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⑩(完結)

 朝六時、鳴り響くアラームを止める。

「んー……昴生、朝だよ」

 寝ぼけ眼を擦りながら、隣で眠る昴生の肩を揺する。もぞもぞと身動ぎをして、昼夜問わず整っている顔が布団から出てきた。

「おはよ。今日早番だろ?」

「……はよ」

 ゆっくりと身を起こした昴生は、しかしまだ眠そうだ。

 大学を卒業して一年経った。そして二人暮らしを始めてからも一年。俺は飲食店へ、昴生は大学時代にバイトをしていた清掃会社へ就職し、毎日それなりに充実した日々を送っている。

 初めてのボーナスで買ったお揃いのオーダーメイド枕は、奮発しただけあって目覚めが良くなった気がする。特に同じベッドで寝起きしていると二人同時に起きることも多く、寝坊の防止には最適だ。

 着替えを済ませてキッチンへ向かうと、先に身支度を終えていた昴生がコンロの前に立っていた。

「今日は何?」

「目玉焼き」

「昴生はそればっかりだな」

 結局、昴生の料理の腕はあまり上がっていない。それでも学生の頃に比べたら大分上達したんだけど。

 家事は二人で分担している。最初は当番制にしていたがどうも上手くいかず、今では手が空いている方がやれることをやる、という形に落ち着いた。相手の動きを見ながら自分が何をすればいいか考えて動けるようになったので、俺たちにはこっちの方が合っていたらしい。

 昴生が卵を割っている間に、俺は食パンを焼きながらコーヒーを淹れる。トーストの一枚にはバターといちごジャムを、もう一枚にはシナモンシュガーを。

 何年も愛用しているシナモンシュガーは、少し前に瓶のデザインがリニューアルした。味と香りは相変わらず最高だ。

 変わるもの、変わらないもの、長い人生においては色々ある。そのどちらも大切で、愛おしいものだ。


 トーストとコーヒーをダイニングテーブルに運ぶと、ふと卓上に何かが置かれていることに気づいた。名刺ほどの大きさの白い封筒だ。

「何だこれ?」

 昨日寝る前にはなかったはずだ。封を開けてみると、メッセージカードが入っていた。

 そこにはよく見知った筆跡の小さな文字で、たった一行だけ。


『いつも感謝してる』


「昴生、これ……っ! どうしたんだよ、いきなり」

「深い意味はねえよ」

 ばたばたとキッチンに戻りカードを見せると、昴生は照れくさそうにそっぽを向いた。胸がいっぱいになり、昴生の左手に俺の右手を重ねた。薬指のペアリングをなぞるように触れ、ぎゅっと手を握る。

「へへ、ありがと。俺、昴生のこういうところ、すげー好き」

「……冷める前に食うぞ」

 もう一度強く手を握り直し、そっと離して、向かい合って席に着く。いつものメニューが今日は一段と輝いて見えた。


 一緒にいる理由とか、幸せとは何かとか、そう難しく考えなくていい。

 シナモントーストと温かいコーヒー、そしてそこに大切な人がいてくれれば、それで。

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