出逢い
「ここはどこ?」
少女は見たことも通ったこともない森の中でポツリと声を漏らした。
それはそれは何もないいつも通りの晴れた日だった。
いつも通り学校に向かう途中、少女は穴に落ちた。
工事をしているわけでもマンホールが開いていたわけでもない。
彼女が一歩踏み出した地面にぽっかり穴が開いたのだ。
そして、穴は彼女を飲み込むと静かに消えた。
「さて、どうしたものでしょう?」
何が起きたのか全く見当もつかない少女は辺りを見回した。
通学路とは似ても似つかない見覚えのない薄暗い森の中。
小鳥の声が聞こえ風がそよそよと少女の髪を揺らす。
はぁと小さく息を吐くと辺りに散乱した自分の荷物をかき集めた。
「携帯も圏外…」
「けーたい?それ、何に使うの?」
「これは電話をするものですよ?知らないのですか?」
このご時世に携帯を知らない人もいるのかと不思議に思ったのと同時に少女はビクっと体を震わせた。
そしてそのまま一歩後ずさりをすると背中が木にぶつかった。
「どどど、ど、どちら様ですか!?」
「そんなに驚かなくてもいいのに。」
先程まで少女が立っていたところに涼しげな顔をした青年が首を傾げながら立っていた。
綺麗な金髪に琥珀色の瞳を持つ青年。
「ねぇ、それより君は何者?」
「え?」
「見かけない服装だし、それにこれは本物?」
え?と青年の言っている事が理解できず首を傾げているといつのまにか目の前にまで迫って来ていた青年がぎゅっと何かを掴んだ。
「にゃっ!痛い痛い!なになになに!?」
「あ、本物なんだ。」
青年の手元を見ると黒い尻尾の様な物があった。
その尻尾の様な物を目で辿ると何故か自分のスカートの中に続いている。
「え?ええええ?!」
「因みに、自分の頭を触ってごらんよ。」
少女はハッとして自分の頭に手をやると何かふわっとしたとても肌触りのいい何かが手に当たった。
「も、もしかして…」
先程かき集めた荷物を漁り手鏡を出し自分の姿を確認する。
「み、み、耳~~~~~!?」
あまりの驚きとありえない現実に思考停止をしてしまった少女が口を開けたまま明後日の方向を見つめていると急に辺りの雰囲気が変わった。
いや、厳密には目の前にいる青年の纏うオーラが変わったのだ。
「来たか…ねぇ、君、死にたい?」
「え?」
突然物騒な言葉が聞こえたような気がしたが目の前の青年はニコニコとほほ笑んでいる。
いや、目は笑っていないから冗談でもないようだ。
少女は追いつかない思考を必死に巡らせて考えた。
考えた結果が…
「ま、まだ、死にたくないです!」
「そう。じゃぁ、僕が拾ってあげる。」
「ひ、拾うって…」
少女がチラっっと青年を見上げると恐ろしい程綺麗な笑顔をした彼と目が合った。
そして、青年は軽々と少女を肩に担いで木に飛び乗った。
「えええええええぇぇーーー!?」
「舌噛まないようにね。」
「むんぐっ…」
少女が両手で口を押さえたのを確認すると二人は森の奥へと消えて行った。