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『異世界の離人症のバーサーカー 痛みを求めて』

作者: 柴男777
掲載日:2026/10/07

初投稿です、よろしくお願いします。

55歳で自身の体験を異世界転移モノの作品にしました。

     異世界の離人症のバーサーカー


     第一章:解き放たれた狂戦士


「——ねえマサト! 私の部屋の電球変えてって言ったでしょ! なんでまだやってな

いの!?」

「マサト〜、ついでに私の部屋のゴミも捨てといてー、あとアイス買ってきて!」

実家の狭いリビング、二人の姉の甲高い声が飛んでくる。

ソファに深々と腰掛けた母は、力なく溜め息をつきながらマサトを見つめた。

「マサト……ごめんねぇ。お母さん、お父さんが亡くなってから頭が回らなくて……頼

れるのはマサトだけなのよ」

3歳の時に父親が亡くなって以来、この家はずっとこうだった。

母親らしいことが出来ず、何かあればすべてマサトに依存して泣きつく母。

そして、そんな母を尻目に自分勝手に振る舞い、マサトを召使いのように扱う二人の

姉たち。

家の中のトラブルも、女たちのご機嫌取りも、すべてマサト1人が処理していた。

「

…すぐやるよ」

「ごめん…」と口では言いながら、マサトの心は冷え切っていた。

いつからだろう、自分の身体が自分のモノではないような感覚がある。

手を見つめても、まるでガラス越しに他人を眺めているようで人から話しかけられても

1枚膜が張った感じで現実味が無く、声を出しても反響した自分の声にエコーがかか

り聞き取れず、自分自身が何と喋ったのかも分からない始末だった。

メンタルクリニックの医者は『解離性障害』だの『離人症』だのと難しい病名をつけた。

要するに、長年のストレスで心が現実から逃避し、あらゆる感覚や痛みに鈍感になっ

ているらしい。

生きている実感が、どこにもない。

感情を殺し、真面目に家族の顔色をうかがい続けるマサトは、ただの動く人形だっ

た。

——その瞬間。

突如として足元が光り輝き、床が抜け落ちた。

視界が真っ白に染まり、強烈な浮遊感が全身を包む。

「

……え?」 叫ぶ暇すらなかった。

目を開けると、そこは見たこともない鬱蒼とした森林だった。

頭上に広がる2つの月、漂う獣の臭い。

「

……異世界、か? 違和感はそれだけではなく自身の衣装が異世界モノの武闘家

の装備に変わっていて手にはガントレットが装着されていた」

状況を理解するより早く、茂みが大きく揺れた。

『グオォォォ!!』

現れたのは、巨大な二本角を生やした凶暴な魔狼(ウルフ)だった、鋭い爪を立て、唾

液を撒き散らしながら向かってくる。

普通なら絶望し、悲鳴を上げる場面だろう。

だが、マサトの頭の中に浮かんだのは、全く別の感情だった。

(……待てよ?)

ここには、依存してくる母親も、身勝手な二人の姉もいない。

世間のルールも、警察も、法律すらない。

(……ここなら、どれだけ暴れても誰にも文句を言われないんじゃないか?)

身体の奥底で、長年重く閉ざされていた何かが「パキンッ」と音を立てて弾けた。

現実世界で真面目に押し殺してきた重い枷が、一瞬で吹き飛ぶ。

「ハ、ハハ、ハハハ……あっははははっ!」

自然と笑みがこぼれた。

襲いかかる魔狼の爪を、合気道師範のマサトは紙一重で身をかわす、合気道の体さ

ばきだ。

すれ違いざま、魔狼の前脚の関節を逆に極め、一気に叩き折る。

『ギャンッ!?』

「よし! 次は顔面だ!」

怯む魔狼の懐へ踏み込み、6回戦ボクサーのボクシングの綺麗なステップからウエイ

トを乗せ重心を前に向け、左ジャブ、右ストレートのワンツーを精密に叩き込む。

ガントレットから拳に伝わる、骨の砕ける感触。

痛快だ、最高にスカッとする!

