笑み。
最初に動いたのは百五十セチ・メール(約百五十センチメートル)位の少年だった。
頭と顔の半分を覆った少年は、そのままの速度で【冒険者組合】の扉を蹴破った!
「!」
ケイ少年の目に飛び込んで来たのは。のどを切り裂かれたか、あるいは心臓を一突きで殺された【冒険者組合の役員達】だった。
「やめてミシェル・ハーツ! 殺さな‼ グブ!」
ミシェル・ハーツと呼ばれた殺人犯は、一切のちゅうちょも無くその【女性役員の喉を】かき切った。
「任務達成まであと一人」
そう言うと、血油でべとべとになったダガーナイフをクルリと半回転させて。自分の胸に突き刺した!
ケイ・カインゼルがミシェル・ハーツの倒れた所まで走る。
胸に深く刺さったダガーナイフは、心臓を刺し貫く事は出来なかったらしく。傷口から大量の血を吐き出している。
「無駄かもしれないが、止血をしなければ」
ケイ・カインゼルはそう言うと、胸の傷に手を当てようとするが、ミシェル・ハーツの手がケイの腕をつかんでこう言った。
「【魔王】エメク!」
そうつぶやくと、ミシェル・ハーツは大きく息をはいて絶命した。
「【魔王】エメク、彼女は本当にそう言ったんだね?」
ラハス・バレンツがそう言ってケイ・カインゼルを見る。
「ああ、おれの手をつかんでそう言った」
そう言ってケイ・カインゼルは、この都市では珍しく地面に建てられた二階建ての宿屋の窓から、日当たりの悪い外の景色を見てそう言った。
「彼女、たぶん自分でも気づかないで、【魔王】エメクの諜報員にされていたんだと思う」
ケイ・カインゼルはそう言って話を終える。
「いけすかんやり方だ、そんなに裏切られるのがイヤなら。ネズミを【使い魔】にすればいいモノを」
ヤビー・コルボはそう言うと、【鉄製】のメスを壁の隙間から覗いていた、ネズミに向かって投擲した。
ネズミは悲鳴にも似た鳴き声を上げると、アッサリと死んだ。
「ヤビー【念話】は追えたか?」
ヤビー・コルボは首を横に振った。
「だめじゃ、このランダルファ王国には【魔法の建材】が多く使われていて。『糸』を見つけるだけで精一杯じゃ」
「ちょっと待ってくれ、今までの会話は筒抜けだったのか?」
ラハス・バレンツが慌ててそう聞くと、ケイ・カインゼルとヤビー・コルボは、当然のようにうなずいた。
「ここを何処だと思っているんだい、ラハスの兄さん。ここは【魔法城塞都市ランダルファ】だよ?」
ケイがそういうと、ヤビーもこう言った。
「どこでどんな手を使って聞いていて、そして見たりしているか誰にも解からん」
【勇者ラハス・バレンツと、【聖職者】ミーシャ・クロノスそして【魔術師】フェミール・アインは絶句した。
「と言う訳でおそらく今夜、敵の来襲がある──ハズだから。三人一緒に寝ていても良いけど、激しい運動は控えるように」
そう、ケイ・カインゼルが告げると、二人の女性は不満そうな顔をした。
「仕方が無いさ、今日のところはおとなしくしよう。大部屋を貸切るおカネも無いしね」
そうラハス・バレンツが言うと、二人の女性はしぶしぶうなずいた。
──深夜──
下の民達が出入りする階段から、そいつらは現れた。
全身を黒で統一しながら、顔には青白い仮面を付けた【アサシン達】が三人一組で、ラハス・バレンツ達の眠る宿屋を囲む。
問題はその身長だった。
全員の身長は、大人と呼ぶには余りのも低かった。
一番背の高い者でも百五十セチ・メール(約百五十センチメートル)程だった。
一番背の低い者は、百二十セチ・メール程しか無かった。
つまり彼らは『子供』だった。
『子供達』が手に持っているのはナイフ。それも明らかに『刃に何かの毒物』が塗られていた。
一番背の高いおそらく男の子が、左手で何かのサインを送った。
一組の子供達がドアに手を伸ばしてドアノブを回す。次の瞬間、屋根の上で隠れていたケイ・カインゼルが音も無く道路に降りると、背負っていた『鋼』のシミターを引き抜く!
そして、三人の右手を切る。
右手の筋肉もしくは筋を切られた、【三人のアサシン】が悲鳴を上げた!
だが、中の民の住んでいるはずの家には、明かりさえ付かない。
「なある程、つまり我々は此処で誰にも看取られずに、死ぬ。事に成っているって訳か」
ならばこんな包帯で、顔を隠している意味は無い。
ケイ・カインゼルが頭と顔の半分を隠していた包帯を取る。
癖のある黒い髪の毛と、褐色の肌はそのまま闇の中へ消えてしまいそうだったが。青い瞳と白い歯は笑っていた。
そう、ケイ・カインゼルは笑っていた。
あの夜、トム・ハックスと共に自分を見捨てた【元仲間達】に、今日この時の為に隠していた顔。
怒り、憎しみ、絶望。そんな闇の中でこそ輝く『負』の感情が、今まさにケイ・カインゼルの表情として輝いていた。
色々書きたいけれど。
時間切れ。
では、次回お会いしましょう。




