事件ー3
「志賀くん、飲んでる?」
「ああ」
間が持たなくて、絵梨が何の脈絡もなくたまたま目があった志賀君に話題を振った。
ちょ、ちょっと待って絵梨ったら、何してるの!!
相手は志賀くんよ。分かってる?
せっかく、大人しく一人で飲んでるのに、話なんか振ったりしてないでよ!!
寢た子を起こすようなこと、止めようよ。絵梨…
志賀くんは、私の隣にいて、
私達の会話に参加することなく、ひっそりとお酒を飲んでいた。
こうしてると、人畜無害だ。
黒い髪に、切れ長の目。肩幅が広く、意外にしっかりした体格。
よく見ると堀の深い顔してるし、ぽてっとした厚ぼったい唇も結構好みなんだけど。
残念ながら、周りの女の子から近づきがたいと思われてる。
難攻不落な孤島のお城のよう。だから、放っておくのが一番。
志賀くんって確か、開発部門の研究員で白衣を着て歩き回ってたのを見たことがある。
彼の仕事場は、他の部署から少し離れた研究施設の中にあって、製品化のテストかなんだかを受け持ってる。らしい。
「仕事、何をやってるの?」
なんて、話題が尽きて苦し紛れに質問したら大変だ。
今やってる実験の話になって、そこで、余計な質問をしたら、そこから話が広がって、専門用語の洪水になった。
周りも、聞いてるうちに相槌も打てなくなる。
もう、誰も理解できなくなって固まってしまったことがあった。
大学院を出てるから、私より二つ上だし。頭いいのは分かるんだけど。
その場にいた女の子達の評価は、
『志賀さんって格好いいけど、話を聞いてると地蔵になる』だった。