同居ー25
綱引きをして取り合った野菜は、逃げ出したり行方不明になって、数が足りなくなってる。しかも、肝心な肉を買い忘れ、冷蔵庫には、半年以上前の冷凍肉しかないとわかって、うなだれていた。
「俺は、昨日のおかずがあるから、大丈夫」
と志賀くんが言った。
「そっか…そうだね。じゃあ…温めるね」
痛っ…
鍋を持とうと思ったけど、力が入らない。
「指…見せてみろ」
ビニールの持ち手の跡が、赤くなって筋状に残っていた。軽く握った指をほぐすように、彼の指が優しく包み込む。
「こんなになるまで…何でさっさと手を離さないんだ」
「腕をつかまれないように、振り回すの。抱えられた時は…終わりだと思った。
さっきの人みたいに、見てくれがいいと、抵抗しても嫌がってるって、周りの誰も思ってくれないの。
カップルの痴話喧嘩だと思われて…腕をつかまれて、暗い道に連れ込まれたら、もう逃げられない」
「痛むか?」
私は、首を振る。
気がついたら、私は、志賀くんの胸にしがみついた。
志賀くんが何かいう前に、タックルみたいに抱きついて、声を出してわんわん泣いた。
「泣くな、シャツが濡れると気持ち悪い」
っていいながら、彼は、私の肩を指でつついて、軽く引きはなそうとしている。
「どうして、私だけこんな目に合うのかな。簡単に相手になると思えわれてるのかな」
「そうじゃない。友芽見てると、押さえがきかなくなるんだ」
「どうして分かるのよ」
「俺も、同じだから」
「志賀くんはそんなふうにならないじゃない」
「俺だって臆病なだけで、他のやつと違わない」
志賀くんが立ち上がろうとしたので、
引き剥がされないように、私がぎゅっと子供みたいに抱きついた。
「いや」
志賀くん、あきらめたのか、そのうち何も言わなくなった。
泣いてる女に弱いのか、志賀くんはそれ以上、あっちへ行けって言わないで、辛抱強く私が泣き止むのを待っていた。
好きな人の胸の中って、どうしてこんなに落ち着くんだろう。
今まで抱えていた不安や苦痛が、みんな溶けて無くなっていくみたいに、いい気持ち。
毎日じゃなくていいから、時々こうして抱きしめてくれると、安心していられるんだけどな。




