彼の背中に近づきたい-9
関口さんとは、前に行った喫茶店で落ち合った。彼女は、先に店にいるといった私を気遣って、急いで駆けつけてくれた。
関口さんは、私の姿に気づかず、喫茶店の中をうろうろしている。
軽く手を挙げ、関口さんを呼び止めた。
「ええっ、本当に友芽ちゃんなの?」
私は返事をする代わりに頷いた。
「ひどい顔ね。何かあったのね」
顔中マスクで、目だけ出てる。目だけ見てもひどい顔だって分かるんだ。
私は、頷いた。優しくされてまた、涙腺が緩む。
「志賀くんと何かあった?」
私はもう一度頷いた。
関口さんが心配そうに顔を近づける。
「もう、宗佑にひどいこと言われたの?」
「いいえ。でも…彼に振られちゃいました」
関口さんの目が大きくなる。
「ええっ?振られる?振られるって、宗佑が友芽ちゃん振るってことよね」
「はい」
「ありえないよ。そんなはずないって。
う~ん…私が言ったって説得力ないか…ごめん、慰めになってないね。
ねえ…なんかの間違いじゃない?よく考えてみて?宗佑が友芽ちゃんにそんなこというとは、思えない」
夜這いみたいな真似して軽蔑されただなんて、真面目な関口さんには、死んでもいえない。
私は、顔を上げた。
「いいんです。志賀くんのことは。それより、相談があるんです」
「なに?相談て」
「私、会社辞めようと思います。っていうか…もう行けません」
「ほら、泣かないの。さあ、食べましょう。今日は奢ってあげる。後で、ちゃんとあのバカチンにお灸をすえとくから。ね?泣かないの」
もう、決めよう。
早坂さんが来てもいいと言ったら。
志賀くんには…二度と会わない。
もう一度志賀くんに会って話せって言われたら、恥ずかしくて死んでしまう。




