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第6話 魔王というのは禁句

俺は何を言えばいいのかわからなくて頭が混乱し、その場から走って逃げだした。

今さら、俺の名を呼ぶな。

認めたくない。認めるものか。

十六年間も自分の子供を放っておいて、今さらのこのこ登場して、異世界で魔王やってましただと?

一体どんなドッキリなんだ。冗談じゃない。ふざけるな!


社務所まで走っていくと、狩野がニコニコしながら手を振っている。


「おーい斉木! もうお食事会の準備できたよー」


「やばいやつだった。召喚して現れたのは、やばいやつだ。俺をかくまってくれ」


「はぁ? ダメだよ。もう準備しちゃってるんだから。さあさ、どうぞ会場へ」


狩野は俺の白衣の襟をつかんで離さない。

なんでこんな時に限って、狩野の腕に力がみなぎっているんだ。


俺は狩野に引っ張られて、歓迎会の大広間の近くの廊下まで連れてこられた。


「じゃ、斉木がんばれよ。俺は母ちゃんたちの手伝いがあるから。後でな」


「おい、俺を置いていくな。俺も狩野と手伝いをする」


「何言ってるんだ。お前は斉木だろ、この神社の跡取りが表に出なくてどうするんだ」


「でも」


「心配するなって。どうせ会が始まっちゃえばいつも通りに下座に座るんだろ。俺たち家族も下座に座るからさ」


「本当だな。絶対下座に座れよ」


狩野は笑いながら台所へと去って行った。

モブ爺ちゃんと異世界から来た人たちも社務所に入って来た。

魔王がきちんと履いていたブーツを脱いで中に入ると、あのおかしな三人組もそれに習って履物を脱いでいる。

俺は急いで柱の陰に隠れ、魔王だった男に見つからないようにした。

異世界から来た人たちは「どうやらこの国では家に入る時に履物を脱ぐみたいだな」とかぶつぶつ言っている。

ただ、魔王だった男だけは全て悟ったかのように腕組みをしたまま静観している。

その所作がこわいんだよ。

ふすまの前でモブ爺ちゃんとあいつらは何か話しあいを始めた。

ああ、狩野がそばにいてくれたら。

しかし、俺はあの場から逃げた自分を戒めて勇気を振り絞り、何食わぬ顔をして爺ちゃんの側にそっと並んでみる。

モブ爺ちゃんは勇者たちに頭を下げてお願いしていた。


「蒼と一緒にこちらの世界に来たお嬢さんとお兄さん方、この神社の氏子たちが歓迎会を開いてくれることになっています。

いきなりで申し訳ありませんが、ひとつ自己紹介とかしてくれるとありがたいのですが」


「歓迎会? よその国でそんなことしてもらうのは初めてですわ」


「魔王が魔王でなくなったのなら、俺たちここにいる意味ないんじゃね? さっさと元居た世界に返してもらおうじゃないか」


お嬢様と青髪は歓迎会という言葉に戸惑って言った。

すると、魔王だった男は、


「それは、悪いが無理だな。あきらめろ」


「無理だと?どういう意味だ」


「異世界との結界は閉じられた。もうあの世界には戻れない」


「何ですって。悪い冗談はやめてくださる?」


「冗談で言っているのではない。お前たちがわたしと一緒に召喚されたのには何か意味があるのだろう。それに、ここの世界もそう悪くはない。」


モブ爺ちゃんが申し訳なさそうに頭をさらに下げた。


「それと、お願いばかりして申し訳ありませんが、蒼が魔王だったということは他の者には内緒にしてくれないでしょうか。

もちろん、ただでとは申しません。この世界に引き留めることになりますから。

お詫びにお嬢さんとお兄さんたちの食事も今後住むところも、こちらでご用意させていただきます。なにとぞ何卒」


「蒼っていうのか魔王は」


銀髪が青髪に注意した。


「クロード、ダメですよ。魔王っていう言葉は禁止だそうです。とりあえず、生活できるようにしてくれるみたいだからここは言うことを聞きませんか」


「そうね、ルイの言う通りだわ。帰ったところで、魔王がいなくなった世界で何と戦うのか目的が不明瞭だわ。

こっちで生活してみてダメだったら帰ることにしたらいいじゃないの。

住むところと食糧確保できるのなら悪くない話ね。わたくしは乗ったわ。

クロード、よろしくって? 今からこの人は魔王ではなくて蒼さんと呼びましょう」


「はい、お嬢様がおっしゃるならしょうがねえな。わかった、魔王は禁句な」


モブ爺ちゃんとお嬢さんと銀髪が人差し指を口にして「しーーーー! だから禁句」

蒼という人はきまり悪そうに言った。


「悪いな、お前たち。わたしのために・・・」


「勘違いしないで。蒼さんのためじゃないわ。わたくしたちが今後生きていくためよ」


なんだか、蒼という人はこの勇者たちと打ち解けているように見えた。

異世界で今まで共に戦ってきた有志通し、アクシデントが起こると協力しあうものなのだろうか。

俺には関係ないけど。


ふすまを開けて大広間に入る。

そこには長方形の折りたたみ座卓テーブルを二つ出して、やや正方形になるように並べられていた。

味噌汁の匂いがふわっと香り、座卓には大量の塩結びときゅうりの漬物が並べられているがこんな純和風でいいのか。

来客用の座布団まで用意して、きちんと並べられている。

いつもの氏子の会議の並びと同じで、モブ爺ちゃんは上座に座った。

俺もいつも通り下座に座ろうとしたら、蒼という人が先に座ってしまった。

あんたがそこに座ったら俺は狩野と離れてしまうだろ。

なんとしてもこの下座を死守しなくては・・・・

もう出ない勇気をもう一度振り絞って、蒼という人に話しかけた。


「あの、そこ、俺の席」


「え? そうか、すまん。いつもの癖で」


「おーい蒼! こっちじゃ、こっちじゃ。俺の隣に座れ」


モブ爺ちゃんに呼ばれて蒼という人は、上座に行った。


「異世界のお嬢さんとお兄さん方は、蒼の横に並んでください。皆に紹介しますから」


「げっ! 魔王の隣に座れと言うのか?」


「正確に言うと斜め向かいです。それと魔王というのは・・・・・禁句ですから」


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