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短編

58歳主婦・スキル「おいしいご飯」で無双する?2

作者: 遠野まみみ
掲載日:2026/08/17

「58歳主婦・スキル「おいしいご飯」で無双する?」のパート2です。

魔王サタナスちゃん、好き嫌いはダメなのよ。

ピーマンも食べてね。ビタミンCが含まれているから

お肌がきれいになるのよ。

カリウムも入っているから血圧を下げてくれて、種も調理してあるから

血液サラサラよ。ほら、苺と生クリームのクレープ好きでしょう?

食べたらご褒美にあげますから」


「…はい…」

『魔王ちゃん』と呼ばれたのは、ツノを生やしキバがあり

魔力を使い街や村など一撃で消し去る魔王である。

だが、見かけが人間の18歳くらいのため、恵子にとっては自分の子供より

若いのである。


魔王でさえ逆らわない、魔族の胃袋を掴んだ女。魔王城・影のドン。

有間恵子58歳。専業主婦歴33年のベテランだ。

しかも人間よりもうまい食材があると教え、田んぼ、畑、果樹園に養蜂場

養豚場に酪農場や養鶏場を作らせて人を喰う事をやめさせた人間でもある。


「あ、ほらそこのちびデーモンのイチ。ブロッコリーを残さない。

ニイはヨーンのコロッケ取らない。ゴオは唐揚げの皮ばっかり食べない。

ハーチは……」


「すげーな、おばちゃん。ちびデーモン30体の顔と名前を全部覚えてるってさ」

「俺なんか毎日何を喰ったか覚えていて、栄養バランスチェックされてんだぜ」

「君らは酒飲みすぎ」と、恵子の教育的指導が入る。

「うぃっす」

恵子に言われて素直に従う可愛げがある魔物だった。               


               *


思い出すのは約1年前。

恵子は買い物をすませて帰る途中に、信号無視のトラックに撥ねられて

気が付いたら買った食材と一緒に魔王城にいた。

食材がもったいないと食堂の台所を借りて料理したら、

匂いにつられて来た魔王が、恵子が作った料理とデザートに完敗した。


そして恵子は魔王城・影のドンとなった。


               *


「みんな、食事と睡眠。きちんとしないと働けないわよ。あと、お風呂ね。

毎日入って。血行が良くなって身体にいいからね。

それと寝る前はちゃんと歯を磨いて。清潔は健康につながるのよ」

「はーいっ」


もはや『お母さん』である。


               *


数日後、見慣れないマント姿のフードを被った男が食堂にやってきた。

「いらっしゃい。あら、前に魔王ちゃんがそんな恰好してたけど、

君は見かけない子だね。新入りさん?何にする?」

男はこくりと頷いて、メニューを指さした。


「卵丼ね。ちょっと待っててね」

キッチンでは恵子の手伝いで、何匹かの魔物が働いている。

みんな優秀で恵子の指導の元、ほとんどの料理をする。

ただデザートだけは苦手のようで、これだけは恵子が作るのだった。


「お待ちどう。セルフサービスだからこっちまで取りにきて」

男は立ち上がって丼を取りにきて、急いで席に戻って

卵とご飯をスプーンですくって口に入れた後は夢中でパクついた。

「よほどお腹がすいてたのねぇ。でもお行儀が良くてえらいわ。

はい。お水」

水を置くと男はペコリと頭を下げた。


               *


「おばちゃん、今日のデザートなに?」遅い昼食を取りに魔王がやってきた。

部下の魔物たちが立ち上がって頭を下げる。


「プリンのパフェよ」

「何?それ食ったことない」

「これよ」と、出てきたのはカップの底にゼリーが入っていて

その上にクリームとフルーツやプリンが乗って、

さらに生クリームとアイスが乗って甘くていい香りがする。

その場にいた数人が、マントの男も含めて「ほおお」と見ている。


「食べてごらん」

魔物たちが注目する中、一口食べた魔王が「はぅ…」と、天を仰ぎ見て悶えた。

「う…うまい」


「おばちゃん、俺も」 「あたしもー」と、次々に注文が入る。

「はいはい、順番ね。大人しく待ってね。ケンカする子には無いわよ」

作り置きを出して仕上げのアイスを足す間、魔物たちは大人しく順番を待った。


その姿をぼんやりとマントの男が見ている。


魔王が「貴様は…?見かけないヤツだな」と、プリンのスプーンをくわえたまま

マントに声をかけた。

マントはフードをより深くかぶってうつむいた。

「それに貴様は人間の匂いがする。何者だ?」

「……」


黙ったままの男のフードをオオカミ男が剥ごうとして、男に突き飛ばされた。

テーブルをなぎ倒しながらオオカミ男が吹っ飛ぶ。

恵子がいやーな顔をしているのを見た魔物が青くなって小さくなった。


「仕方ない」と、男はフードを取って顔を見せた。

「勇者!水晶玉で見たことがある。貴様は勇者だな!?」


魔王の言葉で食堂に緊張が走る。

「なぜ貴様がここに!?」

「偵察しようと思って魔法使いに飛ばしてもらったのに、つい…

つい、いい匂いに誘われてしまった」

拳を握って悔しそうにするが「美味しかったんでしょ?」と恵子に言われて

「はい」と答えた。

「なんならデザートのプリンパフェも食べたいんでしょ?」

「…はい」


「あっはっは。これは魔王城のものだ。貴様に食わせるパフェはない!」

「いじわる言わないの!」

恵子に尻をはたかれる魔王を見て、ニヤリと笑う勇者。

「あんたも、食堂でケンカは禁止よ!」と、勇者の頭も叩いた。

「けけけ。ざまあ」と、魔王が笑う。


「で、偵察って何?君は何しに来たの?

