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ファイル二「恋愛捜査」C

 翌日、俺が事務所に向かうと真希さんが一人で例の黒いファイルを読んでいた。熱中しているのか、俺が来たということに気がついていないらしい。反応が無い。それどころか丸秘ファイルを片付けようともしない。

 これは完全に、気がついていないのだろう。どんだけ熱中してるんだよ。ゲーム買って貰った日の子供か。

 俺は背後から忍び寄って、真希さんの肩を思いっきり叩く。もちろん、痛くない程度に。


「真希さん、おはようございます」

「にゃあっ!? え、あ、ちょ! 居たの?」

「今来ました、真希さんあまりに資料を読むことに熱中していて気がついていないんですもん、少し驚かせてやろうと思いまして」


 俺は悪戯っぽく笑い、今度は優しく、真希さんの肩を叩く。


「もう、変な声出たじゃない。驚かせないでよ」


 驚く時も、素になるんだな。把握。なんとなく扱い方が分かってきたぞ、この真希さん。

 真希さんは黒いファイルを畳んで、元の場所へと戻す。そうして戻した場所は、下とは違う位置だった。大分動揺してるなあ。


「真希さん、今日は仕事どうするんですか? 新井君が来るまで」

「聡明君、貴方は待つのがご趣味?」


 真希さんはニヤリと笑って俺の顔を見る。その顔少し怖いです。


「いいえ」

「そう、なら行くわよ。私も待ってるだけは趣味じゃないの。本人に確認して話を聞く前に、ある程度は真実を把握しておくべきだわ」


 ああ、さっきの質問はそういう……回りくどいなあ。もう少しストレートに最初からそう言えばいいのに。


「じゃあ、大学に行くんですか?」

「ええ、行くわ。けれど、ターゲット本人と接触するわけにはいかない。接触するのはあくまでも本人の周りの人間よ」

「というと?」


 真希さんはまっすぐに、ズビシッという効果音が似合いそうなほど勢い良く、俺に人差し指を向ける。


「本人の周りからの評価や、裏の事情を探ります。今日、本人に対して貴方の推理を述べたところで、深いところまで話してくれるとは限らないからね。話さなかった時はこちらから突きつければ良いわ。今回も、依頼の二重掛けをするのでしょう?」


 真希さんは、俺の思惑をお見通しだった。怖いなあー、この人。絶対敵に回したくないわ。


「まあ、そうですね。それが俺のやり方ですし」

「なら、行くわよ。貴方が行けなかった大学へ」


 一言余計だ。しかし、大学へ行くというのは少し怖く、不安もあるが、心が躍る。行きたくても行けなかったその場所に、ゲストとしてだが行けるのだ。


「そうそう、そんな格好じゃ怪しまれるから私の家から服を持ってきたの、シャワー浴びて、これを着て頂戴」


 そう言って渡された服は、新品感溢れる服だった。皺なんてものは一切無く、というか使われた痕跡すらどこにも見当たらない。さりげなく匂いを嗅ぐと新品独特のあの匂いがする。家から持ってきたと言ったが、こんな男子大学生が好んで着るような服を真希さん一家が持っているとは思えない。

 真希さん、買ってきたな。


「ありがとうございます、早速シャワー浴びてきますね」

「なるべく早くしなさい、大学は待ってくれるけれど、人間は待ってはくれないわよ」


 この事務所には、シャワーが付いている。探偵助手という職についてからというものの、ネットカフェのシャワーを借りることも無くなって、このシャワーの存在はとてもありがたい。


 シャワーを浴びて、服を着替える。なんだこれ、すごく緊張するぞ。袖を通すと、何故だか腕の毛穴という毛穴がぞわぞわとざわめき立つ。

 無事着替えが完了し、鏡を見る。これは……大学生だ。どこからどう見てもそこらへんに居る大学生だ。なんということでしょう、あんなにみすぼらしかった俺の姿が一新され、見違えるように輝いています。服パワーすげえ。


