ヤビー・コルボ その二。
「あの男は最初のあいさつでそう言いよった。もちろん誰一人相手になんぞしなかった。まぁそれぐらいみんなの心は荒んでいた、と言う事だった」
そう言うとヤビー・コルボは、腰に下げていた水筒を自分の口に付けて喉を鳴らす。
「だがなぁ、あいつの知識。──特に薬に関する知識は、目を見張るモノがあった。ケイ、おまえ【抗生物質】と言うクスリを知って居るか? まぁ、知らないならいい。とにかく大抵の病気だったら二流の【まじない師】より、このクスリの方が効くそんなクスリじゃよ」
ヤビー・コルボが、無精ひげの生えたアゴを右ひざの上にのせてこう言った。
「ワシだって医者の卵だったので、エメクの使っていたクスリの正体に、すぐ気が付いた。いや、ワシだけでは無かったな──。おそらく【野戦病院】で、あのクスリの正体に気が付いていない奴はいなかっただろう」
そう言ったヤビー・コルボは、自分の右指を無意識に動かして。こういった。
「この国で唯一【抗生物質】の入った瓶を、エメクが懐に入れ忘れて。便所に向かったあの一瞬。ワシは魔が差してしまった、気が付けばアノ【化学が生み出した】奇跡のクスリが入った瓶をワシは。自分の懐に入れてしまった」
ヤビー・コルボの口から、大きなため息が出ていた。
「後は。もう解かるじゃろう? ワシはエメクの小間使いに格下げになった。しかも笑えるのはエメクにとって、【抗生物質】なんていくらでも作れる。その程度の価値しか無かった事じゃと知った事じゃ! つまりあいつが欲しかったのは、何でも言う事を聞く使いッパシリが欲しかった。そう言う事だったんじゃ」
そう言ってヤビー・コルボは、ダンジョンの床に大の字で寝ころんだ。
ランタンの明かりがユラリと揺れた。
「これが、ワシ。ヤビー・コルボと【魔王】エメクとの関係じゃ」
そう言ったヤビー・コルボに対して、ケイ・カインゼルはしばらく考えた後。おもむろにこう言った。
「なぁる程これでおれの知りたかった事の半分は分かったよ。だが、おれの知りたい事の半分しか、ヤビーお前はおれに。聞かせていないじゃないか?」
「…どういう意味じゃ?」
もう何も話す事は無い、そんなダルそうな雰囲気を出していた、が。そんなヤビー・コルボにケイ・カインゼルは。冷たくなっていく【戦士】の生首を切り落として、ヤビーの横に放り投げた‼
「なんちゅう事をするのか! この罰当たりが‼」
慌てて起き上がったヤビー・コルボは、地面に落ちる前に、その【戦士の頭部】を手に取って。ケイ・カインゼルに向かって大声で叫んだ!
「おれが罰当たりなのは、もう決まった事で。取り返しなんか出来ない事も知って居る。おれの聞きたい事は何で、そいつの顔が約十年後の“成長した”おれの顔を、しているのかが聞きたいんだ‼」
ヤビー・コルボが改めて生首を見る、確かにその顔は『ケイ・カインゼルが、正常に二十年程年を取ったなら、こういう顔に成長しただろう』と言える顔だった。
「ヤビー、アンタには大きな借りがある。ソレを知って居ても、この事には目をつぶれない。頼むよヤビー・コルボ教えてくれ。おれは一体何なんだ?」
「──…わからない」
その小さい声を聞いてケイ・カインゼルは泣いた。
ポロポロと流れ出す涙を拭く事もせずに、ケイ・カインゼルと言う男が、堰を切ったように泣いていた。
「ワシがエメクと言う男と最後に会ったのは、我が祖国バラン王国が陥落する前の日、その夜中だった」
ヤビー・コルボは記憶の底から必死で言葉を紡ぐ。
「その日、ワシは国王陛下直々にある仕掛けを作っていた」
段々と記憶が、鮮明になって行く。
「エメクは出来るだけ多くの荷物を、飛空艇に乗せておった!」
「何をしている、サッサとお前も乗らないか!」
そう言ってエメクはワシも乗る様に、命令してきたがワシは断った!
「貴様!」
エメクは激昂して、ワシを怒鳴ったが。最早ワシには聞かなかった!
「私はこの国と、運命を共にする。臆病者はサッサと逃げ去れ!」
そう言って私は、自分のケツを叩いて、エメクを挑発した。
怒り狂ったエメクは、何かの呪文を唱えていたが。その後ろに居た少年がエメクを止めた。
「ご主人様、時間がありません」
その少年によって、【魔法発動】を遮られたエメクはこう言った。
「二度と私の前に現れるな‼」
「それはこちらの台詞だ! 臆病者の卑怯者が‼」
そしてエメクは飛空艇に乗り込むと、『少年』の操舵する船で、城から逃げ出して行った。
「──…何故、こんな重要な記憶を今まで思い出せなかったのだ…──」
今も涙を流すケイ・カインゼルを見て、ヤビー・コルボは驚いた。
「あの時、【魔術師】エメクと共に夜空に消えた少年は、ケイ。おまえの姿そのままでは無いか!」
二十八年どころか、四十年前の記憶と照らし合わせても。その姿は何処にも違いが無い事に。
──ヤビー・コルボは愕然とした──
さぁ、ドンドンと、混乱してくるこの話。
次回お楽しみに。




