夢なのかもしれない
「……先生……!!」
僕は車から降り、建物を眺める。
僕の目の前にはあのマンションがそびえ立っていた。
「約束……したからな」
先生はそう言うと優しく僕の頭に触れる。
僕は思わず涙が出そうになった。
だって。
だってここは、ケンタと一緒に良く来た『秘密基地』だったから。
マンションが出来る前までは、広々とした空き地で、ちょと高台に位置しているから星を見るのにうってつけの場所だったんだ。
僕とケンタの秘密基地。
「このマンションを見たとき、なぜかここに住まなくちゃいけないって思ったんだ。
――何故かは最近まで知らなかったんだけど……『秘密基地』だったんだな……」
ぽつりと呟くその言葉は僕に向けてなのか、加藤自身に向けてなのか――またはその両方なのか。
相槌なんかを打ってあげれば良かったのかもしれないけど、僕は驚きでいっぱいだったから、ただマンションを見つめていた。
「コウ? とりあえず中に入ろうか?
セッティングもしなきゃいけないし」
加藤がそう言い、僕をマンションの中に促す。
僕は夢でも見ているんじゃないだろうか?
ぼんやりと歩く僕はなんだかふわふわとした、現実的じゃないような感覚に陥っている。
あ、そうか。
これ、きっと夢なんだ。
そう。夢。
夢。
夢か。
……。
――もし、夢だとしたら……どこから何処までが夢、なのかな?
そんなことをぼんやり考えていたら、加藤の顔が僕の目の前にいつの間にかあって驚いた。
「なっ! なんですかっ! 」
僕は加藤の肩を両腕で突っぱねる。
「それを言いたいのはこっちなんだけどな」
加藤はやれやれといった感じで僕から離れると肩をすくませた。
「観測ののセッティングするから手伝ってくれって言ってるんだけどな」
「観測……あっ! す、すみませんっ」
僕はあたふたと天体望遠鏡のケースを開ける。
すると中身は既になかった。
「あれ? 」
「おい。コウ。
それはここに出してあるってば」
加藤はくくくっと笑いながら「いつもの観測用の用紙の方だよ」と僕に教えてくれた。