ヤバイ、クスリ。
「例えば、仮想敵国Aと言う国が在るとする」
そう言ってヤビー・コルボ(八十七歳)は、地面に“A”と書いた。
「この国に住む【将軍】は智略に長けていて。しかもどんな時でも、一人で行動する事は無い用心深い男だとする」
ヤビー・コルボの絵はとても簡単なモノだったが、この際ソレはどうでも良い。要は“そういう男”がいると分かればいいだけだった。
「さてケイ・カインゼル! お前ならこの男をどうする?」
「へ? おれ?」
突然話をふられたケイ・カインゼルは一瞬だけ慌てたが。すぐに冷静になるとこう答えて来た。
「…もし、暗殺を考えるなら、この男の普段の行動を掴んで──」
「ワシはこの男に、明日にでも死んでほしい」
腕を組んで考え始めたケイ・カインゼルに、ヤビー・コルボはそんな注文をする。
「それじゃあ無理だ! 何処かから突然【奇襲攻撃】をかけなければ、暗殺は出来ねえ」
ケイ・カインゼルは、そう言って。地面に落ちていた枝の先の様な棒で、ヤビー・コルボ(八十七歳)が描いた人物に襲い掛かる、三人の人物を書き足した。
「そうじゃ! それが正解じゃ‼」
頭の禿げたヤビー・コルボはそう言って拍手を送る。
「へ?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしながら、年齢のバラバラな『カインゼル達』からの拍手を受けるケイ。
「或いはこういう事も出来るぞい!」
年寄りヤビーは更にこう言って見せた。
「そいつは今でこそ【将軍様】の立場じゃが、『過去』ではただの一兵であった事も在るじゃろう? その時を『狙って』時間をさかのぼり。『過去の』いつ死んでもおかしくない【時間】で、そいつを殺してしまえば良い」
ヤビー・コルボは手のひらを合わせてこう続けた。
「そうしてしまえば、仮想敵国Aにはその厄介な【将軍】は存在せず。攻撃は寄り簡単になる、つまりはそう言う事じゃ‼」
ヤビー・コルボは合わせていた手のひらを開いて、自分の両耳の辺りで手のひらをヒラヒラさせる。
ケイ・カインゼルは、暫し呆然としていたが。とても危険な角度に眉毛をいからせて、六十七歳のヤビー・コルボに質問する。
「そんな事が、簡単に出来るモノなのか⁉」
「普通は簡単には出来ない。じゃが、これ程の【カインゼル達】を送り届けた上に、更に改良が加わっている【時空転送装置】ならば。──或いは──」
自分の思考に入りながら、『ブツブツ』と考察し始めたツンツン頭のヤビー・コルボを見て。ケイ・カインゼルは思わず震えあがった。
「それでその計画はいつ、どこで、どの様に始めるんだ?」
ケイ・カインゼルはそう聞かなくてはならなかった。自分の出生の秘密から逃げ出さずに。必要なら自分で解決する為にも!
「明日の夜標的は、スファ―ク国!」
年老いたヤビー・コルボは、力強くそう断言した。
「急ぎ過ぎだ! エメク・カインゼル‼」
ケイ・カインゼルはそう絶叫した!
──スファ―ク国──
もう深夜だと言うのにその日の【スファ―ク国陸軍参謀本部】は、深夜に『蜂の巣をつついたように』騒がしかった。
「急げよ! 相手の侵攻方法が解からないのだから、悠長にしているとこの国ごと消され兼ねんぞ‼」
黒いオールバックの髪をした、【勇者のお目付け役】として知られるケイレル教官が。今にもその場所で居眠りしそうな【参謀達】に檄を飛ばす。
「いやぁ、元気ですなあケイレル教官殿は」
【陸軍参謀本部】に席を持つ【陸軍少将】が、自分とケイレル教官の席に黒茶を置きながらそう言った。
「すまない、ツァク【少佐】」
ひとしきり大声で叫んでいたケイレル教官は、ツァク少佐の隣にある自分の席に着くと。
眠気覚ましとして出される黒茶を一気に飲み干した。
「相も変わらず不味い茶だこれは!」
そう言うと少し乱れた黒い髪が気になるのか、くしで自分の髪の毛を整え始める。
「もう少し味わって飲めば違う感想が出るかもしれんぞ?」
「何を言っている、軍の【支給品】は飲み物だろうと食べ物だろうと。美味かった試しがない」
「私の減らない財布にカンパイ!」
ケイレル教官は何処の誰とは言わずに、何も知らないツァク少佐に真実を告げる。
「知らないなら教えておく、【軍からの支給品】は有料だぞ?」
ツァク少佐の顔色が変わった。
「退職日まで知りたくも無かった【情報】に感謝!」
ツァク少佐も迷わずに黒茶を胃に流し込んだ後にこう言った。
「ところで君の直轄の部下である、【勇者】様ご一行はこのランダルファ王国と。スファ―ク国との一触即発状態である事を、知って居るのかい?」
「知らぬさ、元々教えても居ないのだから」
ケイレル教官はそう言うと、机の上に乗っている書類の山を見て。ゲンナリとした。
「冷たいねぇ」
ツァク少佐の“ひとり言”としてはやや大きい言葉に、ケイレル教官は思わず『反論』したくなった。
「戦争直前の雰囲気を感じなかった場合は、あいつらが悪いんだ。ソレを感じ取って逃げたとしても、罰する気など考えていない」
「──もし【逃亡】していた場合は?」
ケイレル教官は鼻を鳴らしたこう言い切った。
「新しい【勇者】でも見つけるさ」
「さて、八十七歳」
「何じゃい、六十七歳」
六十七歳──もとい初老のヤビー・コルボは、老人のヤビー・コルボに向かってこう言った。
「そこまで解かって居るという事は、なにかしらの妨害行為をする気なのだろう?」
ケイ・カインゼルが、思わず聞き耳をおこなう。そう、明日の夜まで何もしない訳が無い。ヤビー・コルボとはそう言う人間だ!
「フン、取り敢えずこのクスリを。このランダルファ王国で使おうと考えておるわい」
オイオイ、クスリを巻くとは結構ヤバク無いか⁉
「どれどれ?」
六十七歳のヤビー・コルボが、ビンに入ったクスリに指を突っ込むと。指に付いたクスリを舐めた。
「ヤビー、大丈夫なのか⁉」
思わずケイ・カインゼルがヤビーに向かって近づくと、ヤビーはこう言って笑う。
「なるほど、こいつはとんでもなく。ヤバイクスリじゃ‼」
やっと書けた、疲れた、眠りたい。
では皆さん、次回お楽しみに。




