グレーター・グリフォン。
ケイ・カインゼルが立ちあがって、後ろの荷台でウトウトしている、スファ―ク王国の【勇者一行】に叫んだ。
「もうすぐ、国境!」
「何だって、ソレは早すぎる!」
寝落ちしかけていた【勇者】ラハス・バレンツは、思わず荷馬車の前へ歩いて行く。
「どうしたの⁉」
今まで完全に寝ていた【聖職者】ミーシャ・クロノスが【魔術師】フェミール・アインを見る。
「もうすぐで国境ですって」
大きなあくびをして、フェミール・アインがそう言うと。ミーシャ・クロノスもこう言った。
「いくら何でも早すぎます!」
そう言うと自分の背負い袋から、スファ―ク王国を中心に描かれた地図を取り出す。
前方で馬の手綱を握っていた、ヤビー・コルボの左側に座っている、ケイ・カインゼルの右横から。ラハス・バレンツは顔を出す。
「国境、あれ」
そう指さす先には道路の両端に置かれた、二本の石柱が立っていた。
「あれが国境?」
【勇者】ラハス・バレンツが少し拍子抜けしたように、さほど高くも無い成人男性程の高さの国境線を見た。
「やはりおかしいです私の地図では、あの国境線はもう少し北東にあるはず!」
地図と国境線を見比べて、ミーシャ・クロノス大きな声を出す。
すると、ケイ・カインゼルは乾いた笑い声を上げてこう言った。
「地図なんて信じる方がおかしい。人間の主観が入って書かれた図形に、真実なんてありはしない」
「──そうかもしれないけれど、では真実って何処を探せば出てくるの?」
そう言ったミーシャ・クロノスに、ケイ・カインゼルは革のブーツから一枚の金貨を取り出す。
「これなんてどうだい、この物体一枚で人は殺人さえおこす。人類の発明でこれ程“人のこころ”を動かすモノをおれは知らない」
「…そう言うモノが嫌いだから、私は【聖職者】になったのに…」
そう小声で言ってミーシャ・クロノスは自分の両ひざを抱える。
「ハハハ、ミーシャ・クロノスの負けだね。どうだい少年、ミーシャ・クロノスを打ち負かした気分は?」
「ウチマカス。それ、なに?」
ケイ・カインゼルは片言のスファ―クでそう言った。
その後、国境をくぐり抜けた五人は、何処まで続いているのか解らない。平坦な道を更に奥へと進む。
「! ヤビー止まって!」
ケイ・カインゼルがヤビー・コルボにそう言うと。辺り一面見える範囲を隈なく見る。
「今度はどうしたんだい? ケイ?」
ラハス・バレンツがそう言うと、ケイ・カインゼルは真剣な顔でこう言った。
「何かの視線、感じた! とても危険‼」
ラハス・バレンツも回りを見る、だが何も見えなかった。
「ケイ、わたしには何も感じ──!」
今度の視線は、ラハス・バレンツにも感じられた。魔物の視線! それも結構大物の気配!
