ケイ・カインゼル:序章一。
その都市国家の歴史は古く、実に五百年もの長きに渡り。この地域最大の人々の住む場所として機能し続けていた。
その結果、この都市国家ランダルファ王国は、いささか奇怪な姿をさらす事となっていた。
まずこの場所には、『きわめて頑丈な岩盤の中』に。多くの宝石類の資源が眠っていたため、この地に根を下ろした人々は『岩盤』を、下へ下へと掘り進んで行く事となった。
『ほぼ無尽蔵』とさえ、当時の人々は考えた結果岩盤は露天掘りされ、ついには直径十キ・メール(約十キロメートル)もの大穴を作ってしまった。
だが、この世に『無尽蔵』にある物など無い。
最後の最後に、とても大きなダイヤモンドを掘り出して。ここにランダルファ宝床も終わりを告げた──はずだった。
ランダルファ宝床の西側、わずか千五百メール(約千五百メートル)の場所で、新たなる鉱山が見つかったのだ!
すっからかんになってしまった、この地に見切りをつけて新たなる鉱山に向かう人々が、多数いた中で、この地に留まる人々もいた。
彼らはこう考えたのだ。
「ここからたった千五百メールしか離れていないので在れば、ここで鉱山から掘り出される宝石を加工した方が、儲かるのではないか?」
彼らの考えは正解だった。
新たなる場所で改めて一から町を造り出すより、いま有る機材を使って此処で、加工、販売、輸送をおこなう方が効率が良かった。
こうしてランダルファは都市国家へとなった。
実に三百年ものあいだ掘り進んで作られた、十キ・メールの穴の回りに今度は上へ上へと、建物が作られて行った。
最初こそ石と木材、そしてレンガで作られていたが。ある【魔法使い】が思い付いた。
「魔法で建材を作れば、良いのではないか?」
その発想に、都市の建築を行っていた【土木組合】が飛びついた。彼らもこの工事が『従来の建築作業では、いつ終わるのか』分からなかったのだ。
こうして都市の建築に、大々的に【魔法】が使われて。五十年かかるとされた建築作業はわずか一年ですむ事となった。
こうなると人と言う生き物は、欲が出てくる『五十年かかる作業が一年で済むのなら、この作業を五十年続けたら。どの様な都市が誕生するのか!』
こうして五十年は百年、いや二百年続けられて。
『鉄で、触れない限り消える事の無い【魔法都市】』が作られたのだった。
薄暗い穴、元々は坑道だったトンネルの中から。癖の強い黒い髪を持つ褐色の肌を持った十歳ぐらいの少年が上を見ていた。
「ケイの兄貴、こんな所で何をやっているんです?」
ケイと呼ばれた少年は、鉱道の奥からやって来た、十五歳ぐらいの青年から『兄貴』と呼ばれても。ソレが当然と言わんばかりの態度をとってこう言った。
「空を見ていたんだ」
「…空、ですかい? ここからじゃあ空なんてほとんど見えませんが?」
トム・ハックスは怪訝そうにそう言うと、『兄貴』と呼ばれたケイ少年はこう言った。
「あの太陽を全身で浴びる事の出来る『金持ち』は、どんな気分なんだろうって考えていた」
その言葉を聞いて、トム・ハックスは。ケイと呼ばれている少年が、何を考えているかを理解した気分になる。
「ああ! 次の仕事の事をお考えでしたか! さすがは兄貴かんがえる事が早いっす‼」
ケイ・カインゼルは坑道の奥から、自分を尊敬のまなざしで見る、トム・ハックスに視線を合わせてこう思う。
『こいつは【健常者】なのだから、おれなんかに付き合わず。真っ当な暮らしをすれば良いのに』
ケイ・カインゼルは侮蔑の視線で、トム・ハックスを睨む。だが、ケイ・カインゼルのそんな姿は、坑道の出口から差し込む天然のひかり。太陽の逆光の為に異様な迫力を醸し出しているだけだった。
ケイ・カインゼルは普通の少年では無い。成長が普通の人々より三分の一遅い【変異体】として生まれ落ちたのだ。
ケイ・カインゼルは今年で二十八歳になるが、外見年齢はよくて十歳ぐらいに見えた。
その為、ケイ・カインゼルがトップとなるギャング団は、五年ごとに一旦解散して。半年から一年後にまた復活する。今まで三回、このやり方でギャング団は、破壊と再生を繰り返してきた。そしてその都度トップになったのは【ケイ】と言う少年だった。いつしか都市国家ランダルファの闇の世界では、こんなうわさ話がささやかれていた。
『このランダルファの裏では、ある一族が暗躍している。彼らは決して表舞台には立たない、彼らこそこのランダルファの犯罪を、仕切っている真の犯罪一族だ』と。
ケイはまだ知らない。今までゆっくりと動いていた運命の歯車が。いま、その速度を速めて動き出した事を。そしてそれに、どういう意味があるのかを。
──いまはまだ知らない。
新作です! ほとんど準備も無い今現在、なぁあぁんにも語る言葉がありません。
でも新作何です! 暖かく見守ってください。
では、次回お楽しみに。