始まりの物語。
この話は殆んど、何の考えも無く初めてしまったのです。
本来ならば、もっと早く書くべきでした。
では、お楽しみください。
──バラン王国最後の夜──
【軍医師】ヤビー・コルボは、その夜信じがたい来訪者と出会った。
なんと【二十年後】の自分がやって来たのだ!
そして。このバラン王国とダル国との戦いが、明日。バラン王国の敗戦で終わる事を教わった。だが、本当の驚きはその後。ヤビー・コルボの身におこる、信じられない【未来】の話だった。
「何という事だ! これがこの先に起こる事だと言うのか?」
今年で四十七歳になる、黒髪で若い方のヤビー・コルボは。額にあてていた【記憶の水晶球】から、今まで二十回もの歴史を改変しようとしていた、“過去”の──いや。これから起こる“未来”の歴史を見てヤビー・コルボは震えた。
「今まで何とかエメク・カインゼルの世界征服を止めようとした、ワシの──ワシ達の失敗の歴史がそれじゃ!」
そう言ったのは【記憶の水晶球】と共に未来からやって来た。六十七歳のヤビー・コルボだった。
「二十回…、いったい何故それほどの『失敗』を重ねたのだ…」
四十七歳のヤビー・コルボが、いま見た記憶を整理しながら。絶望感に苛まれてそう口にだす。
「…おそらくは。今までのように『エメクの助手』をしながら『それを止めようとする方法』に、問題があるようじゃ」
六十七歳のヤビー・コルボはそう言った。
「それともう一つ。ケイ・カインゼルを敵に回すのも行かんのじゃと思う」
白髪でつんつん頭のヤビー・コルボはそう言った。
「何故だ、十五歳以下の少年にしか見えなかったぞ?」
黒髪でつんつん頭のヤビー・コルボはそう尋ねる。
「お前さんも視ただろう? あの少年の【チルドレンギャング団】の統率力を、ワシはあれ程怖い目に遭った事が無い‼」
ヤビー・コルボは唾を飲み込む。
「では、どうすればよいのだ? 何をすれば二十回失敗したこの歴史を変えられる⁉」
四十七歳のヤビー・コルボは、その場にしゃがみ込む。未だに頭の中で二十回の『失敗』が、ぐるぐるとまわっていて整理が出来ない。
「とりあえず此処、バラン王国に攻めて来たダル国【国軍】には。全滅してもらおうか」
何でも無い事のように六十七歳のヤビー・コルボはそう言った。
「簡単に言ってくれるが、此処にいる者たちは【ケガ人】を除けば。五百人足らずしか居ないぞ?」
四十七歳のヤビー・コルボはゆっくりと立ち上がると、二十年年上の自分自身に向かってそう言った。
「手ならある!」
六十七歳のヤビー・コルボがそう言った。
「だが、その手を使えば。お前さんの名前は死神と【同義】に扱われるだろう」
自分より二十歳若い、黒髪のヤビー・コルボに向かって。白髪のヤビー・コルボはそう警告した。
「構わん‼」
四十代のヤビー・コルボはそう言い切った!
「私はこの国が好きだ、この国を他国に占領されるのを見るぐらいなら。どのような『汚名』でも背負ってゆける」
黒ツンツン髪のヤビー・コルボはそう言って、対して筋肉の付いていない右手のこぶしを振るって見せた。
「──後悔するなよ?」
その夜。エメク・カインゼルと永遠の決別をしたヤビー・コルボは。二十年未来から来た六十七歳のヤビー・コルボが残して行った『計画書』を携えて。いまはもう閑散とした国王率いる【指令室】へと向かっていたその時。
「きやー‼」
王女ミナ・シェリル様の寝室から、侍従達の悲鳴が聞こえた!
