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不死症候群

同じ顔

作者: 譚月遊生季

 私には、顔のそっくりな双子がいます。名前を、麻里といいます。引っ込み思案な私とは違い、明るくて社交的で、友達も多い麻里。私の友達は、ほとんどいません。顔は同じなのに、どうしてここまで違うのでしょう。彼女が友達と話しているのを見ると、醜い嫉妬心が私の心を支配しました。どうしても、彼女と私の境遇を比べて、苛々とした気持ちになりました。それでも、たった一人の姉妹である麻里を大切に思う気持ちももちろんあって……。私は、そんな自分が嫌いでした。


 ある日、麻里が私の大好きな、クラスメイトの孝之くんと歩いているのを見かけてしまいました。とてもショックで、その晩は眠れませんでした。それから、私の嫉妬心は激しく燃え上がるようになりました。今思うと馬鹿げたことですが、私は麻里が孝之くんと付き合っていると早合点してしまっていたのです。悶々と、心が締め付けられるような日々を送りました。


 けれど、そんなある日、とある心境の変化が訪れました。それは、麻里と孝之さんの楽しそうな顔を見た時のことです。二人はとても幸せそうに見え、私は、孝之さんに同じ笑顔をさせてあげられるかどうかと考えました。

……答えは、「おそらくNO」でした。私は麻里の気持ちを聞いて、もし麻里が本気なら諦めようとさえ思いました。そこで、私は麻里と話し合うことにしたのです。




 私には、顔のそっくりな双子がいます。名前を、絵里といいます。おしゃべりで五月蝿い私とは違い、控えめで、可愛らしい絵里。そんな彼女が、私はとても愛おしいのです。彼女には友達なんていらなくて、私だけで十分だと思っていました。彼女の周りを私だけにするために、色々な細工をしました。もちろん、罪悪感もあります。だって、彼女はいつも寂しそうでしたから。それでも、たった一人の姉妹である絵里を他の人に渡したくなくて……。私は、そんな自分が嫌いでした。


 ある日、私は絵里がクラスメイトの孝之くんを好きだということを知ってしまいました。すかさず私は、絵里から孝之くんを奪おうと、行動を起こしました。今思うと、本当に酷いことをしようとしていたと思います。まず、明るい笑顔で話しかけ、お茶に誘いました。すぐに私と孝之くんは仲良くなり、計画通りに日々は進んでいきました。


 けれど、そんなある日、とある心境の変化が訪れました。それは、孝之くんが絵里の話をしているのを聞いたときのことです。孝之くんは、絵里のことを話す時、とても楽しそうに見えました。孝之くんなら、絵里のことを幸せにしてあげられるんじゃないかと、本気で思いました。

……それから幾度も考えました。そして、私は絵里の気持ちを聞いて、もし絵里がまだ孝之くんのことを好きなら、背中を押してあげようと決意しました。そこで、私は絵里と話し合うことにしたのです。


***


「麻里、話があるの」

「絵里、私もよ」

「あのね、私、孝之くんのことが好きなの。麻里はどう?」

「……やっぱり、そうだと思った」

「え?」

「絵里が孝之くんのことが好きなのは知ってるわ」

「ど、どういうこと……?」

「孝之くん、絵里のこと話す時、とても楽しそうよ。チャンスなんじゃない?」

「え、ええっ!?」

「ふふ、双子なのよ? 分からないと思ってたの?」

「も、もしかして、私にチャンスを作るために……?」

「さぁ、どうかしら」

「……ありがとう! 麻里!!」

「いいえ。それより、早く告白してきたら?」

「……うん!」


 その後、私は無事に孝之くんに告白し、恋人同士になりました。麻里には、心から感謝しています。

 あの後、孝之くんに告白した絵里は、とても嬉しそうでした。私は、二人の幸せを、心から願っています。


***


「麻里、さっき彼が買ってくれた服どうかしら?」

「とても似合ってるわ。ほら、孝之くんもとてもご機嫌じゃない!」

「やった! 麻里が選んでくれたおかげよ」

「ふふ、どういたしまして」

彼は、そんな私たちを微笑みながら見てくれています。デートに二人で行きたいというわがままを、彼は笑って聞いてくれました。本当に、優しい人だと思います。

ふと、彼の携帯が鳴りました。彼は一言「出てくるよ」と言って席を立ちました。

「孝之くん、良い人よね。絵里が羨ましいわ」

「ふふ、麻里にもきっといつかいい人ができるわよ」

「あら、ありがとう」

「いいえ」


優しい姉妹がいて、本当に良かったと思います。私たちは、これからもずっと一緒です。


***


死んだのはどっち? 認めなかったのはどっち?

愛情から? 罪悪感から?

そんなこと、どうでも良いわ。


だって、今が幸せだもの。



***


「麻里、さっき彼が買ってくれた服どうかしら?」

「とても似合ってるわ。ほら、孝之くんもとてもご機嫌じゃない!」

「やった! 麻里が選んでくれたおかげよ」

「ふふ、どういたしまして」


 僕はその様子が楽しくて、笑みを浮かべながら見つめていた。その時、携帯の着信音が鳴り響く。案の定クラスメイトからだった。僕は彼女たちに一言告げて席を立ち、電話に出た。


「なぁ、どうだ?」


 電話先の彼は、妙に怯えているような声だった。震えているのが、電話越しでも分かる。


「どうって、何が?」

「いや、噂ってマジなの?」


 どうやら、彼も聞きつけてきたようだ。この一週間、同じことで色んな人から電話を受けている。そして、誰も彼もが好奇心と恐怖の入り混じった声で、「噂」のことを聞いてくるのだ。


「本当だよ」


 そう言うと、彼は驚いたように短く悲鳴を上げ、自分を落ち着かせるかのように息をついた。しばしの沈黙の後、ようやくひそひそとした声が聞こえてくる。

……そんなに怖がることでもないのに。


「じゃあじゃあ、階段から落ちて死んだのは、麻里と絵里、どっちなんだ?」

「さあね。服装も同じで、結局分からなかったらしいよ」


 平然と答える僕が信じられないのか、彼はゴクリと喉を鳴らした。そして、ためらいながらも。好奇心のすっかり失せた、恐怖に満ちた声を絞り出す。


「……お、お前、怖く……ないの? 気味悪くねぇ?」

「何が?」


 思わず口元がニヤつくのが、自分でも分かった。だって、こんなに面白いものは、めったに見られない。それに、

特に僕に害があるとも思えない。


「僕、正直どっちも好きだったし、二人と付き合ってるみたいでお得じゃん」


 そう言って、僕は彼女たちの方をちらりと見る。ガラスに移った「片割れ」と話す彼女は、とても楽しそうだ。どんな口論があって、どちらが死んだのか、そんなものは知らないし、知る必要もない。けれど、両方が生きている幻想の世界、いや、理想の世界は、さぞかし居心地が良いことだろう。

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