消えた光
ステンドグラスから差し込む陽射しは、聖堂内を華やかな色で染め上げる。その柔らかい光に照らされエルスは目覚めた。
幻想的な光に満ちた空間に暫しうっとりとしていたものの、少しの蝋で辛うじて燃えている炎に気付きため息を吐く。
「一晩じゃ、足りなかったのね…」
悲しげではあったがどこか冷たい瞳でそれを見つめ小さく呟けば、真っ黒になってしまったワンピースタイプの制服の裾をを翻し立ち上がる。その刹那に起こった風に、炎は負けることなかった。
エルスは目線の下で今もなお燃え続ける炎を一瞥し、聖堂を後にした。
炎はひっそりと燃えそして誰にも知られることなく静かに消えた。
外に出ると清々しい青空が広がっていた。風が木々を揺らし木洩れ陽をエルスはくすぐったそうに見つめていた。
「エルス!あんたまたこんなところに居て!」
爽やかな風に乗せられたかのようにやってきたのはエルスの友人、アリシアだった。
「ここはもう立ち入りだって何度言えば分かるの!」
「分かってはいるって」
「いつ完全に崩れるかなんて分かんないんだから、気をつけてよ?」
エルスが今まで居た聖堂は数年前の地震によって半壊し、新しい聖堂が建った今では廃虚と化しているのだった。外壁や屋根は崩れ、手入れのされなくなった内部も荒れ果てたこの聖堂を何故かエルスは気に入っていたのだ。
「きっとまだ崩れないよ、大丈夫」
何を根拠に言っているのかとアリシアは思うも、薄汚れた壁を愛おしそうに撫でるエルスの姿に暫くの間言葉を失った。