「もっとだ! もっと俺を殴れ! 叩いてみろ!!」

無感情だったマサトの顔に、凶暴で愉悦に満ちた「狂戦士(バーサーカー)」の笑みが

浮かんでいた。



  第二章:猛獣と過剰に真面目な女聖職者


「ハハッ! ほらどうした、もっと鋭い爪で殴ってこいよ! 痛みが足りねぇんだよ!」

怒り狂った魔熊が「ギシャアァァッ!!」と咆哮した。

森林の開けた広場。マサトは返り血を浴びながら、巨大な魔熊の爪撃を合気道の「入

り身」で鮮やかに受け流した。

そのまま巨体を魔熊の首から地面へ叩きつけ、隙のないボクシングの高速連打を鼻

頭へ叩き込む。

ドガッ! バキッ! グシャッ!

「よし、これで終わりだ!」

トドメの右利き腕のチョッピングライトで魔獣を沈めたマサトは、肩で息を吐きながら天

を仰いだ。

「はぁ……はぁ……あー、スカッとした! 拳は痛ぇし、腕もかすり傷だらけだが……生

きてる感じがする……!」

現実世界では感じられなかった「生の感覚」

誰の顔色も窺わず、己の肉体だけで暴れ回る開放感に、マサトは悦に入っていた。

——その時だった。

「

……な、なんて血生臭くて残酷で凶悪な戦い方なの……! まるで人喰いの魔物じ

ゃない……!」

鈴を転がすような、しかし怯えた可憐な声が響いた。

振り向くと、そこには白い聖衣に身を包んだ一人の少女が立っていた。

腰まで伸びたプラチナブロンドの髪に、宝石のような青い瞳。手には木製の大きな聖

職者の杖を握りしめている、誰もが見惚れるような美少女だった。

「あ? 何だお前?人を見たら魔物扱いか?」

マサトが無骨に言い放つと、少女はハッと正気に戻り、マサトの腕から流れる血を見

て表情を硬くした。

「い、言い草はともかく……怪我をしていますね! 動かないでください、すぐに神の御

光(ヒール)で治療します!」

彼女が杖を掲げ、温かな回復の光がマサトの身体を包み込もうとした——次の瞬

間。

「おい、やめろ! 勝手に治すな!!」

マサトは激怒して光を払い除けた。

「

……え?」

「せっかくの痛みが消えるだろ! この痛みが俺にとって「生きている実感」なんだ!

余計な真似すんじゃねぇ!」

親切を全否定された少女は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で固まった。

だが、次の瞬間には顔を真っ赤にし、プルプルと震え始めた。

「は?……はぁ?? なんですってぇ!?」

「あ? 聞こえなかったのか? 治すなと言ったんだよ、このお節介聖職者——」

(ゴスッ!!!)

「痛っっっ!???」

頭頂部に強烈な衝撃が走り、マサトは思わず頭を押さえて這いつくばった。

見上げると、少女が木製の重い杖を振り下ろした体制のまま、青筋を立ててマサトを

睨みつけていた。

「言葉遣いが悪すぎるのよ、このド S バーサーカー!! 目の前で怪我人を見過ごす

なんて、神の教えに反するの! 大人しく治療されなさい!!」

「お前……! 回復役のくせになんて物理威力してんだ……! 痛ぇだろ!」

「痛みが欲しいならこの杖の打撃で我慢しなさい!! ほら、ヒール!!」

「うわぁぁ! 俺の貴重な痛みが消えるー! 頼むからやめてくれぇぇ!」

強引に光を浴びせられ、傷が綺麗に塞がっていく。

マサトは「なんて理不尽で不条理なんだ……」と頭を押さえて絶望した。

しかし、ふと気づく。

魔獣の爪や牙を受けても心の中まで届かなかった「リアルな痛み」が、この少女に杖

で叩かれた頭のタンコブだけは、なぜかハッキリと痛むということに。

「

……おい、お前、名前は?」

マサトが鬱陶しそうに尋ねると、少女はすんと鼻を鳴らし、胸を張った。

「教団所属の神官、セーラです。言っておきますが、私は神の教えを忠実に守る正統

派の僧侶です、あなたのような無茶な暴漢をほっとくわけにはいきません!」

「チッ……クソ真面目が、融通が利かない女だな」

「なっ……! 融通が利かないとは何ですか! 私は正しい事をしているだけです!」

プンプンと怒るセーラを見ながら、マサトは呆れつつも、心のどこかで妙な納得感を覚

えていた。

(まあ……実家のあの感情的で身勝手な女どもに比べたら……己の信念(神の教え)

