勇者と魔王。
「ギャアアアア‼」
ハンス・ログの左手を掴んでいた、ラハス・バレンツの手から。『ポトリ』とハンス・ログの左手小指が床に落ちた。
「こいつ! 本当に俺の小指を切り落としやがったぁぁ‼」
ハンス・ログは怒りと雪辱を武器にして、ラハス・バレンツの手を振り払おうとするが。ラハス・バレンツの【関節技】で、身動きさえ取れなかった。
「さあ、喋ってもらいましょうか、何故この【魔法戦士】が。成長した“ケイ・カインゼル少年”に似通っているのかを」
そう言うと未だ鮮血を滴らせている、ハンス・ログの小指の隣、左手の薬指に片刃のナイフ刃を押し付けた。
「知らねえ! 俺はこいつの顔の事なんて知ら無いんだ!」
ラハス・バレンツがチラッと、肩のあたりで黒い髪を切り揃えた。右目は緑、左目は黒の【オッドアイ】を持つミーシャ・クロノスに、視線を飛ばす。
「この青年は私達にウソを付いています」
ミーシャ・クロノスがそう言うと、ハンス・ログは顔色を青くしてこう叫んだ!
「嘘じゃねえ! 俺たちは【魔王】エメクから。『【強い魔法戦士】は要らないか?』と言われて無償で借りただけなんだぁ!」
ハンス・ログはそう絶叫するかのように大声を出した!
「この青年は、“ウソを”付いています」
そんなハンス・ログを崖から突き落とすように。冷徹にミーシャ・クロノスは、そう言い切った!
ミーシャ・クロノスは実のところ、ハンス・ログと言う青年がウソを付いていない事を知って居た。
だがそれでも。アノほぼ六年成長した、『ケイ・カインゼル』と言っても過言ではない青年を使った戦いは。許せる範囲を超えていた。
「あの戦いでフェミール・アインを死なせてしまった…」
ミーシャ・クロノスがそう『ぼそっと』小さな声でつぶやく。
許しがたい現実。
彼女を、死なせない現実もあったはずだった。
それが在りながら私はそれを『選択』しなかった。
いや、出来なかった!
腰に下げている【マジックワンド】を掴む右手にチカラが入る!
亡くなったフェミール・アインの遺骨が、大きな部屋の中心でまだくすぶっている。
「この青年達から今回の事態、その全てを奪い取ってやる!」
そのせいで彼らの指が、全て無くなったとしても知った事か‼
此処で起きている全ての事を吐き出させてやる!
「ミーシャ・クロノス彼は本当の事を喋ったのか?」
ミーシャ・クロノスの意識が、ラハス・バレンツの言葉で『現実』に引き戻される。
「…すみません、聞いておりませんでした」
ミーシャ・クロノスはラハス・バレンツに、頭を下げて謝罪する。
「余り『ボウ』としていてはいけませんよ、この二人には手の指が一人十本しか無いのですから」
そう言うとラハス・バレンツは、筋骨隆々としたハンス・ログから離れる。
体を痙攣させながら失神した、ハンス・ログの左手薬指がころりと転がった。
「それではアノ全身黒ずくめの、青年に聞きましょう。この都市の秘密などを!」
ミーシャ・クロノスが満面の笑みを浮かべて、ラハス・バレンツにそう提案する。
「ウムそれは良い考えですね。今ならオイルをまき散らした床のように、しゃべってくれるだろうし」
そう言うとラハス・バレンツが、大きな笑みを浮かべてレクター・ドルフに視線を飛ばすと。レクター・ドルフの口を塞いでいた猿ぐつわを外した。
「待ってくれ! 話す、話す全ての事を‼ だから指を切るのは勘弁してくれ‼」
──十分後──
「にわかには信じられんなぁ」
ラハス・バレンツはそう言うと、手に付いた血のりをハンカチで拭き採ろうとするが。中々取れずに悪戦苦闘していた。
「三百年前から暗躍している【魔術師】エメク、この都市国家の影に潜む裏の【王様】そして。【カインゼル達】の実質的な父親! わたし達では今回解決出来るのだろうか?」
つめの間に入ってしまった血液は、ハンカチだけでは拭き取れなくて。ラハス・バレンツはイライラする。
「ケイ少年ともう一度組みますか?」
ミーシャ・クロノスがそう持ち掛けると、ラハス・バレンツは口を『への字』にして唸る。
「敵対関係にあるのは間違い無いが。後ろから刺されるのはイヤだな」
「ならば私と組むか?」
唐突に『会話』に入り込んだ言葉を聞いて、ラハス・バレンツと、ミーシャ・クロノスが振り返る!
そこに居たのはフードの付いたローブを目深く被った男性だった。
「何者だ、お前は?」
ラハス・バレンツが、青銅製のブロードソードを構えつつ、一瞬で自分達の後ろを取った人物を視る!
「何を言っておるか、散々私の事を話題にしておったくせに」
男はそう言うとひび割れた声で笑う。
「まさか貴様が!」
ラハス・バレンツがそう言うと、ローブを羽織った男性が。拍手をしながらこう言った。
「そうだ! 私が【魔王】エメクだ‼」
お待たせしました、新作です。
色々考えてこの展開にしました。
だって、ラハス・バレンツが不憫でしたので!
それでは、次回お楽しみに。




