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暗い星カプリコーン

作者: 大原英一

 カプリには計画プランがあって、コーンはカプリが嫌い。コーンはもちろん、カプリのプランなど知らない。



 もし明日ぼくが死ぬとしたら、ぼくは何をするだろう? 明日せかいが滅ぶとしたら、じゃなくて、消えるのはぼく。


 明日この星が消滅するなんてウソっぱちさ。わるい噂がたっているんだ。

 そんなことありませんよ、と政府がひっしに呼びかけている。みんな、なんだかソワソワしている。


 なんの話だっけ? そうだ明日ぼくが……だったね。ぼくはマンガを描く。そうすれば、ぼくがいなくなってもマンガは残るだろ。


 あと一日しかないのに、ほかにやることはないの? おいしいものを食べるとか、女の子とデートするとか……。


 だったら女の子とデートして、おいしいものを食べるマンガを描くよ。あなたっていつもそう、実現しようと思わないの? それで満足?


 なにしろたった一日だからね、満足したってはじまらないさ。あなたのマンガなんて誰が読むの? 誰が得をするの?


 ぼくをわるく言うのはかまわないがコーン、ぼくのマンガの悪口はゆるさないぞ。あなた、いったいどっちが本当のあなたなの。マンガ? それとも現実カプリ



 コーンがうるさいので、ぼくは旅に出た。といっても彼女も一緒になんだが……。


 ぼくは勇者で魔王をたおしに行く。ぼくは魔王で勇者をたおしに行く。ぼくが勇者でコーンがまお……はたかれた。


 せっかくなので行ってみたい場所があった。あと一日だ、思い残すことがあっちゃいけない。


 そこはこの星のヘソと呼ばれる場所だ。秘境で位置ポイントは誰もしらない。誰もしらない場所にどうやって行くの? なんとかなるだろ、あと一日だ。


 ったく、あなたって人は。……ジャジャーン、『どこでも地図ぅー』。おい、なんだそれ。だいたいわかるでしょ、すべてを見渡す地図よ。アクエリオンみたいに言うな。


 ってなわけで、この星のヘソに到着ぅー。さくさく行きましょ、あと一日だ。そこにはヘンな長老みたいな人がいた。こういう場合、だいたい長老だ。若いやつだと説得力がない。


 やいジジイ、ぼくたちに説教するつもりか。いきなりワシの家に来て説教するつもりか、はおかしいじゃろ!


 家ですって? ここは、この星のヘソじゃないんですかお爺さん。いかにも、ここはこの星のヘソじゃ。ワシャここに住んでおる、だからここはワシの家なんじゃ。


 なんだとジジイ、いますぐ出て行け! だからおかしいじゃろって! カプリあなた、そんなキャラだった?


 ……すみませんでしたお爺さん。気が急いてしまって、なにしろあと一日なもので。さあどうぞ、説教をはじめてください。

 

 ボウズ、おまえはなぜワシに説教させようさせようとするんじゃ。ワシャ説教などしたくないわい。

 

 お爺さん、あなたの望みは何なんです? コーンそれ、おかしくね? ワシの望みは……。言うのかよ!



 おまえたちにワシが見た夢の話を聞いてほしい。それはこの星が滅亡する的な? いや、大学で単位が微妙で卒業が危ぶまれる夢じゃ。くだらねーっ。


 可笑おかしいとは思わんか、この歳になってまだ社会に出るまえの夢を見る……。お爺さんはギリギリで卒業したんですか?


 いや、そういうわけでもない。じゃが運動は嫌いで体育の授業はよくサボっていた。じゃが体育は必修科目だった。大学まで来てなぜ体育をせにゃいかんのか意味がわからんかった。


 ははあ、それじゃ体育を落としそうになったんですね? まあ試験があるわけじゃなし、必要最低限の出席日数を稼げばよかったんじゃが……。


 なにか問題が? うむ、匙加減じゃな。たとえば一〇回中六回、出席しなくてはならんとする。つまり四回は休める。この休みをどんな塩梅で入れていくかがワシを悩ませる。どーでもいいです。


 さ、ワシはもう行かねばならん。あとのことは頼んだぞ。えっ、ちょっと待ってよどういう……。コーン、おまえもかよ! 爺さんと旅に出るっておかしいだろ!