「どうし──! これはひどい‼」
十歳のミナ・シェリル王女が腹部を裂かれて、血の海と化したベッドの上で倒れていた。
「【治癒術師】は何処にいる‼」
震える手を上げた青年は、どう見ても二十代前半にしか見えない。
「誰がこの様な事をしたか⁉」
ヤビー・コルボは【治癒術師】に詰め寄った。
「それが、信じられないかも知れませんが。エメク様が窓から入って来られて…」
【治癒術師】青年が、顔を真っ青にしてそう言った。
「エメクの腐れ外道がああぁ!」
そう言うと【魔術師】ヤビー・コルボは、【治癒術師】の青年の襟首から手を離すと。血の海と化したベッドに近づく。
「! これはどういう事だ⁉」
王女ミナ・シェリルの腹部には、傷ひとつ無かった──だが。
「王女様失礼いたします」
ヤビー・コルボが、ミナ・シェリルの腹部を探る。──やはり無い。
「ミナ・シェリル様の“子宮”が強奪された‼」
【会議室】は静まり返っていた。それも仕方のない事だった。
会議室のテーブルには、三通の【書類】がのせられていた。
ひとつは敵国ダル国からの『降伏勧告』
ひとつは先ほどの城で起こった、王女の身から【内臓】が盗まれた件。
そしてもうひとつは、きわめて特殊な【計画書】だった。
「まずは私からの意見ですが、ミナ・シェリル王女の【子宮】が盗まれた以上『降伏勧告』は、受諾できません」
【会議室】から大きなため息が、複数上がった。
「この『降伏勧告』には、『生存している王女』と言う文言が“敢えて”付いています。詰まりダル国が欲しいのは、この国の【王位継承者】を招来欲して要るのです」
「つまり、我々が選択出来るのは。【魔術医】ヤビー・コルボ氏の提案してきた【『いかれた』攻撃方法】だけっという訳ですな?」
ガタンと大きな音を立てて椅子から立ち上がったのは。【国王】リューク・バランその人だった。
「他には意見など無いのであれば【魔術医】ヤビー・コルボ氏の意見に従おうでは無いか」
「ですが、【国王陛下】この計画では。国が滅亡します」
汗を掻きつつそう言ったのは、この国の【最後まで生き残った参謀官】の一人であった。
「どのみち【未来】など無いのであれば、潔く──いや、精々暴れて見せようでは無いか!」
誰とは無く一斉にこの場に居た人々が立ち上がった。みんなの目は尊敬の念がこもっていた。
【バラン王国】国王陛下リューク・バランは、その温和な性格から、『平和の国王』と呼ばれていた。
つまり内政に特化した、【平和な時代の名君】だと見られていた。
だが、それは『今ここでは違った!』
この【国王陛下】はこの難題に対して、決して逃げなかった!
それどころか【自分をおとりにして】ダル国に、一矢報いようとさえしていた!
その姿勢に【国軍】を支えて来た人々は感激していた。
『この国王とであれば【死ねる!】此処にいた全員がそう思った』
「そう言う訳で、私は死ぬ事にしたよ」
バラン王国【国王】リューク・バラン国王は、【子宮】を強奪された衝撃から立ち上がろうとしている『愛娘』に対してそう言った。
「お父様、奈落の底に落とされた『娘』に。何と残虐な仕打ちをなさるのです⁉」
ミナ・シェリル王女はあんまりと言えばあんまりな父王の発言に。それ以上何にも言えなくなった。
「何を言っているミナ、私はお前が考えているよりよっぽど残酷だ」
リューク・バラン国王は、ミナ・シェリル王女の頭をポンポンと叩くと、何でもない事のようにこう言った。
「ミナ王女勅命である、出来るだけの事をしてこの国の【国民達】を連れて。サリアン王国まで逃げおおせよ‼」
──次の日の朝──
高く厚い城塞で内と外を分ける、城塞都市バラン王国の正門は、固く閉じたままだった。
一万人を越えるダル国の司令官アスム・ロスはこう言った。
「何と愚かな決断だ!」
「仕方が在りません。バラン王国の王リューク・バランは、【平時】の君主です。【戦時】での身の引き方など知らないのでしょう」
司令官の補佐をする六人の参謀官の一人、ストーク・カーンがそう言った。
「ふむ、つまり『愚か者』と言う事か!」
司令官アスム・ロスは【軍人】として、バラン王国の国王リューク・バランを。自分の持つ【戦時】の価値観で、バラン国王をそうこき下ろした。
城塞の一部を陥落させて、正門を開けるのに二刻程がかかった。
「突撃ぃ! 降伏せぬ者達は蹂躙せよ‼」
ダル国の国軍司令官アムス・ロスは簡潔に命令を出すと、わずかに残っていた兵士達の『理性』を引きちぎった。
「ウオオオオオオオ‼」
ダル国軍の兵士達が、まるで川を遡上する魚のように。最早機能しなくなった正門に突撃する。
今の彼らが欲しいのは。『食い物と酒、そして女』だった。
勢いよく飛び込んで行く『飢えた』兵士達の後を、司令官アムス・ロスとその【参謀官達】が。馬にまたがりながら都市国家バランに入る。
「…随分と蒸し暑いな、この国の中は」