で動いてる分、100 倍マシか)

「俺はマサトだ……おいセーラ、お前これからどこ行くんだ?」

「街へ戻るところですが……まさか、ついてくる気ですか?」

「別にいいだろ、この世界のこと何も知らねぇんだ、案内しろ」

「はぁ?……世界を知らない?記憶喪失?……それより本当に図々しい人ですね、

いいでしょう、ただし! 乱暴な口を利いたらまたこの杖でお仕置きですからね!」


 

第三章:沈んだ街と、真面目すぎるがゆえの孤立


セーラに案内されてたどり着いたのは、重厚な石造りの外壁に囲まれた街「アルカデ

ィア」だった。

だが、街の入り口をくぐったマサトが感じたのは、賑わいではなく、街全体を覆う重苦

しい空気だった。

行き交う人々の顔は暗く、冒険者ギルドの前には傷ついた大勢の男たちが力なく座り

込んでいる。

「……なんだこの暗い街は? まるで葬式だな」

「……この街は今、大変な問題を抱えているんです」

セーラは寂しげに目を伏せ、街の奥に見える巨大な穴——ダンジョンの入口を指差し

た。

「あのダンジョンの深層に、いつからか「黒顎の暴竜(ブラックファング)」と呼ばれる凶悪な魔獣が居座ってしまったのです、多くのベテラン冒険者様たちが討伐に向かいま

したが、ことごとく返り討ちに遭い……街の交易もストップしてしまって」

「へぇ……そいつはそんなに強いのか?」

マサトの目が、一瞬にしてギラリと怪しく光った。

(……凶悪な魔獣……そいつの全力の一撃なら……俺のこの冷え切った内面(離人

症)を打ち破る「最高の激痛」をくれるんじゃないか?)

