ケイ・カインゼル:序章七。
その夜、別に娯楽のある場所では無いので、夕日が落ちてしまえばサッサとランプの明かりを消して、各自の部屋で眠りにつく時間だったが。その夜だけは違った。
「さてケイよ。おまえは自分がどれだけ、特別な存在か解かっているか?」
「いやおれは、人より三分の一成長の遅い【変異体】の“見た目は子ども中身はオッサン”位としか考えた事はないが…」
そう言って木の椅子に座っている姿は。元チルドレンギャングの頭とは思えない、十歳のチンマリとした少年にしか見えなかった。
「ふむ、ではミナ・シェリル女史。君にはいまケイ・カインゼルがどう見える?」
「ハイ、今の私にはとても遅咲きの希望に見えます!」
ケイの隣に座っていたミナ・シェリルは。いきおい良く立ち上がると開口一番でそう言いはなった。
「ぇえ! お、おれが希望⁉ ミナこのおれの事買いかぶりしていないか⁉」
ケイはミナ・シェリルを見上げてそういうと。ミナ・シェリルは更に付け加える。
「たしかに彼の姿はおさない、ですがこうも考えられる『下手に大人ぶっている子どもより安心してみて居られる』と」
そしてミナ・シェリルは、こう続けて発言を終える。
「ゆうに二百メール(約二百メートル)はある塔の上からいのち綱だけで飛び降りる度胸。それだけでも感嘆にあたいするのに、彼がみせた坑道街での『他人を巻き込ませない逃走方法』などには、私は拍手を送りたいと思います!」
ケイ・カインゼルは思わず顔を赤くする。
「うむ、という事はジャイアントバット共との逃走劇を、だいぶ前から見ていた。言う事だね?」
ケイにしてみれば『そんな前から見ていたんなら、サッサと助けろ』と言いたいが、ミナ・シェリルの顔には興奮冷めやらぬ。と言う感情が輝いててケイは何も言えなかった。
「ハイ、ドクターヤビー・コルボ! あの逃走劇には私は十点中十点を捧げます‼」
うむうむと、うなずく【やぶ医者】ヤビー・コルボは、ミナ・シェリルに更に聞く。
「それで? ミナ・シェリル君。キミの見立てではケイ・カインゼルは【魔術師】として、何処まで行けそうかね?」
ケイ・カインゼルの顔に緊張が走る。
「それなのですが…、もはや精神的に完成されている為。あらたに【特殊能力】を覚えられても、二つ~三つがせいぜいかと」
ケイの口からため息が出る。
「なぁある程。つまり君は、ケイ・カインゼルの教育方針は【魔闘士】いっぽんで進む方が、正解だと思っているのだね」
「──え?」
ケイ・カインゼルの口から思わずそんな声が出る。
「はい、ドクター。彼には広く浅くではなくて。狭く深く【魔法】をおぼえさせる方が正解かと思います」
「ええ? おれ【魔術】をおぼえても良いの?」
ケイが思わず椅子から立ち上がると、ミナ・シェリルとヤビー・コルボの二人を見る。
「正式には【魔闘士】は【魔法戦士】とは違うが、まあ、そう言う認識でまちがい無い」
そう言って、ミナ・シェリルとヤビー・コルボの二人は。ケイ・カインゼルの肩をたたく。
「──やったー!」
ケイ・カインゼルは大きな声で叫んだ。そのすがたは希望に満ちたまさに少年のすがただった。
「やれやれ、これからわしも忙しくなるわい」
ヤビー・コルボはそう言うと、ポンポンとケイの肩をたたき続ける。
「──え、ヤビー・コルボ。あんたも【魔術師】だったの⁉」
「いまさら何を言っている、ナイフの傷が三日で治る訳があるまい」
呆然とするケイ・カインゼルの肩を叩き続けながら。ヤビー・コルボはこう言った。
「授業料は高いぞ、しっかり稼げよ」
さて、どうしよう。
「ケイ・カインゼル修行編」とでも付けようか。
後で考えます。
では、次回お楽しみに。