地球で言えば中東当たりにあるバラン王国は暑い。
その為大概の国は『暑さ避け』に気を付けている──だが。
バラン王国の中は異様に『蒸し暑い』状態だった。
「おい、食べ物と酒は何処だ⁉」
「女どころか犬一匹さえいないぞ?」
我先にと【城塞都市】バラン王国に入った【兵隊達】が文句を言う。
ダル国軍司令官アムス・ロスの頭の中で『警告』が鳴り響いた。
「──全軍退却せよ!」
そう言葉を発する前に、後ろにある正門に異変が起きた。
正門の下から岩の壁が盛り上がって来たのだ。
「どういうつもりだ?」
司令官アムス・ロスには正門を閉じた意味が解らなかった。
何故ならこの都市国家バランには、少し小さいとは言え。後三ヶ所も門があったからだ。
「まったく本当に、どういうつもりだ?」
「解からないなら教えてやろう」
おかしなマスクを顔全体に張り付けた。黒髪を逆立たせた男が、がれきの上からダル国【司令官】アムス・ロスを見下ろしていた。
『こいつがダル国の大将か』
そう思いながら四十七歳のヤビー・コルボは、無情にも破壊された【バラン王国、建国者】オンドロス・バラン像の台座から。この国を占領するために来た【敵司令官】を見下ろす。
「貴様、何者だ‼」
そう聞いて来た者達を見て、思わず笑いを噴き出さない様に背中を丸めた。だが【敵司令官】にはその様な裏の事情なんぞ知らず、【小刻みに肩を上下させる奇怪な男】と、とらえられた。
「我の名は【ダル国司令官アムス・ロス】貴様の名を述べよ!」
おっと、名乗られては仕方が無い。こちらも名乗り返すか。
「我が名は【死の魔術医】ヤビー・コルボ。だが、覚えている意味は無い。お前たちは此処で死ぬのだから!」
「な! 何だとぉ⁉」
そう言って【司令官アムス・ロス】は咳き込む。
「ほうれ、気づかんか? 先ほどからお前たちが咳き込んでいる事に!」
気づかないでそのまま、死んでくれた方が良かったかもしれんが。あいにくとそんな【優しい気持ち】は出て来なかった。
ヤビー・コルボがこの城塞都市にばらまいたのは、物を燃やす事で出る【一酸化炭素】だった。
無味無臭のこの毒ガスは、閉鎖的な場所で無いと簡単に拡散してしまう。
だが、閉鎖された場所で何かを燃やせば、無味無臭で無痛なこの毒ガスは。眠る様に吸い込んだ生物を死に至らしめる。
バタバタと【一酸化炭素中毒】に陥った人や馬、いや。生きている物すべてが死んでゆく。
【ダル国軍司令官アムス・ロス】も、息をしている限りは確実に死んでいく。
だが『人の口に戸は立てられない』
ヤビー・コルボとバラン王国の行なった、自らの国民と敵を皆殺しにした【道ずれ自殺】行為には。血のつながりのある、サリアン王国を除いて。大きな賛同を得られなかった。
こうしてヤビー・コルボは、『皆殺しの医者』『ドクターカタストロフ』と。呼ばれる事となった。
そしてもう一人、運命を変えられた少女がいた。
ミナ・シェリル・バラン王女。
【子宮】を強奪された為に、子供を産む事の出来なくなった彼女にも。運命は厳しかった。
子供の産めない王女に、素敵な未来など無かった。
一応王女として扱われるが『子供の産めないバランの王女』この噂は瞬く間に広がり。
【王女】としての未来は無くなった。
「旅に行かれるのですね?」
深く頭を下げるヤビー・コルボはこう言った。
「私は人を殺し過ぎました」
ヤビー・コルボがそう言うと、ミナ・シェリル・サリアンは椅子から立ち上がり。ヤビー・コルボの手を取ってこう言った。
「で、あれば。わたしも旅の途中まで、連れていってください!」
数日後、ミナ・シェリルと、ヤビー・コルボは旅立った。
二年間いっしょの旅を続けたミナ・シェリルは、【魔法剣士】として名をあげて行き。ついに別れの日を迎えた。
「姫、ここから先からは、別行動になります!」
ヤビー・コルボはそう言って。頭を下げて見せた。
「はい! ご指導ありがとうございました‼」
ミナ・シェリルも頭を下げる。
ふたりの目に涙は無かった。
「姫、最後にワシからの忠告を聞いてください」
ミナ・シェリルは、何事かと考える。ヤビー・コルボは助言もするが、真剣な顔で冗談も言うのだ。
「【特殊能力:魔法妨害】を持つ、少年をお探しください‼ それが出来れば、少しは良い事に繋がるでしょう」
【特殊能力:魔法妨害】? それが何の意味が在るのでしょう?
「詳しく、お話しは」
「出来ません‼」
ああ、やっぱりとんでもない出来事が、待っているのですね。
「分かりました、努力してみます」
その後、ふた事、み事のお話しの後。ヤビー・コルボは行ってしまった。
だから聞き損ねてしまった。
「【特殊能力:魔法妨害】って、どうやって見つければ良いのでしょう?」
っという訳で、始まりの物語でした。
何でこんなにたくさん書かなかったのか!
しかも、まだありそうなのです!
では皆さん、次回の話を、待っていてください。




