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短編

ツイノベ!

作者: 高野環奈

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*ガラス製の海にて

「昼の水族館」、「見つめ合う」、「傷」

年上腹黒系彼氏×年下天然彼女



「あ、ナポレオンフィッシュだ」


 エメラルドグリーンの巨体をくねらせるぶかっこうな魚を見つけた彼女は無邪気な声を上げた。


「好きなの?」

「うん。ちょっと似てるよね」


 彼女は僕の顔をまじまじと見て首をかしげる。


「そ、そうかな」


 僕は情けない思いでデブ魚に目をやった。

 たまたまこちらに向いていたらしく、互いに声もなく見つめ合う。


 こいつと僕が、似てるって?


 こいつはとんでもないぎょろ目で、あごがしゃくれていて、おまけにひどいたらこ唇だ。

 分厚いガラスに反射する僕の顔はどちらかといえばあっさりしていて特徴がない。

 むしろこんなのとは正反対だと思うんだけど……。

 どう反応していいものかわからずにもう一度彼女の方を見ると、彼女は肩を震わせて笑っていた。


「ごめんね、傷ついた?」


 目じりに涙を浮かばせながら彼女。


「まさか本気にしちゃうとは思わなかったの。ナポレオンフィッシュってすごく大きいから、そこは似てるなって。それだけだよ」


 華奢な腕をからませて彼女は僕にすり寄る。


 あーあ。残念なことに僕はこれに弱い。

 彼女は僕の操縦法を心得ている。


「僕がナポレオンフィッシュなら、きみはクマノミかな」

「クマノミって、ニモだよね? 嬉しい。ニモも好きよ」


 楽しそうな彼女。

 でも、残念でした。


 ナポレオンフィッシュは大型魚だ。そしてきみは小魚。

 つまり僕に食べられちゃうってわけ。

 今夜の予定を思い描いて、僕はひそかに笑った。




*きらきらひかる

「朝のグラウンド」、「跡」、「信じる」

高3サッカー少年×新米教師


 雨が止んだばかりのグラウンドにいくつものスパイクが跡をつけていく。

 朝のひんやりした空気を裂くように飛び交う叫び。


「パス!」

「ばか、こっちだろ!」


 鮮やかなブルーのソックスはあっという間に土色になった。

 しがない公立高校の少年達は泥をはね上げながらボールを追うしかない。人工芝の練習場なんて恵まれたごく一部の特権だ。


「あ、せんせー! 触んないで!」


 足元に転がってきたボールを反射的に拾おうとしたところで、のびやかな声が飛び込んできた。

 あっという間に距離が詰まる。


「だめっすよ、キレーな服着てるんだから」


 よく日焼けした顔をくしゃっと歪めて、彼は私がリアクションを起こす間もなくボールを拾い上げた。

 ああ、手まで泥だらけだ。


「じゃ、ありがとうございました」


 何もしていない私に向かって律儀に頭を下げた彼が、二、三歩進んだところで不意に振り向く。


「そうだ、日曜の練習試合観ててくださいよ。せんせーが応援してくれるなら俺、頑張っちゃう」

「何をばかなこと言ってるのよ。ほら、皆待ってるわよ。早く行きなさい」

「ちぇー。ホントなのになー」


 額をつついてたしなめると、彼はくちびるをとがらせつつもグラウンドに戻って行った。

 彼を教え始めてまだ数か月だけれど、あと数か月で引退してしまうはずの彼は実に調子がいい生徒だ。確かサッカー部では副キャプテンを務めているはず。

 部活でもそれ以外でもムードメーカーなのはいいとして、仮にも教師に対する私にまでリップサービスを怠らないのはやりすぎなのではないだろうか。


 何とはなしに苦笑を浮かべながら、私はグラウンドに背を向けた。

 私も職員室に向かわなければ。


 マンションについている非常階段のように、何故か外に面して据え付けられている階段を昇る。

 踊り場にきたところでもう一度だけぬかるんだグラウンドに目をやった。

 プレーが止まっていたのか、ゴール横でぐうっと背を伸ばした格好で仁王立ちしている彼と視線がぶつかる。

 彼は立ち尽くす私をみとめると、持ち上げていた両手をそのまま大きく振ってみせた。


「せんせー! 俺、観に来てくれるって信じてますからー!」


 かっと頬に血が集まる。

 私は急いで残りの階段を駆け上がった。

 廊下は走るな、という単純すぎる決まりなんて頭から抜けおちていた。

 

 彼に言い返せなかったのは注目を集めていることが恥ずかしかっただけだ。

 彼の笑顔が眩しかったからじゃない、絶対に。




*ワンコイン・ロマンス!

「早朝のゲームセンター」、「恋をする」、「罠」

同級生強気男子×強気女子


「太鼓の達人しようぜ。3本先取でハーゲンダッツ。どう?」


 目の前の男は不敵な笑みを浮かべて言い放った。


 ハーゲンダッツ。ああハーゲンダッツ。


 何の偶然か、私は1個300円近くするかのアイスをこよなく愛していた。

 都合のいいことに、飲み物を買おうと降りてきた私のポケットにはちょうど500円玉が入っている。

 おまけに私は太鼓の達人が得意だ。


 何という幸運だろう!


 太鼓をたたくだけで愛しのハーゲンダッツがただで転がってくるだなんて夢じゃなかろうか。


 すっかり舞い上がってしまった私は一も二もなく奴の提案に飛びついた。


「乗った」

「負けたからって泣くなよ?」

「誰が! そっちこそ後でひいひい言っても許してなんてやんないわよ」


 古いにおいのする合宿所の片隅、まだ太陽が昇り始めたばかりのゲームコーナーで、ハーゲンダッツを賭けた熱い戦いは始まった。


 ――まさかこれが、奴の仕掛けた罠だとも知らずに。


「発言の割に大したことなかったね」

「くぅっ……!」

「さー、お嬢さん。腹くくっておごってもらいましょうか」


 私はポケットの500円を握りしめて力なくうなだれた。

 ちくしょう、詐欺だ!

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