買出し準備じゃなかったの?
「先生? 何処で天体観測するんですか? 」
僕は加藤をじろりと見る。
「秘密の場所」
そういいながら加藤はちらりとミラーを見てハンドルを動かした。
――今僕はなぜか加藤の運転する車の助手席に座っている。
あの後、急に加藤が「いくぞ」と言い出した。
僕はてっきり屋上で望遠鏡のセッティングをするものだと思っていたのだが、外に出るという。
……買出し?? なのだろうか?
僕はうっかり置きそびれてしまったカバンを部室に置いてくると言ったのだが、加藤はその必要はないと言う。
で、車に乗せられて現在に至るのだけれども――。
一体何処に向かっているのでしょう??
「先生?
スーパー過ぎちゃいましたよ?
買出しに行くんじゃないんですか?? 」
僕は遥か後方に見えるスーパーの看板をぼんやりと眺めながら言う。
「――違うだろ――」
「はい? 」
「二人でいるときは先生って呼ぶなよ。
この前そう言ったろ? 」
加藤はちらりと横目で僕を見ながら言った。
えーっと。さっき僕の質問にはスルーなんですか……?
「そんなの……いまさら難しいですって。
だって先生は……やっぱ先生だし。
急に変えられないって言うか――」
『それに、まだやっぱり信じられないし――』
僕はそう言いそうになって慌てて口をつぐんだ。
脳裏によぎったのは、寂しそうな先生の――ケンタの顔。
全くちっとも似てないくせに、そういう時だけものすごくケンタのイメージとダブって見えてしまう。
――僕だって全然信じてないわけじゃない。
ケンタしか知らない秘密を加藤が言うときとか。
合間合間にみせるちょっとした仕草とか。
そんな時は絶対ケンタだと――自分でも驚くぐらい信じてしまってるのだ。
でもやっぱり、それ以外のときは加藤は加藤であって。
僕の担任で顧問の先生なんだ。
体は大きいくせにすぐ甘えてくるアイツ。
寂しがり屋で散歩好きで、雷には弱くてちいさくなって震えているアイツ。
ケンタのことは1から10まですべて知っていた。
――でも、僕は加藤のことは本当に何も知らない。
何処で生まれた、とか。
好きな食べ物、とか。
どんなところに住んでるのか、とか。
知ってるのは学校の先生ってことくらい……。
僕がそんなことを考えていると、加藤は「着いたぞ」と言って僕の頭を撫でた。
「ここって……」
僕は驚きのあまり目を見開いた。
「俺、今度の星空の会はここでしようって、そう思ってたんだ」
加藤はそう言うと照れくさそうに笑った。