 くそ、なんだこれコーンたちに近づけない……。まるで強力な結界みたいだ。これが、この星のヘソが持つ磁力か。じゃあ、なんでアイツらは動けるんだ?


 ああそうか、そういうことか。これは枠線だ。マンガの枠線なんだ。どう足掻いたってその外に出ることはできない。じゃあ、なんでアイツらだけ……。


 考えても状況は一ミリも変わらなかった。ぼくはここに閉じ込められた。あと一日だってのに。



 あと一日どころか、数日たっても数十年たっても状況は変わらなかった。ぼくはお爺ちゃんになってしまった。


 いったいどういうことだよ、これチクショウ。せかいが滅ぶなんてウソっぱちじゃないか! それとも、せかいはすでに滅んでいて、ぼくだけが生き残っているのか。それとも、ぼくはすでに死んでいて、幽霊のようにこの場所に居ついているのだろうか。


 それでも、ときどき旅人がここを訪れてワシを楽しませた。彼らとの会話だけがなぐさめじゃった。


 若者よ、どこへ行く。決まってんだろ、魔王を倒しに行くんだ。すると、おまえは勇者か。まあ、そんなもんだ。おまえの名は? カプリシャス。


 カプリシャス? どこかで聞いた名前じゃな……ま、いっか。ところで、ここへ何しにきた。賢者の話を聞きにきたのさ。


 賢者って、ワシのことか。違うのかい。違う。ふん、自分で賢者って言うやつはいないさ。やっぱあんたは本物だよ。


 その賢者とやらの話を聞いて、どうする。決まってんだろ、魔王を倒すための秘訣を聞き出すのさ。おまえマジか、ワシがそれを知っているとでも? かりに知っていたとして、なぜおまえに教える必要がある。


 話長ぇな、教えてくれないんならオレはもう行くよ? あっ、ちょっと待て教えてやらんこともない。だからまあ、ちょっと落ち着いて話そうじゃん……(ヒマなんじゃワシ)。


 ところで、その魔王というやつは、どこにおる。さあ……どっかに居るんじゃね? アッ、アバウトじゃなー。じゃあアレか、おまえは魔王さがしアンド討伐みたいなスタイルか。


 まあね、魔王の居場所知らない? うーむ……ところで、その魔王というのは悪いやつなのか。だから話長ぇよ、魔王ってんだから悪いやつに決まってんだろ。


 なぜ、おまえは魔王を倒しに行く。あーもういいや、オレ行くわ。魔王はこの世に何人おる。おいちょっと待て、勇者はこの世に何人おる! 勇者なんて必要か?



 ふう、ひさしぶりにボルテージがあがったわい。ったく最新の……最近の若いモンときたら。ん、お嬢ちゃんワシになんか用かい?


 お爺さん、あのぅ……さっきここに男の子が来ませんでした? ああ来たよ、クソ生意気なヤツじゃった。友だちかい?


 あれ、兄なんです。そうかい変わったお兄ちゃんじゃな。じゃあお嬢ちゃんも、これから魔王退治? 兄は夢見がちで……ときどきおかしな行動にでるんです。魔王なんて、いるはずありません。


 こりゃまた正反対の、しっかり者の妹じゃな。ここへ何しにきた。お兄ちゃんを追ってきたのか。少女はこくん、と頷いた。お婆ちゃんからこの星のヘソの話を聞いて、それでお兄ちゃん、行きたがっていたから。


 なんじゃアイツ、魔王退治ちゃうんかい。……お婆ちゃんは、ここのことを知っていたんかい。


 ええ、お爺さんと昔知り合いだったって。……お婆ちゃんの名前は? コーン。……お嬢ちゃんの名前は? カプリコーン。


 カプリコーン……昔そんな名前の星があった、もう滅んでしまったがな。美しい星じゃった。お嬢ちゃんはきっと、その星の生まれかわりじゃな。

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