「着替え終わりました。凄いですね、服着替えるだけでこんなに人の見た目というのは変わるものなんですねえ」

「ふふ、そうね。じゃあ、行くわよ」


 大学。ユニバーシティ。略してユニバ。映画を再現したテーマパークでは無く、若人達の学びの場だ。しかし、学びの場というにはいささか華やかだ。俺が知る学びの場というのは高校までだ。大学というのはこうも煌びやかな場所なのだな。


「そんなに目を輝かせてないで、早く中に入るわよ」

「あ、はい!」


 実地調査である。聞き込み調査、観察調査、環境調査である。ターゲットがどのような環境で日常生活を過ごしているか、それも推理においては大切なことだと真希さんは言う。その人が過ごす環境によって、その人が考えることも、その人の行動原理も、変わる場合があるからだそうだ。


 今回はその所謂環境調査であり、聞き込み調査でもある。無論、観察はいかなる時でも欠かしてはいけない。これは探偵としての掟だ。


「なかなかにいい環境整備ね、ちゃんと木々も植えられていて手入れされている。低木の配置もオシャレで、リラックス作用がありそうだわ」

「そうですね。それに、この広場には大きな木を囲むようにベンチがありますね。自然の下で休めて、生徒達は心身共に安らぐでしょう」


 自然を配置することで、この大学は外的環境だけでなく、生徒の心身の健康という内的環境も整備しているのだろう。


「それに、見てごらんなさい聡明君。生徒の顔を。皆いきいきしているわ」

「そうですね、とてもいじめが起きそうな現場には見えませんね」


 本当にここでいじめなど起きているのだろうか、少し自分の推理に自信が無くなってくる。


「もうちょっと奥へと歩いてみましょう」


 入り口付近は自然をあしらっていて、落ち着き、リラックスできる雰囲気の場所だった。奥もそうなのだろうか。ある程度歩いたところで、真希さんは足を止めた。


「ここらへんで少し観察しましょう。貴方の目には、この中庭はどう映るのかしら?」

「そうですねえ。入り口付近の広場とは違い、自然があまり配置されていませんね。それに、生徒が安らぐためのベンチなどもありません」

「それだとただ見ているだけだわ。もう一歩踏み込んでみましょう」


 真希さんは周りを見渡している。こうしていると俺よりも探偵っぽいんだよな。まあ、実際経験は俺よりも遥かに多くあるのだから当たり前だが。


「例えばそこに食堂があるけれど、こういう自然が多めな大学だと普通木材を基調とした建物と、テラスがあるわよね。もちろんテラスのテーブルと椅子も木材で出来ているはずよ。でも、材質はどう考えてもコンクリートね。レンガっぽく見えるけれど、恐らく後からレンガを貼ったのでしょう」


 ここまでは見て、推理しているだけだ。観察とは言いがたい。俺達は食堂の建物をくまなく観察する。


「ほら、ここに見えるでしょう? レンガが少しずれている。そこの隙間にコンクリートが見えるわ」


「本当だ、白いコンクリートのような材質のものが見えますね」

「ここから分かることは、きっとこの大学の学生の本質でもあるはずよ。コンクリートから何を連想する?」


 建物や、広場の様子などから分かる学生の本質……それは一体どういうものなのだろうか。流石の俺でも察しが付かない。

 そしてコンクリートから連想する言葉……これはなんとなく分かる。


「ええと、固い?」

「入り口付近は見た目を良くして、やわらかい雰囲気で生徒達がリラックスできるようにした。一方中庭は、生徒がリラックスできるとは言いがたく、固い雰囲気を出している。固いだけでなく、コンクリートの上に貼り付けられたレンガから、少し刺々しい性格も読み取れるわ。これらのことから、ここの生徒は上辺だけは良いけれど、内部では結構荒れているんじゃないかしら」


 なるほど、そう言うことなのか。真希さん、やれば出来るんじゃないか。何で今までそんな感じで推理してくれなかったんだよ。テスト期間は続いていたのか?


