夜道
「落ち着いた?」
「うーん、まぁさっきよりはね」
エルスが手に持つ小さなオイルランプの儚い光が夜道を照らす。夜も遅いし、寮へと帰る途中に全てを説明しようとしたのだ。
「で、それいつの話?」
「一週間くらい前かな」
「なんでまた、その…なんていうか…」
「別れた理由?」
「エルス、あんた本当に直球ね」
「変化球投げてどうすんのよ」
くすくすと微笑むエルスにあわせ、ランプの光もゆらゆらと揺れた。そして気づけば、寮の灯りが木々の間にちらついていた。
「で、詳しい事は明日聞くとして…理由だけ教えて」
「…好きかどうか分かんなくなったんだって」
「そんな理由で?」
「そう、だから……ちゃったの」
突如吹き荒れた風に、エルスの声はかき消される。アリシアは聞こえないながらも自分なりに解釈したようで、小さく頷いた。
「そっか…。今回の事、あんま考え込まないよーにね!」
「うん、大丈夫よ。ありがとう」
「よしっ、送ってくれてありがと!おやすみ」
「おやすみなさい」
寮へとかけてゆくアリシアの背を見送り、エルスも小屋へと帰るかと思いきや反対方向の聖堂へと足を向けた。
木々の間をすり抜け、ランプでは照らしきれない道の先もエルスは把握し尽くしているのか迷うことなく進んで行く。
あっという間に中庭に抜け、聖堂へと辿り着けば躊躇うことなく扉を開けた。
聖堂内は静寂に包まれている、はずだった。
人の声がする、こんな時間に訪れる人などいるはずないのに。
エルスは無意識に息を潜めた。
そして足音を極力立てないように、音という音を殺し静かに聖堂の奥へと進む。
すると、祭壇の端から人影が見えエルスは思わず声をあげてしまった。
「誰なの!!」
「怪しい者じゃないから!!」
聖堂に、男女2人の声がこだました。