魔王が何かした?復活しただけでまだ何もしてないよね?」と、

勇者に詰め寄る姿はまるで魔王の保護者だ。


「この子はね、ちょっと性格が曲がってるかもしれないけど、

本当はいい子なのよ。…多分。知らないけど。

性格は良くないかもだけど、魔王だもん。しかたないじゃない。

わたしはね、この子がかわいいのよ。産んだような気がすることもあるわ。

産んでないけど」

それを聞いて、魔王がちょっと赤くなる。

「おばちゃん、あれは庇っているのか?」他の魔物が呟く。


「で、あなたは何?勇者?人の家に不法侵入して暴れて、

ただ飯食べて、とんでもない不良だわね。部外者ならお金払って」

「え…えっと…」言われてみればそうかもしれないと勇者は思った。

「すみません、おいくらでしょ?」

「デザート食べるなら1000ギラー」


「……すみません。700しかないです。お金、足りない」

「仕方ないわね。じゃあ300ギラーは貸しね。今度払って」

「はい。払いに来ます。勇者の名に懸けて誓います」


「そこまでしてパフェが食いたいか?」魔王の言葉に

「だってみんなうまそうに食ってるじゃないかっ。人間の街には

あんな美味しそうなものはないんだぞ」と、勇者が答える。

「だよな。俺もそう思う」

「だろ?…魔王と意見が合うとか微妙だな」


「お待ちどうさま。食べてごらん」勇者の目の前にプリンパフェが出されて

勇者は匂いをかいだだけで幸せそうな顔をした。


「勇者くんは何歳なの?」勇者の前の席に腰かけて、恵子は優しく話しかける。

「18歳です」プリンパフェをほおばりながら、口にクリームを付けて喋る彼は

勇者というよりただの少年だった。


「あら、魔王ちゃんと変わりないじゃない。お母さんは君がこういう仕事を

してるのに心配してないの?」

「それは…まあ。少しは」

「年末年始くらいは故郷に帰ってる?たまには帰ってお母さんに

元気だよって、顔見せてやりなさいよ」

「は…はい」


「で、なんで魔王ちゃんと仲が悪いの?おばちゃんよくわからなくて。

説明してくれる?」

「昔、魔王と魔族は悪い事をして人間をたくさん殺して食べたんです。

それで王様が討伐を命じられて封印されたんですが、

復活したのでまた討伐しろと命令が出て、現在に至ってます」

「昔の魔王と違うでしょ?さっきも言ったけど、まだ悪い事はしてないし」

「それは信用がないというか、何というか…」


「魔王ちゃんは悪い事をする予定はあるの?」

「…今のところは無いかも?なぁ?」と、周りの部下の魔物たちに聞く。

「はい。無いっす。畑とか、牛とか豚たちの世話でそれどころじゃないっす。

油断するとミツバチたちはすぐ死んじゃいますから」


「ですって。討伐する理由はないでしょ!?」

「いえ、でもやはり信用というものが…」


ダダダダダ…。数人の足音がして人間がなだれ込んできた。


「勇者!無事か?」

勇者の仲間の戦士と魔法使いと賢者が

テレポートで追いかけて来たのだった。

「ここは魔物だらけだ。巣窟かっ?」


「食堂よっ!」キレぎみの恵子が答える。

「なんで走り回るの!?埃が立つでしょ。食べ物に入ったら汚いでしょ!?

お母さんやお父さんは躾けてくれなかったの!?」

「え…。いや、その」


「入り口からやり直し!」食堂の入り口を指さす恵子に

