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小説

UMA年

作者: ちりあくた

 そういえば昨日、アブダクションを見かけた。


 正月になったので、家族を連れ、実家のある群馬を訪れていたのだった。息子はもう八歳になる。彼は遺伝のせいか、あるいは現代日本の教育の成果なのか、夜空を見上げても特別な期待をしない。


 先月、シリウス・プロキオン・ベテルギウスを指さして「大三角だよ」と言ってやった。しかし彼は、「どの星でもできるじゃん」とそっぽを向いた。どうやら彼にとって、星は星、飛行機は飛行機であり、それ以上でも以下でもないらしい。


 その日の夕方、私と息子は、散歩のついでに近くの牧場まで足を延ばした。空気は乾いていて、吐く息だけがやけに白かった。黒い屋根の厩舎を見れば、馬は何頭かいて、どれも同じ方向を向き、同じような距離感で立っていた。群馬の馬は、集団としての完成度が高い。


 ふと、息子が空を指さした。


「あれがUFO?」


 見上げると、雲の切れ目に、円盤というほど誇張されていない、しかし、明らかに用途のわからない光の構造物があった。音はしない。する必要もなさそうだった。光はまっすぐ落ちてきて、牧場の一角を照らした。


 照らされたのは、たまたま一頭の馬だった。


 馬は動かなかった。驚いた様子もなく、ただ、いつもより少しだけ、首の位置が定まらない感じがあった。光は馬を包み、馬体ごと空へ引き上げた。速度は一定で、あまりにも機械的であった。


 息子は「ふうん」と言っていた。

 私は彼の手をつかみ、「寒いから戻ろう」と踵を返した。


 翌朝、何事もなかったようにその馬は戻ってきた。


 戻ってきたというより、朝からそこにいた。昨日と同じ場所、同じ向きで、同じ茶色をしていた。だが、見ていると、時々、輪郭が追いつかないことがあった。目を瞬きすると、まだ瞬きの途中の馬が、もう一頭、そこに残っているような気がする。


 息子は馬を見て、「なんか変」と言った。


 確かに変だった。脚は四本だが、立ち方が四本分ではない。馬体の影が、朝の光の中で、どう数えても三つに分かれていた。どれも馬の影で、どれも正しいように見えた。


 牧場の人は「昨日と同じだよ」と言った。

 蹄の具合も、食欲も、糞の量も、帳簿通りだという。影のことを言うと、「冬は太陽が低いから」と返ってきた。太陽が低いと影が増える理屈は、私にはよく分からなかったが、群馬では成立するのだろう。


 馬は柵の内側にいるまま、柵の外を歩いていた。

 正確に言えば、体は内側にあり、移動だけが外側で起きていた。歩幅は一定で、草は踏まれず、しかし足音だけは、こちら側に近づいたり遠ざかったりした。馬は馬として振る舞う努力をしているように見えた。


 息子はしばらく黙ってから、「UMAだね」と言った。

 私は「UMA年だからな」と答えた。


 それで話は終わった。


 正月は忙しい。餅を焼き、親戚に挨拶し、ニュースでは干支の話題が繰り返される。今年はUMA年だという言及はどこにもなかったが、説明がないこと自体は珍しくない。


 午後になって再訪すると、馬は鳴いていた。

 普通のいななきだった。ただ、鳴き終わってから、少し遅れてもう一度、同じ鳴き声がした。録音を再生したような正確さで、しかし、音源の位置だけが曖昧だった。


 牧場の人は「風だね」と言った。

 息子は「UMAだよ」と言った。


 私は馬を見ていた。馬は馬だった。馬であることに、特に不満もなさそうだった。UMAになったとしても、やることは変わらないらしい。


 その年の干支が何であれ、朝は来るし、馬は立っている。

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