ケイ・カインゼル:序章十。
ケイ・カインゼルの修行は続いた。
朝、日も昇る前から昼までが。ミナ・シェリルによる軍人教育まがいの【剣術】と、【身体強化】を。その肉体に覚えさせるための時間。
そして、ぼろぼろになったケイに【回復術】をかけて、昼食を食べてからが。ヤビー・コルボによる【回復術】の座学だった。
最初のうちは『いい加減にしろ! ミナ・シェリル! そして止めろよ! ヤビー・コルボ‼』と言っていたケイ・カインゼルだったが、二ヶ月もする頃にはその生活にも慣れてしまって。ミナ・シェリルが腹痛で倒れて、三日間ベッドから起きられなかった時は。『自主的に』一人で鍛錬を続けたし、ヤビー・コルボが『ミナ・シェリルの看病をしなければならないので、今日は今まで習った所を復習するように』と言われた時も。素直にその自分で書いたノートを読み返していた。
そんな生活を続けて早くも十ヶ月。
ケイ・カインゼルが黙々と腕立て伏せをしていた。人差し指と小指だけで、ヤビー・コルボを背中に乗せて! ケイの口から小さく聞こえる数字は既に千を超えていた。
ケイ・カインゼルがその魔法【身体強化】を身に着けたのは三日前だった。
「おめでとう、良く頑張ったな!」
そういったミナ・シェリルが、ケイの首に腕を絡ませるとギュッと締め付けた。
「ミナ! お前もうすでに酔っぱらっているだろ! く、苦しい」
ケイ・カインゼルが本気で苦しがっているが、そんな事などお構いなしでミナは締め付けてこう言った。
「苦しいのなら、私の教えた【身体強化】で振り払って見せんかぁ!」
そう言いながらワインをラッパ飲みするミナ・シェリル。
「安心せい! ケイお前に教えた【回復術】を使えば、例え首の骨が折れても、直ぐに元通りになるわい」
この二日前に【回復術】を会得した時も、今回のようなバカ騒ぎが起こったので。ケイはこっそりとまきの影に酒類を隠していたが、この二人には無駄だった。
「そうよぉ【身体強化】と【回復術】この二つを、ほぼ同時に教えてもらえるなんて、ケイはとっても『幸運』なのよぉ。て、あれ? ぐったりしている」
ミナの腕の中でケイ・カインゼルは、泡を吹いて気絶していた、ヤビーはこう言った。
「おお、カインゼル。気絶してしまうとは情けない」
「んんあ…。さむい…」
ケイ・カインゼルは、誰かがかけてくれた毛布の中で目を覚ました。
ごそごそと毛布から頭を出して、誰かが閉め忘れたヨロイ窓から外を見る。
「あれは…ゆき?」
ケイはまだ生涯で三度目しか見た事の無い、空から落ちてくる白い物体を眺めていた。
洞窟街は生活環境としては劣悪だったが、ただ一つ良い所を上げたら。一年中同じ気温があげられる。暑くも無いが寒い訳でも無い、真冬の夜中に外で寝ていても凍死する事はない。(まあ、そんなところで寝ていたら。誰かに殺されてしまうだろうが)
「それは本当なの? ヤビー・コルボ」
「間違いない、お前さんの腹から『子宮』を奪ったあの【魔王エメク】は、あの城塞都市ランダルファ王国におる。だが、いかんせん。何処に居るのかまでは分からない」
『【魔王エメク】? いったい誰だ? 聞いた事も無い』
ケイはそっと立ちあがると、気配を完全に消して。扉の影にうずくまる。
「何せあの都市国家は塔に住む上の民と、坑道街に住む下の民とでは生活環境がまったく違う上に、上の民は自分の住んでいる塔以外には、ほとんど興味を持たないし。下の民が住んでいる坑道街も、実際のところ三分の二は人が住んでおらん」
「…そうか…」
ヤビー・コルボとミナ・シェリルは、しばらくの間黙っていたが。ヤビーが小さな声でミナに聞く。
「腹の具合はどうなのだ?」
「…私の子宮はまだ生きている。一ヶ月に一回体がだるくなるし、一年ごとに十ヶ月は何か得体の知れない、生き物の子供を孕ませられる。──クソ!」
ケイ・カインゼルはそっとその場から離れて、毛布の中にもぐり込むと考えをまとめる。
『つまりミナがあそこで現れたのは、その【魔王】エメクとやらの所在探しだと言う訳か』
ちょっとモヤモヤするが、そうだよなぁ。おれだって自分の身体は大切だ。例えばおれの『睾丸』を抜き採られて、どこかの得体の知れない生き物のメスに胤付けされて。突然現れた化け物に『パパー』って呼ばれたら──ウウ、考えただけで虫唾が走る。
『ミナは今この瞬間もそんなおぞましい事に、自分の体が使われている』
ケイ・カインゼルは、仲間に裏切られた事を今現在も忘れていない。特に背中を切りつけて来た、金髪ロングヘアー野郎のトム・ハックス。あの男への復讐は何があっても成し遂げたい。
『だが、おれは義理堅いんだ。一宿一飯どころでは無い借りは、何としても返さなければならない!』
【魔王】エメク。貴様のいのちは何があっても取らせてもらう。
ケイ・カインゼルが、そう決意しながらうとうとし始めた時。玄関のドアが勢いよく開かれた!
「ケイー‼ おねむの時間にはまだ早いぜぇ‼」
「そうじゃ、そうじゃ‼ 今夜は夜通しパーティーじゃぞい‼」
そう言ってヤビー・コルボとミナ・シェリルが、酒瓶をふり回しながら入って来る。
「ええ? まだ飲むのかよ、アンタら⁉」
「当ったり前じゃない! 私達のかわいい弟子の誕生なのよ! これが酒の種ってえ訳よ!」
そう言ってミナ・シェリルとヤビー・コルボは、ケイのくるまっている毛布を挟んで酒瓶をラッパ飲みし始めた!
「いい加減にしろ! この酔っぱらい共ぉ‼」
こうして【魔闘士】ケイ・カインゼルの誕生会は、酒臭く続いて行くのでした。
さて、ここまでで。ケイの序章は終わります。
次は、ラハス・バレンツの序章を終わらせないといけません。
でも、ここからが大変なのです。
何故なら、殆んどお話しが出来ておりません!
で、では皆さん次回お楽しみに。




