彼の気持ちー16
早坂さんはしばらく、考え込んで、ゆっくりと起き上がった。落ちていたシャツを羽織ると、私に向かって言った。
「仕度しろよ」
「えっ…」
私は、体を起こして、捲れ上がったシャツを下に引っ張る。
「送って行くから…」
早坂さんは、無表情でいう。
「早坂さん?本当にいいの?」
彼の顔をみあげる。
「あいつの所が、いいんだろう?」
「ごめんなさい…」
早坂さんの車で、志賀くんの家に向かう。
時刻はもう12時近い。志賀くんもう寝てるだろうな。志賀くんには、何も言わないで出てきてしまったから、今日はもう、会えないかも知れない。
「友芽…」
「ん?」
「もし、うまく行かなかったら…戻って来いよ」
「ありがとう…」
「そんな嬉しそうな顔するな。
また、あいつにやった訳じゃない…」
「ん…」
志賀くんの家が見えて来た。
「ありがとう…ここでいい」
「友芽…」
ドアを開けようとしたら、抱きしめられた。早坂さんが、最後だからと唇を重ねてきた。
「友芽…気が変わったりしないか…待て、まだ行くな」
「ん…」
「やつに相手にされなかったら…」
「その時、考える」
「じゃ、行くね」
私は、早坂さんの方を振り返らずに、志賀くんの所に向かってまっすぐ歩いた。




