お茶の時間
聖堂から少し離れた学園の奥地、木々に隠れるようにしてひっそりと建っているのは『エルスの部屋』と呼ばれる小さな家。
学寮に部屋を持てないエルスはそこで生活をしている。
「コーヒー?紅茶?」
「ミルクティーがいい、なにある?」
「アッサムのファーストフラッシュが来たばかり…ミルクには合うわ」
「じゃあそれでー」
エルスは小さく頷くとお湯を沸かしにキッチンへと立つ。小さな鍋にに水を入れ火にかける。その間に小瓶から茶葉を取り出し、パールの様な輝きを放つ白い陶器のポットへと入れていく。お湯が沸いたらそれをポットに静かに注ぎ入れ蓋をし数分蒸らす。
これらの作業を手際良くこなすエルスの姿を、アリシアはこれまでに何度も見てきた。
「なんで、こうなったかねぇ…」
共学棟に通うアリシアと女学棟に通うエルスでは接点などまるでなかったのだが、今では互いの部屋を行き来する程の仲にまでなっていた。
「最初は紅茶の匂いに誘われて来たらエルスの部屋だったってだけだったわね」
ティーポットを持ったエルスは小さく微笑みながら答える。持っていたポットをテーブルの真ん中へと置けば少しだけ蓋を開け香りを解放させた。
「そうそう、こんな匂いだったねぇ…」
辺りに広がる芳醇な香りを、アリシアは目を細めて堪能した。
「あと少しそうしてて、カップ持ってくるわ」
そう言うとエルスは様々な種類のティーカップ等が所狭しと並べられている食器棚のガラス戸を開き、薄紅色の小さな花模様をあしらったハイハンドルのカップを二組持ち出せばテーブルへ手際良く並べた。
「新しいカップ?」
「そう、よく気づいたわね!」
アリシアがまじまじとカップ眺めているとエルスは嬉しそうに微笑みながら、そのカップにそっと紅茶を注いだ。
それを追うようにカップへとミルクが注がれた事でより一層広がる香りは二人の鼻腔をくすぐった。
ティーカップを優しくテーブルへ置き、エルスも席に着けばそっとアリシアの方へティーカップ寄せ
「どうぞ」
と促した。
「…いただきます」
一呼吸置き小さく呟いたアリシアは、そっとカップの淵に唇をつけ一口ミルクティーを飲む。そして次の瞬間、濃厚な甘みとコクにアリシアの瞳は輝いた。
その様子をエルスは嬉しそうに見つめていた。