事件ー5
「乾杯しよ!飲むぞぞおお!!」
私は、自分のグラスを
志賀君のグラスに押し付けた。
しまった、と思った時にはしらけた志賀くんの顔が目に入った。
無駄に上げたテンションのまま、私は、自分のジョッキを志賀くんに突き出してしまった。
あちゃあ…今日に限って隣は小野君じゃなかったの忘れてた。
ああ…
彼は無表情のまま、面倒くさそうに視線を私に向けた。
それ、俺にやれってこと?っていいたげにグラスを持ってる。
ノリ悪すぎ!!少しくらい笑ってくれてもいいのに。
確かに普段と違った。少しやけになってたのかも知れない。
「お前…よく、そんな笑ってんな」
ほーら来た。
人の傷口に塩をぬるようなやつ。
私は、突きだしたビールジョッキを奴の頭の上から、ジャーっとかけてやりたい衝動に駆られた。
「バカ!」
絵梨が代わりに怒ってくれてる。
でも、今夜はそんなせりふ二度と聞きたくない。
「こんな場所、嫌だ。席変わって」
私は、自分のグラスと荷物を持つと、
彼から一番遠い席に、
無理矢理入れてもらった。
「なんた、友芽じゃん。どうしたの?」
小野君が声をかけてくれた。
「志賀くんが意地悪するから逃げてきた」
「何だよ、それ。小学生か。
俺達が、奴に文句言っとくから、まあ飲めよ」西田君も気を使ってくれる。
志賀くんが意地悪だって気にすること無い。
「いいよ。そんなこと言わなくて。もう顔も見たくないし、口も聞きたくない」
志賀くんの嫌味なんて、もう聞きたくなかった。
言われても仕方ない…
志賀君の言う通り、彼のほうが正しいのだ。
笑ってごまかしてる場合じゃない。
本当にお前、反省してるのか?
今、一番言われたくない言葉だ。