打ち解けあう…。それは本当の家族のように見えただろう…。
だが…やはり心の奥底には『レイ』の存在がいる…。できれば今すぐに会いたいと…。
しかし…『人間』をやめてしまった自分の姿を…果たして信じてくれるのか…。そういった不安が募り、結局会うことはできない…。
そもそも…どのようにして会うのか?危険を省みず人間の国へ忍び込むのは…アリスには荷が重い…。
だが…殺されるわけにはいかない。
そうなったら…本当の意味で『レイ』と会うことは叶わなくなる。
「…はぁっ…はぁっ…この森に入れば…」
逃げた先は木々が多い繁る森の中…。ここら一帯についての地理はある程度把握している…。追いかけられることになろうと…上手く撒くことはできるだろう…。
そして…最適なルートを辿り、助けを求める…それがアリスの考え…。できればリヴリィア帝国へと帰還できればいいのだが…。
主…フィールも無茶なことはしない…と信じている。戦いが不利になれば早めに撤退し、いずれは合流することになるだろう…。
「とにかく…今は…!」
フェルデリカの襲撃から逃れる…それがアリスのすべきことであった…。
ダッダッダッダッ…
プシュッ…!
「…痛いっ…!…くっ…!」
あまりにも急いでいたのか…木の枝で足首あたりを切ってしまう…。もちろん…薄くにじむ程度の軽傷である…。
それでも…傷を受けることに慣れないアリスにとっては辛かった…。走るペースも次第に遅くなる…。
タッタッタッタッ…
「…うっ…ぐっ…!」
ドサッ…
気がつけば、その場で立ち止まり…足から崩れ落ちていた…。膝をつき吐き気に耐える…。ヴァンパイアとは思えないほど、その体は弱々しい…。
「はぁっ…はぁっ…こんな…ことじゃ…!」
必死になりながら自らの体を動かそうとするも…動かない…。足も逃げるための行動を拒否している…。
これでは…フィールの意思を裏切ってしまう…。
「動いてっ!…お願いだから…!」
パンッ…パンッ…!
右手で足を叩くも結果は同じ…。むしろ…叩いた衝撃で痛みが増すだけだった…。
そして…そんな行動も虚しく…
…タッ…タッ…ザッ…
「…あ…見つけた…におい辿るとあっという間だね…」
『殺意』…フェルデリカがやって来た…。
「そっ…そんな…!なんで…!」
恐怖と絶望で声を震わせるアリス…。自らの命を刈り取る悪魔は目の前にいた…。まさに信じられない…という心境…。
そんな疑問にも…さらりと答えるフェルデリカ。
「…フィールなら…ラマが枯渇して倒れてるよ…。まぁ…無茶な戦いしたからね…消耗も激しかったかな?…でも…フェルの狙いはあなた…。見逃してきた…」
「…フィール様が…」
「安心してよ…枯渇しても死ぬほどじゃない。いくらかは残ってるし…助けがあればなんとかなるよ?…あなたは死ぬけどね」
「…」
もはや覚悟を決めるしかなかった…。結局…自分は無力なのだと痛感することになる…。
それでも…せめて最後に聞きたいことがあった…。
「…あなたなんですね…。家族を焼き殺して…私を…奴隷商に売り付けたのは…」
「あっ…わかる?そうだよ…ぜーんぶフェルがやったの…。奴隷商のおじさんには『人間』だと嘘ついてね…」
「…それも…『レイ』のためだというの!?『レイ』は…こんなの…」
「あなたはわかってない…。あの子は強くなりたかったの…。だから…まずはあなたを始末する必要があった…。あなたは存在するだけで枷だからね…。まっ…殺してもよかったけど…生き地獄を味わわせるほうがフェルもスッキリするし?」
「…!」
「それで…フェルが導く…。人間最強の『剣聖』としてね…。最高でしょ?」
「…ふざけないで!あなたは…『レイ』のことをなにも…なにも…」
「はいはい…もういいでしょ?あなたの方が『レイ』のこと…なーんにもわかってないし…。もういいや…死んで?」
キィィィ…ン…
フェルデリカの右手から…蒼白い閃光が輝きだし…剣の形へと変わる…。
『サピロス』…命を切り裂く聖剣…。
アリスは…それ以上語ることはできなかった…。もうここで死ぬ…。大切な…想い人と会うことも叶わず…あっさりと…。
ザッザッ…サッ…
「バイバイ」
アリスの目の前…フェルデリカの言葉とともに…『サピロス』の刃が迫り…そして…
「…それ以上…『エリス』に手を出すなっ!」
ガッ…ギィィィィンッ…!!
「…!」
「えっ…!?」
切りつけようとしたフェルデリカ…そして死を覚悟したアリスの間に一人の青年の姿が割り込んだ…。
『サピロス』の攻撃を剣一つで受け止める…その人物の顔を見てアリスはハッとした…。
「『レイ』!あなた…『レイ』なの!?」
「『エリス』…遅くなってすまない…。俺もまだまだだな…」
「『レイ』…ぅぅ…」
衝撃の再会…。まさかの展開に…アリス…エリスは涙を流した…。会えないと思われた想い人…レイヴォルトが目の前に…。
今までの苦しみが一気に解放された瞬間だった…。
そして…レイヴォルトの視線はフェルデリカへと…。
「…師匠…お久しぶりですね…」
「あぁぁぁぁぁ…『レイ』…♪」
「まさか…こんな残念な形でお会いするとは思いませんでした…。エリスに刃を向けた以上…あなたをここで止めます」
「いいよぉ…フェルも久しぶりに稽古つけたかったし…♥️…始めよ♪」
二人の怪物が激突した。
お仕事って辛いお…(ToT)