異世界大相撲巡業!~もしもお菓子好きの力士がファンタジーなお菓子の国に転移したら~
どすこい!
満員御礼の国技館に、今日も大福山の野太い声が響き渡る……はずだった。
「……はっけよい、残った?」
大福山が目を覚ますと、そこは土俵の上ではなかった。
土俵の砂ではなく、真っ白な粉糖が敷き詰められた大地。
目の前で険しい顔をしていた対戦相手の関取の代わりに、ピンク色のマカロンが二頭身で二足歩行していた。
大福山は、現役の幕内力士である。
身長百八十五センチ、体重百八十キロ超え。
あんこ型の立派な体躯。
そして何を隠そう、相撲よりも、ちゃんこよりも、三度の飯よりお菓子が大好きな男であった。
出身は鹿児島。
実家が和菓子屋だからという理由と、大福餅に体型が似ているからという理由で師匠に「大福山」という四股名をつけられた。
「ここは……どこでごわすか?」
困惑する大福山に、二頭身のマカロンが短い手を振って話しかけてきた。
「大変ピュ! 旅のお相撲さん! ここはスイーツファンタジー王国ピュ! 今、悪の『デス・辛口男爵』率いる激辛軍団に攻め込まれて滅亡寸前なんだピュ!」
「マカロンが喋ったでごわす……。夢か? これは稽古のしすぎで見ている幻覚でごわすか?」
大福山は、むちむちの自分の頬をパチンと叩いた。
痛い。
夢ではない。
マカロンの住民(自称:マカロン公爵)の話によると、この世界はすべてのお菓子が命を持つ平和な国だったが、突如現れた辛口男爵によって、甘みがすべて奪われようとしているらしい。
「お相撲さん、お願いピュ! あなたのその強靭な肉体で、デス・辛口男爵を倒してほしいピュ!」
「いや、おいは相撲取りだし、早く相撲部屋に戻って夕飯のちゃんこを食べなきゃいけないんでごわす。それに、異世界なんて……」
断ろうとした大福山だったが、ふと、足元から漂う甘い香りに気づいた。
しゃがみ込み、地面の白い砂(粉糖)を指で舐めてみる。
「……美味いでごわす! 最高級の和三盆ブレンドでごわす!」
さらに見渡せば、近くの川にはサラサラとしたチョコレートの濁流が流れ、木々には完熟したシュークリームが実っている。
岩はすべて岩塩プレートではなくキャラメル。
空を見上げれば、綿あめの雲がふんわりと浮かんでいた。
大福山の目が、爛々と輝き出した。
「ここ、天国でごわすか? このシュークリーム、ちょっと味見してもいいでごわすか?」
「あ、それは『爆発シュー』といって、迂闊に触ると――」
マカロン公爵が止める間もなく、大福山は木からシュークリームをもぎ取り、一口でパクリと口に放り込んだ。
ドォォォン!!!
大福山の口内で、高圧の炭酸とポップキャンディ、そして濃厚なカスタードが限界突破して大爆発を起こした。
普通の人間ならアゴが吹き飛ぶ威力である。
「ぶはっ!……美味いでごわす! この弾けるカスタードの衝撃、まるで新弟子時代に親方に喰らった強烈な張り手のような心地よさでごわす! ごっつぁんです!」
「爆発したのにノーダメージ!? しかもおかわりを要求してるピュ!?」
マカロン公爵は腰を抜かした。
百八十キロ超えの脂肪と筋肉の装甲は、ファンタジー世界の攻撃系お菓子すらも容易く包み込み、ただの「美味いスパイス」へと変換してしまったのだ。
「よし、決めたでごわす。この国のお菓子を全部味わうまで、おいは元の世界には帰らんでごわす! その辛口男爵とやらを寄り切ってやればいいんでごわすな?」
「話が早くて助かるピュ! 男爵は『タバスコ城』にいるピュ!」
こうして、鹿児島が生んだお菓子好きの力士による、異世界スイーツ巡業(ついでに世界救済)が幕を開けた。
第二話 プリンセスとの遭遇、そして衝撃の一目惚れ
タバスコ城への道中、大福山は数々の試練(という名の食べ放題)に遭遇した。
森を進んでいると、目の前の広場でサクサクのウエハースで構成された全長五メートルの巨大な怪物――ウエハース・ゴーレムが暴れていた。
「ギギギ……甘イ奴ラ、皆殺シボス……! 焼き払ウボス!」
ゴーレムが巨大な腕を振り下ろそうとしている先には、頭にキラキラした飴細工のティアラを載せ、カラメルソースのドレスをまとった、ぷるぷるに震える美しい少女がいた。
彼女こそ、この国の王女、プリンセス・プリンであった。
「いやあああ! 私の弾力が失われて、焼きプリンになっちゃいますわ!」
「大変ピュ! プリンセスがピンチピュ!」と叫ぶマカロン公爵。