興奮で口元が歪みそうになるマサトの横で、セーラはぎゅっと拳を握りしめた。

「私は……この街の人々を救いたいんです、でも……」

そう呟くセーラの表情には、どこか陰があった。

ギルドの前を通りかかった時、怪我をした冒険者たちの会話が耳に入る。

「おい、あの教団のセーラだぞ……」

「また「無償で治療する」とか言って、クソ真面目に形だけの教団のキレイ事に従いや

がって、教団にも潤沢な資金が必要なのによ! 融通の利かねぇ女だ」

「ああ、正論ばかり言われても俺たち冒険者や教団にとっては疫病神なんだよ、大人

しくしとけってんだ」

ひそひそと聞こえる心無い陰口。

セーラは唇を噛み締め、俯いた。

彼女はただ「傷ついた人を救う」という神の教えを愚直に守っているだけだった、しか

し、金や名誉、利害関係で動く周囲の冒険者や打算的な神官たちからは「融通が利

かない」「空気が読めない」と疎まれ、教団からも浮いて孤立していたのだ。

「

……みなさん、私を嫌っているんです、「真面目すぎて扱いづらい」って」

ぽつりと漏らされた小さな弱音。

マサトは鼻で笑い、彼女の頭を雑に小突いた。

「バカバカしい」

「痛っ……なにするんですか!?」

「真面目にやってバカを見るなんて、クソみたいな話だ、実家の女どもは要領よく俺に

依存して楽してたがな、お前みたいに自分の信念で頑固に通そうとするバカは嫌いじ

ゃない」

「バ、バカって言いましたね!? (ゴスッ!と軽量の杖打ち)」

「痛ぇ! 本当に手が早いな!」

頭を押さえながらも、マサトは不敵に笑った。

「おいセーラ。その「黒顎の暴竜」とやらのところへ案内しろ」

「えっ……!? 無茶です! あの魔獣は高ランクのパーティでも勝てなかったんです

よ?」

「俺はあいつから「最高の痛み」をもらいに行くんだよ、ついでにお前をバカにしたあ

の有象無象どもの鼻を明かしてやる……お前は後ろで、俺が死なない程度に見張っ

てろ」

「マサト……あなた……」

呆れ果てつつも、セーラの胸の奥で、冷え切っていた何かがじんわりと温かくなるの

を感じていた。

みんなが彼女を「融通が利かない」と遠ざける中、この乱暴な男だけは、彼女の愚直

な真面目さを「嫌いじゃない」と認めてくれたのだから。

「

……分かりました、ただし! 無茶をして死にそうになったら、力尽くで引きずり戻し

ますからね!」

こうして二人は、街の長年の恐怖であるダンジョン最深部へと足を踏み入れるのだっ

た。



  最終章:激痛の覚醒と、かけがえのない相棒


ダンジョン最深部——そこは静寂と不気味な熱気が支配する巨大なドーム状の空洞

だった。

「キシャアアアアアッ!!」

突如、空間を揺るがす咆哮とともに姿を現したのは、体長十メートルを超える巨躯を

誇る黒い甲殻の魔獣——「黒顎の暴竜」だった。

巨大な両腕には岩をも砕く鋭い爪、口からは吐息とともに黒煙が漏れている、多くの

高ランク冒険者を絶望に叩き落としてきた、街の長年の脅威だ。

「ヒッ……! なんて圧迫感……!」

背後でセーラが息を呑むのが分かった。

だが、マサトの全身の毛穴は歓喜に開ききっていた。

「ハハ……素晴らしい! これだよ、これくらいの化け物じゃなきゃ「生の感覚」なんて

味わえねぇ!」

マサトはボクシングの構えをとり、地面を蹴った。

「マサト、ダメです! 正面から行くなんて——」

セーラの制止を無視し、マサトは暴竜の懐へと飛び込む。

すれ違いざまに左ジャブを叩き込むが——

ガギィンッ!!

「チッ……甲殻が硬すぎる!」

鋼鉄のごとき肉体に拳が弾かれた直後、視界を覆い尽くすほどの暴竜の太い尻尾

が、超大型トラック並みの質量でマサトの脇腹を薙ぎ払った。

バシィィィッ……!!!

「カハッ……!?」

吹き飛ばされ、岩壁に激突するマサト。肋骨が何本も砕ける鈍い音が身体の内部で

響く。

「マサトーーッ!!」

遠くでセーラの悲鳴が聞こえる。

視界が真っ赤に染まり、強烈な衝撃が全身を駆け抜ける。

その瞬間——マサトの頭の中で、幼少期からずっと心の奥底に存在していた「無感覚

の分厚い氷の壁」が、バリバリと音を立てて砕け散った。

(あ……あぁ……)

脳髄を突き抜けるような、圧倒的な不快感、逃げ場のない真の死の恐怖。

そして——強烈な「激痛」

(痛ぇ……!! 死ぬほど痛ぇ……!!)

涙と血が目から溢れ出る。

だが、マサトの口角は、これまでで最も大きく、人間離れした笑みを刻んでいた。

(これが……痛み……! これが、生きているってことか……!!)

現実世界で冷え切り、他人事のように外界を眺めていた男の心が、激痛という熱量に

よって完全に「今、ここ」へと引き戻された。

「あは……あはははははッ!! 生きてる……俺は、今、生きてるぞおおおッ!!」

「な……なになに!? 肋骨折れてるのに笑ってるの!?? やっぱりこの人、本物の

狂人(バーサーカー)よ!」

セーラが悲鳴を上げながら回復の杖を掲げようとするが、マサトは片手でそれを制し

た。

「セーラ、回復(ヒール)はまだ出すな! この痛みが……俺の最高のエンジン

だ!!」

ゆっくりと立ち上がるマサト、その瞳から「離人症」の虚無は消え去り、野獣のような鋭

い光が宿っていた。

巨躯を揺らし、トドメを刺そうと襲いかかってくる暴竜。

叩きつけられる巨腕の振り下ろし——マサトはそれを避けない。

「合気道——「呼吸投げ」!」

相手の圧倒的な質量と威力を極限まで殺さず、己の身体を軸にして受け流す、巨腕

の軌道が逸れ、暴竜の巨大な体勢が大きく崩れた。

「隙だらけだぜ、トカゲ野郎!!」

マサトは全身の筋肉を連動させ、ボクシングの踏み込みから、崩れた暴竜の唯一の

弱点——柔らかい顎下へとカウンターで拳を突き上げた。

ドガアァァンッ!!!

