事件ー10
「木原、どうやって帰る?」
いつの間にか、志賀くんが後ろにいた。
志賀君に声をかけられた時は、本当に驚いた。
「ええっ?」帰るって、一緒に帰るの?
志賀君が質問の答えを待ちながら、
私の顔をじっと見てる。
一人で帰りたいって、言えない雰囲気…
実は、入社して何年も経っているけど、志賀君と2人きりになるのは、これが初めてかもしれない。
やだな、緊張する。
いつも間に誰かいて、志賀くんに対応してくれる。このまま何も話さなくて、家まで帰れるかな。出来れば、歩くの遅くてはぐれちゃうのが一番いいんだけどな。
「俺、京王線だけど」
張りのある低音の、男らしくいい声してる。
感心してる場合じゃないか。
「私、小田急線だから、新宿まで同じだね」
ほっとする。
新宿までならすぐだ。下向いて寝た振りしてればすぐに駅に着く。
私が降りる駅を伝えると、彼は、しばらく黙ったまま考え込んでる。
新宿駅に着いても、彼は何かを悩んだまま、何かが気に入らないのかとにかく無言で歩き出した。
私の事なんかどこにも存在しないみたいに、どんどん先に歩いていく。
やっぱり、面倒だから、一人で帰るって言ってくれないかな。なんて考えてた。
改札を抜けようと思ったら、いきなりドンとぶつかった。
彼が急に立ち止まったのだ。