大福山は、ウエハース・ゴーレムの背後からどっしりと腰を割り、身構えた。
「女の子をいじめるのは、力士の風上にもおけんでごわす。……はっけよい、のこったぁ!」
鋭い踏み込み。
大福山の巨体がウエハース・ゴーレムの懐に飛び込む。
突然の背後からの衝撃に驚いたゴーレムが、大福山の分厚い胸板にウエハースの拳を直撃させた。
パキッ。
軽い音がして、ゴーレムの拳が粉々に砕け散った。
大福山の筋肉は、ウエハースよりも遥かに硬かった。
「な、何ィ!?」
驚くゴーレム。
「そこだでごわす! 押し出し!」
大福山が両手でゴーレムの胸を激しく突っ張ると、ゴーレムの体はサクサク、サクサクと心地よい音を立てて崩壊し、ただのウエハースの山へと姿を変えた。
「うむ、いい塩梅に砕けたでごわす」
大福山は、チョコレートの川から汲んできたコップ一杯のチョコソースを取り出し、砕けたゴーレムの破片にかけて食べ始めた。
「うん、チョコを染み込ませると、ウエハースも喉越しが良くなっていくらでもいけるでごわす。サクサク、モグモグ」
その圧倒的な強さと、あまりに豪快な食べっぷりを目の当たりにしたプリンセス・プリンは、ぷるぷると激しく震え出した。
恐怖からではない。
恋の衝撃によるグラつきであった。
「な、なんて神々しいフォルムなのかしら……!」
プリンセスは両手を頬に当て、大福山の百八十キロ超えのわがままボディを見つめた。
「あの完璧な球体に迫る『あんこ型』の体型……。まるで、世界で最も美しい巨大な大福餅のよう……! それに、あのゴーレムを倒したあと平然と食べてしまう(食べてるだけ)圧倒的な雄々しさ……。ひゃん、私、カラメルソースが沸騰しちゃいそうですわ!」
大福山がウエハースをモグモグしながら「怪我はないでごわすか?」と声をかけると、プリンセスは顔を真っ赤(チェリー色)にして、大福山のむちむちの腕に抱きついた。
「お、お助けいただき感謝いたしますわ、私の白馬の王子様! いいえ、私の白まわしの旦那様!」
「旦那様!? いや、おいはただの関取だし、まわしはさっき千歳飴で作った特製品だし……」
「決めましたわ! 私はあなたに一生ついていきます! 私のこのモチモチの弾力と、濃厚な卵のコクは、すべてあなたのために捧げますわ!」
「急に求婚されたでごわす。でも、プリンは飲み物だから、毎日食べても飽きないからアリでごわすか……?」
大福山が真剣に食事メニューとして検討していると、マカロン公爵が「今は迫り来る敵を倒すのが先ピュ!」と突っ込みを入れ、一行は先を急ぐことになった。
プリンセスは、大福山のお腹にぴったりと寄り添い、うっとりしながら歩を進めた。
第三話 甘辛チリソースの戦い
次に現れたのは、激辛軍団の刺客、「激辛麻婆スライム」の群れだった。
ドロドロとした赤いスライムたちが、凄まじい唐辛子の異臭を放ちながら迫ってくる。
「ヒャッハー! 俺たちのカプサイシン攻撃で、お前の味覚を破壊してやるゼ! 特にその横にいる美味そうなプリン、麻婆豆腐の具にしてやる!」
「いやあああ! 麻婆プリンなんて、絶対にSNSで炎上する悪魔の食べ合わせですわ!」
プリンセスが大福山の背中に隠れて震える。
そのぷるぷるした振動が、大福山の背筋を心地よく刺激した。
「ふっ、我が愛しの(候補の)プリンに手を出すとは、無礼千万でごわす。それに、力士をなめてもらっては困るでごわす。力士の主食は何だと思うでごわすか?」
「え? ちゃんこ鍋ピュ?」
マカロン公爵は首を傾げる。
「そうでごわす。そして、おいの故郷・鹿児島でも、冬のちゃんこ鍋には大量の七味唐辛子や地元の辛い調味料を入れて体を温めるのが定番なんでごわす! この程度の辛さ、日常茶飯事でごわす!」
大福山は懐から、なぜか常に携帯している「塩」を取り出した。
力士が土俵で撒く、あの清めの塩である。
ただし、この世界で拾った「超濃厚ミルクシュガーソルト」だ。
大福山は、そのブレンド塩を豪快に両手で掴み、スライムたちに向かってブワッと撒いた。
「そぉい!!」
大量の砂糖塩が麻婆スライムたちに降り注ぐ。
「ギャーーー!? なんだこれは、甘い! 辛みと甘みが中和して、絶妙な『甘辛チリソース』みたいなマイルドな味になっていくーーー!?」
アイデンティティを崩壊させられたスライムたちが弱体化したところへ、大福山が巨大な足を踏み鳴らした。
「四股!!」
ドォーーーン!!!