「ギャガッ!???」

体重と衝撃が顎を伝わり、暴竜の脳を激しく揺らす。

グラついた巨体に対し、マサトは間髪入れずにステップイン。

「左! 右! 左! 上! 下ぁッ!!」

「ドカッ! ドドドドドドドドド!!!」

衝撃と連打でガントレットが拳に食い込み、拳が擦り切れ、血が飛び散るのも構わ

ず、人間の限界を超えた高速の精密連打を叩き込む、合気道で体勢を崩し、ボクシン

グのラッシュで壊滅させる——完璧なまでの無双。

「これで終わりだぁぁぁッ!!」

最後の一撃——全身の体重を乗せた右のストレートが、暴竜の眉心を打ち抜いた。

バキキキィンッ!!

甲殻が砕け、巨体が地響きを立てて倒れ込む。

「黒顎の暴竜」は、二度と動かなくなった。

ダンジョン内に、静寂が戻る。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

肩で息を吐きながら、拳から血を流すマサト。

肋骨の痛みに顔を歪めながらも、その表情はどこまでも晴れやかだった。

「

……勝った……」

ぽつりと呟いたマサトの背後に、足音が近づいてくる。

「

……本当におバカさんです」

振り返ると、セーラが涙目で呆れ果てた顔をして立っていた。

「肋骨を折って、拳をボロボロにして……

「痛みがエンジン?」だなんて、正気の沙汰

じゃありません」

「ハッ……いいだろ、おかげで目が覚めたよ、俺はもう、あの冷え切った人形じゃな

い」

マサトが誇らしげに胸を張ると、セーラは溜め息をつき、おもむろに木製の杖を構え

た。

「はいはい、それじゃあ、正気に戻ったついでにお仕置きと治療です」

「あ? ちょっと待て、お前——!」

(ゴスッ!!!)

「痛っっっ!? お前、また頭叩いたろ! 今度はたんこぶ 2 個目だぞ!」

「文句を言わない! 暴竜を倒したって、乱暴な口を利いたら容赦しませんからね!」

セーラはプンプンと怒りながらも、優しく温かな回復の光(ヒール)でマサトの全身を包

み込んだ。

折れた骨が繋がり、傷口が塞がっていく。

「

……あーあ、せっかくの痛みが消えちまった」

「当たり前です! 私がついてる限り、あなたに無駄な傷なんて残させません!」

「チッ……本当に口うるさい聖職者だな」

「誰が口うるさいですか! ……でも」

セーラは恥ずかしそうに視線を泳がせながら、小さな声で呟いた。

「

……あなたが私を「必要」としてくれるなら……私、これからもあなたの隣で……杖を

振ってあげてもいいですよ?」

教団からも周りの冒険者からも「真面目すぎて扱いづらい」と捨てられてきた彼女が、

初めて見せた甘えるような笑顔。

マサトは一瞬呆気にとられ、それから楽しそうに鼻で笑った。

「へいへい、頼むよ、俺の「クソ真面目な相棒」さん」

「もう! 真面目は余計です!(ポカッと軽い叩き)」

数日後。

「黒顎の暴竜」を退治し、街の英雄となったマサトとセーラは、ギルドの大歓声と感謝

の嵐の中にいた。

現実世界の惨めな日々は、もう遠い過去だ。

依存する母も、身勝手な姉たちもいない。

ここには、暴れても文句を言われない世界と、マサトの狂気をしっかりと受け止めて

(叩いて)手なずけてくれる、最高に不器用で真面目な相棒がいる。

「よし、セーラ、次のダンジョンへ行くぞ!」

「ちょっとマサト! まだ街の人たちにお礼を言われている最中ですよ!」

「知るか! 俺はもっと強い奴と戦いたいんだよ!」

「もう……待ちなさいったらーっ!」

文句を言いながらも楽しそうに追いかけてくるセーラの声を背に、マサトは眩しい太陽

を見上げた。

生きている実感と、爽快な痛みを求めて——狂戦士の新しい冒険は、まだ始まったば

かりだ。


  「離人症のバーサーカー 痛みを求めて」 完

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