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身の程知らずの王座~妻の実家を私物化したクズ夫の末路~  作者: 猫塚ルイ


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20/20

第20話

車は春の柔らかな陽光を全身に浴びながら


都心の喧騒を離れ、どこまでも続く真っ直ぐな海岸線を走り出した。


窓を全開にすると、潮の香りを孕んだ風が車内に流れ込み、私の髪を優しく撫でて通り抜けていく。


その風のあまりの心地よさに


私はこれまでの人生で感じたことのないほど、深い解放感と自由に満たされていた。


「お父さん、今日は本当にいい天気ね。まるで世界が、私たちの新しい門出を祝ってくれているみたい」


助手席に座る私を、父は運転席から優しく目を細めて見つめ、力強く頷いた。


「…そうだな。美咲、これからはお前の好きなように、お前が正しいと信じる道だけを進みなさい」 


「お父さん…っ」


「卑屈な言葉を浴びせ、お前の心を縛りつける鎖はもうどこにもないんだからな」


膝の上にある「女性自立支援プロジェクト」と書かれた分厚いファイル。


そこには、私がこれから立ち上げる


経済的・精神的に自立を目指す女性たちのためのシェルターと教育支援の詳細が詰まっている。


私はそのファイルを、まるで未来そのものを守るように、愛おしく胸に抱きしめた。


かつての私は、あの冷たく豪華なだけのマンションの中で、たった一人の心無い言葉に怯え、震えていた。


「お前は月5万で十分だ」「無能な女だ」……


そんな呪いの言葉を毎日浴びせられ


いつの間にか自分の価値までその僅かな金額に閉じ込めてしまっていた。


でも、今は、違う。


暗いキッチンで、一円単位の家計簿をつけながら


明日食べるものを心配していたあの頃の私は、もうどこにもいない。


私は自分の足で力強く大地を踏みしめ、自分の意思で歩き出している。


そして、かつての私と同じように暗闇の中で出口を探している人たちの手を、今度は私が引いてあげる番だ。


あの地獄のような日々


身を削るような苦しみがあったからこそ、私は本当の意味で弱者に寄り添い


「誰かを守る強さ」を手に入れたのだと、今なら胸を張って思える。


「……お父さん、今日は新しい家の庭で採れたばかりのフレッシュなハーブを使って、とびきり美味しいリゾットとサラダを作るわね」


「ははは、それは楽しみだ。美咲の作る料理は、心が温まるからな」


車が静かに停車したのは、小高い丘の上に建つ、私が新しく構えた小さなオフィス兼自宅だった。


そこにはかつての家のような冷たい大理石の床も、成金趣味のシャンデリアもない。


代わりに、窓からは四季折々の花が咲き乱れる庭が見え


天然木の温もりが漂う部屋の中には


私が自分の感性で一つひとつ選んだお気に入りの家具と、柔らかな日差しが隅々まで溢れていた。


車を降りた瞬間、私は肺の奥まで澄んだ空気を吸い込み、大きく深呼吸をした。


もう、何かに怯えながら冷蔵庫の卵の数を数える必要はない。


心から美味しいと思えるものを口にし


心から信頼し、尊敬できる人たちと語らい、笑い合う。


そんな、かつての私には奇跡のように思えた当たり前の幸福が


今の私の、揺るぎない「日常」になった。


過去の忌まわしい記憶はすべて


あの夜にシュレッダーにかけた写真のように、粉々に砕けて風に消え去った。


私の目の前には、真っ白で、どこまでも広く輝く未来だけが広がっている。


「さあ、始めましょう」


私は眩しい太陽を見上げ、晴れやかな笑顔で、新しい一歩を力強く踏み出した。


誰にも汚されない、自由という名の、最高の新生活。


私は、私という一人の人間として、これからもっともっと幸せになってみせる。


その確信が、今の私を突き動かす最大の力となっていた。


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