大福山の一撃(体重百八十キロ超え+重力)によって大地が激しく揺れ、地響きとともに凄まじい衝撃波が発生。
弱体化した麻婆スライムたちは、一瞬で彼方へと吹き飛んでいった。
「まぁ、なんて素晴らしい足腰! あの太ももで押しつぶされたら、私、もっと濃厚なカスタードになっちゃいますわ!」
プリンセスは目をハートにして大興奮している。
「ふぅ。良い運動の後は、お腹が空くでごわす」
大福山は、道端に生えていた「みたらし団子の木」から団子を引き抜き、残ったスライムの汁(甘辛ソース)をちょっとつけて食べた。
「ほう、これはこれで、つくねにタレをつけたみたいで美味いでごわす」
「どこまでもポジティブな胃袋なのかしら……。でもそこが最高に素敵ですわ!」
プリンセスはすっかり大福山の虜だった。
第四話 決戦、タバスコ城!
ついに、大福山一行は敵の本拠地「タバスコ城」へと乗り込んだ。
城の最奥、玉座に鎮座していたのは、全身が真っ黒なマントに包まれ、頭が巨大なハラペーニョになっている男――デス・辛口男爵であった。
「よくぞここまで来たな、甘ったるいブタども! そしてプリンセス・プリン、お前を激辛チリパウダーの刑に処してやる!」
男爵の声は、聞くだけで喉がヒリヒリするようなデスボイスだった。
「誰がブタでごわすか。おいはソップ型ではなく、美しいあんこ型の力士でごわす。無礼者には、土俵の鬼となってお仕置きしてやるでごわす。それに、おいのプリン(予定)に手を出すなでごわす」
大福山がまわしを締め直す(ちなみにまわしは、千歳飴を編み込んで作った特製なので、かすかに甘い香りがする)。
「きゃん! 今『おいのプリン』って言いましたわ! もうこれは婚約成立ですわ!」
バルコニーの隅で勝手に盛り上がるプリンセスを横目に、男爵が激怒した。
「フン、不平を言うな! 喰らうが良い、我が最強のマジック! 『デス・ハバネロ・インフェルノ』!!」
男爵が杖を振ると、部屋全体が真っ赤な炎に包まれた。
それはただの炎ではない。
煙を吸うだけで涙が止まらなくなり、肌に触れれば激痛が走る、純度百パーセントの激辛カプサイシンガスを伴う地獄の業火だった。
「ひゃあああ! 死ぬピュ!」と怯えるマカロン公爵。
しかし、大福山は動じない。
激しい炎と激辛の煙の中、彼は静かに、どっしりと、腰を下ろした。
その姿は、まるで不動明王。
いや、ただの巨大な大福餅。
「……すーーー、はーーー……」
大福山は深く呼吸をする。
激辛の煙が肺に入るが、彼は全く咳き込まない。
それどころか、彼の皮膚から大量の汗が噴き出してきた。
「な、何だと!? 我がハバネロの業火の中で、なぜ平気な顔をしている!? 貴様の味覚と痛覚はどうなっているんだ!?」
驚愕する男爵。
大福山は、不敵に笑った。
「ふっ……。力士にとって、真夏の稽古場は室温四十度を超える地獄でごわす。それに比べれば、この炎なんて、ちょっと良いサウナみたいなものでごわす。それに……」
大福山は、じわりと滲み出た自分の汗をペロリと舐めた。
「おいはさっきから、この国の砂糖菓子を大量に食べまくってきたでごわす。つまり、今のおいの体から出る汗は、ただの汗ではないでごわす。……『濃縮糖蜜シロップ』でごわす!!」
「何だって!? 汗がシロップだと!?」
大福山の百八十キロ超えの巨体から噴き出す汗は、甘い甘い最高級のシロップへと変化していた。
そのシロップが、男爵の放つ激辛の炎と混ざり合う。
激辛の炎は、大福山の「糖蜜汗」によって次々と冷却され、コーティングされていった。
「そ、そんな馬鹿な! 私の炎が……固まっていく!?」
「これぞ我が独自の防衛技、『砂糖衣』でごわす!」
男爵のハバネロの炎は、大福山の汗と絡み合うことで、なんと「激辛シナモンキャンディ」へと結晶化し、床にパラパラと落ちていった。
攻撃が完全に無効化されたのだ。
「ばっ、化け物め! なら、これならどうだ!」
デス・辛口男爵は自らマントを脱ぎ捨て、鋭いトゲがついた「デス・チリソース剣」を引き抜いて突撃してきた。
「死ねぃ、太っちょ!」
男爵の剣が、大福山の突き出たお腹に突き立てられる――!
