対立1 犬になーれ!!
〔フフフ……何を隠そう、この私こそが一糸まとわぬ姿を透視できる魔視能力者、フェン・タイーンだ。〕
誰もが知ってる名前の存在ではない。むしろ知らない。
フェンというのは男で、好色魔で、史上最悪のヘンタイリストだと……。
片南高校在学生の蟻川多荼奈。彼女は放課後、頭上にダークな雰囲気を覚え、気味が悪いと早く帰宅していった。
多荼奈の部屋の中。
頭上のダークオーラはなかなか消えやしなかった。思わず声をあげてしまった。
「こんなことするの誰よ。あたしを視ているのなら、やめて!!」
そうである。多荼奈を覗いていたのだ。正体はフェン・タイーンだった。
「まさか、見抜けるとはな。神の眼識ある娘だな。失礼、自分は、透視能力をほこる者、フェン・タイーンである」
「透視? 裸見たの? なんて嫌らしい!! このヘンタイ!! 死ねー!!」
「『このフェン・タイーン、死ね』だとっ!? 言わせておけば、娘……絶対にただではすまさん!!」
「ふぇんたいん、しね……なんて言ってないわよ。ヘンタイ死ねと言ったのよ」
「問答無用」
「あんなダークオーラのコスプレヘンタイには、厄払いが必要だわ。せめて精神を何者かに変えたいな。よう~し」
「何、たくらんでやがる」
「(イチかバチか)犬になれ!!」
身体は人体のままだが、精神は『犬』になってしまったフェンだった。
『ワン、ワンッ!! ウウウ~、ウァン!!』
「ウソ!? なら……あの鉄塔の向こうに裸のオネエサンがポーズとってるわっ」
『ワウォ~ン!!』
多荼奈の部屋の窓から飛び出て、鉄塔の見える果てまで駆け抜けていったフェンだった。
「ふーう。なんか判らないけど……一件落着だわ」
一方、鉄塔近くに犬のオーラが効果切れになり、我に返った。
「自分はいったいどーしたのか? むむむ!? あの娘め~!!」