「やり直し」と、勇者が仲と一緒に入口へ向かう。

「勇者くんはいいのよ?」

「仲間なので連帯責任です」


「こほん。ごめんください」と、入口から入り直す勇者たちを

「4名さまご案内」と、メイドの格好の吸血鬼のミラーが案内する。


「よろしい。ご注文は?」

「いや、だから魔物の討伐を…。なあ、勇者?」戦士の言葉に

「うん、でもさ、とりあえずご飯食べなよ。あ、お金持ってたら、

俺の借金払ってもらっていい?」と、勇者。

「いいけど、それは何?何を食べてるの?」

「プリンとかいうやつのパフェ。絶品です」

魔法使いの少女がプリンパフェを見て「わあ~。いい匂い」と声をあげる。

「食べてみる?」おばちゃんは女の子と子供には優しいのだった。


「いいんですか?おいくらですか?」

「400ギラーね」 「はい。あ、勇者の借金も一緒にお支払いしますね」

「それなら後で、仲間の皆が食べた分をまとめて払ってくれたらいいわ」

「そうします」


勇者一行は「美味しい 美味しい」と、おかわりして食事を楽しんだ。

「プリンパフェ、もう6個も食べているけど、食べ過ぎるとお腹壊すわよ?

大丈夫?」

「大丈夫でーす。肉じゃが定食もおかわりくださーい。大盛りで」

魔法使いの少女は大食いだった。


マリーンの横ですっかり馴染んだ魔王と勇者は、ポテチとオレンジジュースで

語り合っている。

「すごい食いっぷりだな。エンゲル係数高いだろ?」

「まあな。攻撃魔法はスタミナ使うらしいよ」

「いや、そんな事はない。魔法の種類にもよるけど、俺はそんなに

スタミナ消耗しないぞ。 お前騙されてるぞ」

「え!?そうなのか?マリーン、そうなのかぁ?」


名前を呼ばれたマリーンは「てへっ」と返事をした。


「ほらなっ」

「ぐぬぬぬ」


戦士と賢者はグリーンティーが気に入って、まったりしている。

「いや、待て。これは我々を油断させて倒すという魔族の罠ではないかと…」

語り始めた賢者に

「はい、ちょっと食べてみて。おせんべいっていうの。お米を焼いたのよ」と、

できたてのせんべいを出す恵子。

「あ、いただきます」と、手を出した賢者は「お茶に合う~」と、

気に入ったようだった。


その様子を見ながら、恵子は「うんうん。みんな仲良しでよかった」と

満足するのだった。


               *


「おばちゃん、ごちそうさまでしたー。お弁当もありがとうー。

また食べにきていいですかー?」

「もちろんよー。また来てね。お弁当の予約は前日の15時までだからねー」


マリーンが手を振って、勇者一行は魔王城をテレポートで離れて行った。

「俺たち何しにきたんだっけ?」勇者が我に返る。

「ご飯食べに」マリーンに言われて、

「うん、確かに。おいしかったのでいいか」と納得する一行だった。



魔王城は今日も平和でなにより。


               *


食堂より:食堂に入る時は慌てず騒がずゆっくりと。埃を立てずにお願いします。また、お弁当の予約は前日の15時までに。明日のメインメニューは唐揚げ。

美味しいよ。


読んでくださってありがとうございました。

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