ボヨヨン。
「ぬおっ!? 剣が抜けん!」
剣は、大福山の柔らかくも弾力のある脂肪(と、その奥にある鋼鉄の腹筋)に阻まれ、深く沈み込むだけで、一ミリも刃が通らなかった。
「……捕まえたでごわす」
大福山はお腹に力を入れ、筋肉の収縮だけで男爵の剣を挟み込んで固定した。
男爵は剣を引き抜こうとするが、ビクともしない。
万力のようなホールド力である。
「さあ、これで終わりでごわす。我が全力の、寄り切りを見せるでごわす!」
大福山は男爵の体をガシッと両手で抱きかかえた。
力士の基本、がっぷり四つである。
男爵の体から強烈な辛み成分が染み出してくるが、大福山はそれを「ちょっとピリッとするプロテイン」程度にしか感じていない。
「いくぞでごわす! 大福山特製・異世界巡業寄り切りーーー!! どすこぉーーーーーーい!!!!」
大福山が凄まじい足腰の粘りで、男爵を抱えたまま前方へと突進した。
その突進スピードは、百八十キログラムを超える肉塊が、時速五十キロメートルで突進するようなもの。
文字通りの重戦車である。
「ギャーーー!? 重い! 重すぎる! なんだこの質量はーーー!?」
デス・辛口男爵は、大福山の圧倒的なパワーの前に、一歩も踏ん張ることができない。
ズガガガガガ!!!
タバスコ城の豪華な壁を一枚、二枚、三枚と突き破りながら、大福山の寄り切りは止まらない。
そしてついに、城のバルコニーを突き破り、男爵を城の外へと、豪快に「寄り切り(というか投げ飛ばし)」た。
「そこまででごわす!!」
男爵の体は放物線を描き、城の遥か下にある、超巨大な「特大イチゴパフェの沼」へと真っ逆さまに落ちていった。
ドッブーーーン!!!
大量の生クリームとイチゴソースが飛び散る。
パフェの沼に落ちたデス・辛口男爵は、濃厚なバニラアイスと生クリームに全身を包まれ、その激辛成分を完全に中和されてしまった。
「う、うう……。甘い……。生クリームが、私の中に眠るトゲトゲした心を優しく包み込んでいく……。私は……私は何をカリカリしていたんだ……。辛口など、もうやめよう……。これからは、マイルドカレー男爵として生きていく……」
男爵のハラペーニョの頭が、みるみるうちにマイルドな「黄色いパプリカ」へと変化していった。
どうやら改心したらしい。
「やったピュ! 辛口男爵が倒されたピュ! 世界に平和が戻ったピュ!」
マカロン公爵が飛び跳ねて喜んだ。
激辛軍団の魔力が消え去り、タバスコ城はみるみるうちに「ガトーショコラ城」へと姿を変え、あたりには一層甘く幸せな香りが立ち込めた。
第五話 涙の別れ、そして相撲部屋へ
「お相撲さん! 本当に、本当にありがとう! あなたこそ我が国の真の英雄、そして私の未来の旦那様ですわ!」
プリンセス・プリンが大福山の胸に飛び込んできた。
その衝撃で、彼女の頭から濃厚なカラメルソースが嬉し涙のように溢れ、大福山の体に甘く激しく降り注ぐ。
「おお、これは贅沢なカラメルソースでごわす。美味い美味い」
大福山はそれを舐めとる。
マカロン公爵が、お菓子の冠を大福山に捧げようとした。
「お礼に、この国の王位と、プリンセスとの結婚、そして一生分のお菓子を差し上げるピュ!」
大福山は、ガトーショコラ城の壁(ちょうどビターで美味い部分)をバリッと剥ぎ取って食べながら、ふっと寂しげな笑みを浮かべた。
「いや……ありがたい話だが、それはできないでごわす」
「どうしてですの!? 私と結婚すれば、毎日プリンが食べ放題よ!?」
プリンセスが涙目で訴える。
大福山は、自分のまわし(千歳飴製)を愛おしそうに撫でた。
「おいは力士でごわす。まだ横綱にもなっていない、発展途上の相撲取りでごわす。それに、この国のお菓子は最高に美味いが……おいには、帰らなきゃいけない場所があるでごわす。……部屋の仲間たちが待つ、あの泥臭くて、ちゃんこの匂いがする相撲部屋に」
「お相撲さん……」
プリンセス・プリンの体が、感動で小刻みにぷるぷると震えた。
「なんてストイックで格好いいの……。男の中の男、いや、力士の中の力士ですわ! わかりました。私はあなたの背中を追いかけ続けます! いつか日本の両国国技館に応援に行きますから!」
「おう、待ってるでごわす。その時は、美味いちゃんこを振舞うでごわす」
大福山がガハハと笑ったその時、彼の体がまばゆい光に包まれ始めた。
世界を救った報酬として、元の世界へ戻るゲートが開いたのだ。
「あ、光が……! 戻れるみたいでごわす」
「お相撲さん! あなたのことは忘れません! 大福山の名を、お菓子の神様、そして私の永遠のダーリンとして語り継ぎますわ!」
「おう、元気でな! ごっつぁんでした!」
大福山は最後に、残っていた粉糖の大地を力強く踏み締め、この日一番の綺麗な四股を踏んだ。
ドォーーーーーーーーン!!!!!
