樽。
ランダルファ国軍の【特殊兵隊】約一万人が、【国王の住む王塔】から張り出すように作られた、六枚の空中庭園でその時を待っていた。
刻はすでに十二刻を超していた。
季節はすでに冬であり、空中庭園の噴水も止められて久しい。
そこへ個別に呼ばれて来た約一万人の【兵隊達】は、“その時を”考えつつ体温を上気させて待っていた。
『諸君!』
拡声器から滑らかに出て来た声に、全員が背を正して【軍靴】を鳴らした。
『ようやくである諸君。この日この時の為に耐え抜いた君達は、今日の為に自らを鍛えて来たのだ!』
【兵隊達】の目は興奮で血走っていた。
『最初の敵は我らの怨敵にして、隣国であるスファ―ク国!』
一万人の【兵隊達】がつばを呑む。
『そして我々の【最終目標】は、この世界の頂点に立つ事である‼』
「オー!」
一人の【兵士】が雄叫びを上げた‼
「「オオー!」」
雄叫びを上げる【兵隊達】が、伝染する様に広がって行く。
「「「オオオオオオー‼」」」
全ての【兵隊達】が雄叫びを上げて、足踏みを始め出す! 霜に固められた芝生を踏みながら。【兵隊達】は体温で温まった息をはき出す。その光景は【熱病で錯乱する病人】か、人の皮を被った【得体の知れない化け物】に見えた。
この大騒ぎは当然【王塔】以外の塔や、【地上】に住む。いわゆる【上の民や、中の民】には。当然すべて聞こえているが、彼らは何の行動も起こさなかった。
「あの演説は危険では無いか?」
そうとらえる人々は確かにいたが、そう言った人々はその考えを周りに話そうとした瞬間。立ちっぱなしで意識を失った!
そして数秒後、彼らは何事も無く働き始める。──何も考えず、何も恐れずに。
例えこの放送を又聞いても『この国の王様は、小難しい事を“又”言っている』位にしか考えない!
そう、彼らは考えない。
自分達が『洗脳』されている事に。【上の民】よりさらに上に存在する【真の民】達が、生き続けられる様に。その為だけの存在である事を、彼らは考えない様にされていた。
彼らを真に養っている存在がこの世にいる事を【中の民】も、そして【上の民】でさえもその存在を知らなかった。
「【魔王】エメク・カインゼルとその取り巻きを、贅沢に暮らしをさせる」
彼ら【中の民】と【上の民】の生存理由とは、彼らが選ばれたからではない。その彼らでさえ支配する【真の民】達に餌をやり、身体を鍛えさせて。【真の民】達の王【魔王】エメク・カインゼルの心から望んでいる計画である『世界征服』を、実現させる為だけに働いて要る事を彼ら【上の民】でさえ知らされてなかった。
「【魔王】エメクはペラペラとよくしゃべる」
大きな荷馬四頭で走る馬車の上でそう言ったのは、戦いには参戦させられなかった【カインゼル】だった。
「仕方が在るまい、我々には戦う事も。ましてや【魔法】を飛ばす方法も、誰も教えてはくれなかったのだから」
この地で産まれ、過去へ送られた【カインゼル】の全員が、優秀な【戦士】または【魔法使い】になれた訳では無い。
いや、むしろ平凡な人生を歩み。戦いとはいっさい関係の無い【技術】を身に付けつつも。
夢の中。あるいは白昼夢でこの国【ランダルファ王国】を、知って居るモノ達が家庭を飛び出して。更に運の良い(あるいは運の悪い)者達が、この国に辿り着く事があった。
多くの場合は、【魔王】エメクの手で殺される運命だったが。更に運の良いカインゼルは、
ヤビー・コルボに助けられる事があった。
その場合は、二つの運命を選択しなければならない。
一つは、この国の事を一切忘れて。自分の家へ帰る事。
二つは、この国の暗部へ潜り、【魔王】エメクと戦う事。
普通の人間は一を選ぶ。誰もソレを臆病者とは呼ばない。当たり前の人間は当たり前の人生を選ぶ。
だが、二を選ぶ人間も少なからず存在する。
「何故こっちを選ぶのか?」
その問いに正確な『答え』を出した者はいない。
だが、比較的多くの【カインゼル】はこう言った。
「腹が立ったんだ!」
彼らはそう言った。
「何でもいいから【魔王】エメクに、一泡吹かせたいんだ‼」
「しかし、こうも拡声器を使って大声でしゃべられて、何故【カインゼル】じゃ無い者達は。普通に生活が出来るモノだな」
カインゼルAがそう言うと、隣にいたカインゼルBがこう言った。
「そりゃあもちろん、俺たちも『カインゼル』だからさ【特殊能力:魔法抵抗】は、『カインゼル』の証だぜ?」
カインゼルBはそう言うと、小さく笑う。
「そんな事よりそろそろ、問題の塔じゃないか?」
カインゼルBはそう言って塔を指さす。
「アッこら、地図を返せよ! これはオレの仕事何だから!」
「樽の数は…うへぇ、三つかよ⁉」
「だから、地図を返せよ‼ これ以上おれの仕事を取るんじゃねえ!」
こうしてカインゼル達は、都市国家の下で『樽』を置いて行く。
誰にも知られない様に、誰にも悟られない様に静かに──
約1週間ぶりです、何とか生きております。
では、皆さん次回お楽しみに。
多分また、1週間位掛かると思いますが。
なあに。生きていれば終わりも見えてくるさ!




