小大人対道化師。
かん高い金属音が、この大きなドーム状の部屋に響いた。
ケイ・カインゼルの真上から、身体ごと振って来た【道化師】の一撃に。ケイは思わずヒザを付く!
「今は貴方とやり合う気は無い!」
ケイ・カインゼルの言葉を聞いても、【道化師】はその青銅製のブロードソードで、切りかかるのを止めなかった。
ケイの真上からの攻撃は、【魔法】で底上げされた『視力』で防がれた。
ならば。と、【道化師】は三歩後ろにバックステップすると。普通片手で使うブロードソードを両手で構え直すと、ケイ・カインゼルの右胴体へ殴り付ける様に振るった。
勿論の事、『視力』を強化されているケイにとって。その攻撃は『視えて』いた。だが、その体は今だ“普通”の速度でしか動いてくれない。
『もっと早くうごけぇ‼』
ケイ・カインゼルの脳はそう命令を出す、だが。そう簡単には行かない!
彼の動きは、『人の限界』に近かった。
これ以上の速さは、身体に余計な負荷をかける!
再び、かん高い金属音が響いた。
ケイのダマスカス鋼で出来たシミターが間に合ったのだ‼
その瞬間ケイ・カインゼルの体が熱くなる。
空中を飛び回る【マナ】が、ケイの体に集まって来る。
ケイ・カインゼルが、集まって来た【マナ】を呼吸するかのように、体の中へと吸い込む。
【マナ】は体内で【オド】へと変化する、【オド】とは言わば【魂】である。
【魔術】を使う者達は自ずと【マナ】と、【オド】の扱いに長けるようになる。
それどころでは無く。全ての生物は生き続ける為に、【マナ】を吸って【オド】に変えて生きていた。
【魔術】とは【魂】を削って【この世の理を書き換える】行為だった!
「ウオオオオオオオオオオ‼」
ケイ・カインゼルが咆哮を上げる。
次の瞬間、ケイの体が変化を始める!
彼の皮膚は、青銅製のヨロイとなった。
彼の骨は鉄よりも固くなった!
そして彼の筋肉は、その体を動かすのに最適な“モノ”へと変化した‼
「どけぇ! ラハス・バレンツ! 勇者でさえ無くなった貴様に、用事は無い‼」
ケイ・カインゼルはそう言うと、【道化】…ラハス・バレンツの腹部を蹴りあげた‼
「グッ!」
軽く三メールは吹き飛んだラハス・バレンツは、背中からその怪しげなパイプの張り巡らせた機械に突っ込んだ。
「グハァ‼」
銅製の素材が【道化師】の左わき腹を掠める。
「そこでしばらく寝ていろ」
ケイ・カインゼルはそう言った。
【道化師】の衣装を着せられた、ラハス・バレンツの目に『殺意』の念が灯る。
これ程の殺意は久しぶりだった!
「このわたしに『しばらく寝ていろ』だと? ふざけるな!」
ラハス・バレンツは、傷口をさわる。
大したけがでは無い。皮膚が少し裂けただけだ!
ラハス・バレンツは体の姿勢を変える。
「グッ!」
銅製の金属素材が、傷に触れる──だが、それだけだった‼ 即死する程のけがでは無い。
ラハス・バレンツは自分の武器である。【青銅製のブロードソード】で【道化師】の衣装を切り裂いた。
ケイ・カインゼルは、銅製のパイプを足場にして。スルスルと、このおかしな機械を登って行く。
『ミナ・シェリルには返したくても、返し切れない恩がある! おれに【剣術】と【魔術】を教えてくれた事──そして!』
ケイ・カインゼルはこの時、【オド】を止めるのを“あえて”行わなかった。
ミナ・シェリルが拘束されているベッドと鎖が、【鉄製】である事を知っていても。移動出来る距離の方が大切だと思っているからだ!
ケイ・カインゼルが行ったこの時の考えは、【魔法使い】としては落第だったが。【冒険者】としては正解だった。
ケイの耳に風切り音が聞こえた‼ ケイ・カインゼルは、背中に背負っているシミターを抜いた!
三度目の金属音が響いた。
ケイ・カインゼルは思わずこう言った。
「しつこいぞ! ラハス・バレンツ‼」
っという事で、55話でした。
色々と、複線をばらまいていますが、今更回収は不可能か?
では皆さん、次はいつになるかは分かりませんが。
次回お楽しみに。