エピローグ 薩摩が誇る黒豚ちゃんこ
「……山、大福山! 起きんか!」
親方の怒鳴り声と、強烈なビンタが大福山の頬に炸裂した。
「ぶはっ!?」
大福山が跳び起きると、そこはいつもの相撲部屋の稽古場だった。
床は白い粉糖ではなく、いつもの茶色い土。
目の前には、腕組みをして呆れ顔の親方が立っている。
「まったく、稽古の合間に居眠りして、どんな夢を見てやがった。口元から甘い匂いがするぞ。また隠れてお菓子食ったな?」
「い、いえ! そんなことは……」
大福山があわてて口元を拭くと、指先に何か茶色い、とろりとした液体がついた。
舐めてみる。
「……っ! ほろ苦い、最高級のカラメルソース……!」
大福山はニヤリと笑った。夢ではなかったのだ。
「よし親方! 稽古が終わったら、今日の夕飯のちゃんこ鍋は、おいに作らせてほしいでごわす!」
「おお、お前がちゃんこ番か。美味いもん作れよ」
その日の夜、相撲部屋の食堂には、凄まじい食欲をそそる香りが立ち込めていた。
大福山が腕によりをかけて作ったのは、彼の故郷・鹿児島から取り寄せた特選の「黒豚ちゃんこ鍋」であった。
「さあ、みんな食ってくれでごわす!」
大福山は巨大なすり鉢を器代わりに、山盛りのちゃんこをよそった。
昆布と鰹節の出汁ベースに、地元の甘口醤油と麦味噌を隠し味に加えた濃厚なスープ。
そこへ、脂身が甘くてジューシーな最高級の鹿児島産黒豚のバラ肉が、これでもかと敷き詰められている。
さらに、お湯をくぐらせてぷるぷるとした弾力を持たせた焼き豆腐。
大福山は、その焼き豆腐を箸で持ち上げ、じっと見つめた。
「……プリンセス、おいは日本で元気にちゃんこを食べているでごわすよ」
豆腐をプリンセス・プリンのモチモチの肌に見立てて優しく微笑む大福山に、隣の兄弟子が「大福山、豆腐見つめてニヤニヤしてキモいぞ」と突っ込む。
「気にするなでごわす! いただきまーす!」
大福山は黒豚の肉と豆腐を豪快に口へ放り込んだ。
じゅわりと広がる黒豚の極上の脂の甘み。
そしてスープを吸ってぷるぷるに震える豆腐の絶妙な食感。
「美味いでごわすーーー!! お菓子の甘さも最高でごわすが、この黒豚の脂の甘みと、プリンセス……いや、豆腐の弾力は、おいの五臓六腑に染み渡るでごわす! ごっつぁんです!」
バケツのような特大の白米のどんぶりを片手に、猛烈な勢いで黒豚ちゃんこをかき込む大福山。
その食べっぷりは、まさに異世界を救った大食漢そのものだ。
「おい、大福山! 肉ばっかり食うな、野菜も食え!」
親方が笑いながら叱る。
部屋中に大福山の元気な笑い声と、ちゃんこをすする豪快な音が響き渡る。
異世界を救い、お菓子のお姫様のハートまで寄り切ってしまった最強の甘党薩摩力士・大福山は、今日も横綱を目指し、黒豚パワーとどすこいスピリットで土俵に上がるのだった。
(めでたし、めでたし)