「あそこ‼」
それは最初小さな点に見えた、だがその点はしだいに大きくなってゆく。
「ヤビー荷馬車の下に隠れて!」
その“魔物”が近づくたびに隠れていた生き物達は逃げて行く。
「ミーシャ、フェミール! 援護してくれ。あいつはこの前の【ドラゴン】よりヤバい!」
体長五メール(約五メートル)はあるその魔物は、ワシの頭と前脚、そして大きなツバサを持ったライオンだった。
「ケイ君も隠れて!」
だが、ケイ・カインゼルこう言った。
「だめだ。逃げられないし、隠れられない! アノ大きさであの速度を出せる相手に、背中を見せたら真っ先に殺される‼」
魔物によくある『突然変異種』と思われる【グレーター・グリフォン】が、しわがれた声で鳴くと大気が大きく振動する。
ラハス・バレンツがブロードソードを、腰から下げた鞘から引き抜くと、ミーシャ・クロノスとフェミール・アインが。それぞれメイスと杖を構えた。
そしてケイ・カインゼルが【鉄製の】シミターを背中に背負った鞘から抜く。
ラハス・バレンツが小さく口笛を吹くとこう言った。
「素晴らしいシミターを持っているじゃ無いか少年」
ラハス・バレンツの言葉に笑みを浮かべてケイは言う。
「おれの師匠からもらった、おれの一番大切な宝」
「来ます!」
ミーシャ・クロノスがそう叫ぶと、高速で飛んでいる【グレーター・グリフォン】が、前脚を突き出して。最初の獲物に襲い掛かろうとラハスの上空を旋回していた。
「最初はわたしか、随分と甘く見られたものだ」
ラハス・バレンツがそう言うと、青銅製のブロードソードに【魔法】をかける。
「【魔法の盾】【筋力強化】【皮膚硬化】ラハス様! これでどうですか⁉」
「何とかなりそうだ! ありがとう、ミーシャ‼」
そう言って光るブロードソードを手に持った。ラハス・バレンツが、ミーシャ・クロノスに礼を言う。
「いえ、ラハス様がお勝ちになるように、手助けするのが私の役目ですから!」
そう言ったミーシャ・クロノスは顔を真っ赤にする。
「ミーシャめぇ、又おいしいところを持って行って」
【魔術師】フェミール・アインがそんな事を小声で言っているその右横で、ケイ・カインゼルも何かを呟いていた。
【全身体能力強化】
「…え…」
フェミール・アインが横にいるケイ・カインゼルを見る。
その瞬間大量の【マナ】がケイの身体に吸い込まれて行くのを、フェミール・アインが目ではなく第六感覚で察知した。
「この子、今何と言った? 【全身体能力強化】⁉ あり得ない!」
フェミール・アインがそう言いたいのも解かる、『肉体の強化方法』は段階的に行うのが普通の行ない方だった。そうしないと『体』が悲鳴をあげてしまう! 精神的に無理がかかる! だがケイ・カインゼルの体で起こっている事は、そんな一般常識を覆すモノだった。
「ケイ君あなた、そんな無茶な【魔法】を体に流して平気なの⁉」
するとケイ・カインゼルは、少し呼吸を速めながらこう答えた。
「おれ、この【魔法】しか使えない。だからいっぱい練習した」
『──そう言う問題じゃあないのだけれど』そう考えていると、ケイは更なる爆弾を起爆させた。
「おれの師匠、更に凄い。【魔法戦士】なのにこの【魔法】更に、強くかける!」
──なるほどとフェミール・アインは考える。そんな【化け物じみた師匠】が平気な顔をしていたせいで、この子も【それが当たり前】という考えに至ったのか。
今の内に、自分がどれ程【とんでもない魔法の使い方】を、しているのか教えるべきか。いやでも、その方法で【魔法】を使っているのも事実だし。
ケイ・カインゼルは、悩み始めたフェミール・アインから視線を【グレーター・グリフォン】に移すと、そこには今にもラハス・バレンツを襲おうとしている【グレーター・グリフォン】を見る。
「フェミールの姉さん。ラハスの兄さんが危ない!」
フェミール・アインはそう言われて、【グレーター・グリフォン】に振りむきざま【氷の槍】を飛ばす!
アノまだ若い【ドラゴン】に致命傷を負わせた【必殺の一撃】だが、その【氷の槍】は【グレーター・グリフォン】には届かなかった。
それどころか今の攻撃で【グレーター・グリフォン】の興味が移ったようで、大きなツバサを広げてこちらに走り出す。
「ええ? どういう事⁉」
フェミール・アインは軽いパニックに襲われた。そしてそれは起死回生のチャンスを逃がすのに充分だった。
フェミール・アインは目を強く閉じた。
なにか硬いモノがぶつかる音がする。彼女は『死』を覚悟した。だが、ソレは中々訪れない。
「フェミール・アイン! 目をあけてすぐにその場から逃げて‼」
ミーシャ・クロノスの叫び声が聞こえた。
一体何事かと目を開けると、そこで行われていたのは。ケイ・カインゼルが【グレーター・グリフォン】と自分のあいだに入って、【グレーター・グリフォン】の指一本を切り落とした瞬間だった!
戦いが無いなぁ、っと思ったのでここで入れます。
今の所は良いのですが、この後どうなるか。
では、次回お楽しみに。