「次に、ここを通る生徒の顔を見てみましょう」

 食堂の壁に身を傾けて、流れ行く学生の群れを眺める。しかし、ただ眺めるのではなく、観察をするのだ。数分間観察をしていて気付いたことが二つ程あった。


「なんか皆、つまらなさそうな顔をしてますね。入り口とは違って。これはやっぱり植物効果ですかねえ。会話も乱暴な会話が多いですし、服もあまり整っていない。きっと性格も荒いのだろう。新井君や美央とは正反対な校風っぽいな」

「そうね、その通りだわ。この雰囲気や怠慢さが新井君をいじめるということに繋がったのでしょう。では、新井君の周りの人間に話を聞きましょう」

 話を聞く、とは言っても誰が新井君の友人なのか、知り合いなのか、検討が付かない。一体どうやってそれを判別するのだろうか。

「片っ端からあたっていくわよ」


 あ、しらみつぶし作戦ね。何か特別な方法で観察して判別するのかと思ったわ。まあ、ここでいきなり「私には超能力があるの、見ててね」とか言われたらそれはそれで驚くのだが……普通だなあ。

「はい、わかりました」


 二人で流れていく学生の足を片っ端から止めて「新井槍田君を知ってる?」と問う。これはかなりの不審者だな。教授とか呼ばれても文句は言えないレベル。このままでは新井槍田君、出会い系サイトやってる説でも立つんじゃないか。こうやって「なになにさん知ってる?」と訪ねて回るのって、よく高校とかで見る教育ビデオにある奴だし。

 そうやってしばらく、不審者タイムが続いた。俺達はとある男性グループに目をつけ、話しかける。


「あの、すいません。新井槍田君をご存知ですか? 私達探偵をやっているんですけども」

「探偵さんがどうして新井を?」

 お、知り合いきた! 知り合いだろ? 知り合いだよな? 名前知ってるし。


「ちょっとある案件のために、新井君の学内での評判を調べたいの。協力してくれないかしら?」


 男達は真希さんのことをちらちらと見ている。今日の真希さんは少し肌の露出が多いので、男子からしたら眼福物なのだろう。それにしても、見すぎだぞお前ら。


「はい! いいですよ」


 これ、絶対俺だけだったら断られてたよな、真希さんを見たいだけだよな。

「評判ですよね? んー、優男だってもっぱら評判ですよ。実際誰にでも優しい紳士だし。あ、でも……最近少し嫌な噂が立ってますね」

「嫌な噂?」


 こいつらの顔、ちょっと気になるな。少し何か含みがあるような気がする。確信は無いが、どこか引っかかる。


「はい、新井が先輩の好きな人を略奪しただとか泥棒猫だとか」

「泥棒猫ってどういうことだ?」

「泥棒猫は泥棒猫っすよ! 昼ドラとかで言うじゃないですか、この泥棒猫! って。略奪合いを言い換えただけだ」


 ふむ……これはますます怪しいな。この動揺っぷり。最後は敬語が抜けていた。これは何か裏があるに違いない。しかし、それを今言うには時期早々だな。


「あー、すまんすまん。少し頭の弱い子なんだ俺」

「頭が痛い子でもあるみたいですけどねえ」

「ははは……」


 畜生こいつ、のってきやがって。それはある程度の親密度が無いとだめなネタだろう。これが大学生のノリっていう奴なのか、恐ろしい。見た目冴えないのに、そんなノリ……無理すんなよ。


「足を止めて悪かったわね、いいわ。行って頂戴」

「ユアウェルカーッンメ! ですよー!」


 美央と同じことを言っている。何それ流行ってるの? 最近の大学生のトレンド? 頭悪そうだからやめろよまじで。


「恐ろしいわね、あれ」

「ですね……」

「まあいいわ、必要な情報は手に入った。さあ、帰りましょう」


さて、Cパート。

今回は実地調査ですね

個人的には、「お前ら夕方を待てよ」と言いたい感じですw

でも、待ってくれませんでしたよ聡明君も真希さんも

真実を追い求めたい性格なんでしょうね二人とも


ここでようやく、真希さんが探偵らしいことをしましたね


一章では全然出番なかったよこのメインヒロイン


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