呆然。
「此処までは調べ尽くしたのか? ヤビー」
ケイ・カインゼルが武装した【スケルトン】の、全ての骨をシミターで砕きながらヤビー・コルボに聞く。
「逆に言うと、此処から先は【使い魔】を進められなんだ」
ヤビー・コルボが、【スケルトン達】を【火球】で吹き飛ばしながら。口惜しそうにそう言った。
「そんなにヤバいのが居るのか?」
ケイ・カインゼルが緊張感と、好奇心の入り混じった声でヤビー・コルボに聞く。
「──あぁ、とっても厄介な奴が、な…」
ヤビー・コルボはそう言うと、軽くため息をついた。
「どうしたんだ? ヤビー・コルボ…──‼」」
ケイ・カインゼルが、おもむろにダンジョンの奥へ視線を向ける。
「来たようだな、このダンジョンの中ボスが」
ヤビー・コルボが静かにそう言った。
「中ボスだって? こいつがか? こいつの気配はまるで…」
そこまで言ってケイは口を閉じた。
青銅製のプレートアーマーを装着したその男は、右手に青銅製のロングソードを持ち。左手に木材と革、そして青銅の枠で補強した盾を持っていた。
オーソドックスな【魔法戦士】の姿、もしくは【魔闘士】か。だが、何か心の奥底でこの【戦士】を『油断するな!』と警告してくる!
「ヤビー・コルボ、こいつから出てくる殺気に身に覚えがあるんだが。冗談では無くて!」
「来るぞ! ケイ‼」
ヤビー・コルボがそう言った瞬間。【金属製】の武具を身に着けているとは思えない『静けさ』で、接近して来た【戦士】が、ケイ・カインゼルを一刀両断しようと剣を振るう。
ケイ・カインゼルも、全く音を立てずに【戦士】の右側。つまりロングソードを持っている為、防御の薄い方向へ足を擦る様に体を移動させる。
ケイ・カインゼルの目に、この【戦士】が隠していた急所がまる見えになっている。
首筋、右脇腹などの即死又はそれに限りなく近い急所。
あるいは。相手の攻撃力を大幅に減らす右腕への攻撃、それとも動きを下げる為に、右足の腱や筋を切るのも良い。
「ア!」
この【戦士】一瞬自分の『急所』を大きくさらして、こちらの攻撃を止めやがった!
「こいつ!」
思わずそう声が出る! まさか自分の得意技で裏をかかれるとは思わなかった!
【戦士】は、先ほどの大振りを押さえて、攻撃をかわすには。丁度良い大きさの盾で上半身を隠して見せる。
『正攻法もうまくて、トリッキーな手も良く使う。何なんだ? こいつは⁉』
ケイ・カインゼルの顔に焦りの色が付く。
「ケイ坊主、ワシに出来る事はあるか?」
ヤビー・コルボがそう言って来る。だからケイ・カインゼルはこう言った。
「出来るだけこいつの仲間を蹴散らしてくれ。そうしないとおれは、負ける‼」
ケイ・カインゼルはそこまで追い詰められた。
「分かった、勝てよ!」
ヤビー・コルボはそう言って、相手に背中を見せないように後ろに下がる。
「『勝てよ!』か、勝てる見込みはアノ【戦士】の方が高いなぁ」
そう言いながらも、ケイ・カインゼルは。今の構えを崩さなかった。
ケイ・カインゼルの装備は【冒険者】が愛用する。レザーアーマーに、ナイフが二本、と言ういたって普通の装備だった。メインウェポンがソードでは無くシミターであるのが、変わっていると言えばそれだけだった。
それに対して今相手にしている敵の装備は。青銅製のロングソードに、同じく青銅製のプレートアーマー。そして小さすぎず。かと言って大きすぎない、木材を多く使われた盾だけだった。
──十分後──
ケイ・カインゼルと【敵戦士】の睨み合いはまだ続いていた。
心成しか相手の【戦士】に、若干息の乱れが出て来たようだった。
もちろん、ケイ・カインゼルにも呼吸の乱れは有ったが。それでも後二十分は平気だろう。
突然相手の【戦士】が突撃をして来た。百七十五セチ・メール(約百七十五センチメートル)のプレートアーマーを装着した、男が突進して来る!
【瞬発力強化!】そうケイ・カインゼルが【呪文】を唱えると。その姿は消えてしまった!
【戦士】の顔を覆う覗き穴では、ケイの動きをとらえる事は出来なかった。
ケイ・カインゼルは、【戦士】の真上に跳んだのだった。
ダンジョンの天井と【戦士】の頭。そのギリギリをかいくぐって、【戦士】の後ろをやっととらえたケイは、シミターの切っ先を【戦士】の脊髄に突き刺した。
【戦士】は一瞬、身体をケイレンさせると。その場に倒れた。
ケイ・カインゼルは大きく深呼吸をして、しゃがみ込んだ。
ケイ・カインゼルの勝利は、偶然に近かったがそれだけでは無い。
ヨロイの中は蒸し暑いのだ。古今東西歴史に存在するヨロイの中で、悩まされて来た問題には、熱いと言うモノが多い。
ヨロイの中で【熱中症】で死んでいった者たちは結構多いのだ。
「さてと、それじゃあお前の顔を見せてもらうぞ!」
ケイ・カインゼルはそう言って【戦士】のフェイスガードを取る。
「………。これは、一体何て冗談だ?」
ケイはそう言うと、呆然と立ちつくした。
それではまた、次回お楽しみに。




